持ちつ持たれつという奴です
前回のおさらい。
俺こと湯朝安昼は人生ゲームを駆使して楓夕と人生を歩んでやろうと意気込んだのだが、スタートダッシュに見事失敗。
貧乏を物ともしない散財行為を繰り返した結果、借金生活へと転落したのだった。
その後は俺も楓夕も無事結婚し、人生の中盤へと差し掛かった最中。株を握りしめた俺は人生の大逆転を図っていた。
「家も買えずに借金と株を握りしめるなど」
「…………」
因みに楓夕は所持金30万ドルを突破、火災保険と5万ドルの家を保有。
対する俺は借金6万ドルと1万ドル保有、当然資産はなし。
「こ、こんなので楓夕を幸せに出来るものか……!」
「……私の番ですね。子供が生まれる、お祝いで2000ドル貰う」
「こ、子供だと……? そうかぁ……名前は何にするかなぁ……」
「いいから早く2000ドルを渡せ」
「はい」
楓夕が順調さをキープしているのは嬉しい限りだが、俺が彼女に迷惑をかける存在ではあってはいけない、何とか一発逆転しないと……!
「株が暴落、1枚につき2万ドル払う」
「2枚なので4万ですね」
いや、株怖すぎんだろ……絶対現実世界では手を出さねえからな。
「では次私――おや、転職ゾーンですね、これで貴様も少しはマシな生活が送れるでしょう」
「お、マジか、これでようやく……!」
給料数千ドルの生活では到底楓夕を養える状態ではなかったので、この機を逃すまいと、俺はいざルーレットを回す。
「10……スポーツ選手! 給料は――よ、4万ドル……!」
か、勝った……! これで幸せな結婚生活を送ることが出来る……!
ここまで下降曲線しか描いていない人生であったが、落ちる所まで落ちれば後は上がるだけというもの。さあいざゆかん!
「宝籤が当たる――5万ドル貰う、はい。貴様の番です」
「任せておけ! どりゃああああああああああああああああああああああ!」
2。『自分探しの旅に出る、職業カードを返却してフリーターになる』。
「……流石に気の毒になりますね」
「こんな即落ち2コマある?」
こ、こいつ……楓夕という素晴らしい伴侶を得ておきながら何処まで破茶滅茶な男なんだ……いや俺の分身だけどさ。
何があってもこのような男にだけなるまいと、俺は心の中で力強く決意をするが、その後も浮上する気配のないままゲームは進んでいく。
気づけばゲームも終盤に差し掛かり、相変わらず借金生活を抜け出せない俺に対し、楓夕の資産は50万を超える様相に。
「……俺は人生ゲームがこんなに怖いものとは思っていなかったよ」
「貴様の状況が特殊過ぎるだけかと」
「せめてこの借金だけでも返済出来ればいいんだが……ん?」
最早藁にもすがれない状況下で回したルーレットが奇妙な青マスを指し示す。
「仕返し? 『誰か一人から10万ドルを貰うか、1回休みにする』か――」
「対象は私しかいないので、どちらかお好きな方を選んで下さい、まあ現状を考えれば10万貰うのが懸命ですが――」
「いや、別に楓夕に仕返ししたい訳じゃないし、いらないかな」
「……は? いや、あくまでゲームですから、ルールとして――」
「いや……それは勿論分かってるし、ゲーム如きで何いってんだっていうのも尤も過ぎる話ではあるんだけども……その昔のことを――」
「昔?」
人生ゲームというのは親戚が集まると大人も一緒に囲んでするものなのだが、実はその時俺はこの仕返しマスの攻撃を受けたことがあった。
今となっては誰かは覚えていないが、無論その人に悪気があった訳はないし、確か俺は今の楓夕くらいの金額を持っていた筈なので当然の展開ではある。
だが、俺は10万ドルを渡したくないと酷くゴネたのだ。子供ながらのみっともさではあるが、やはりその後のゲームの空気が少し悪くなった記憶がある。
それが俺の中でまだ残っていたのだろう。だから何というか、そういう空気を持ち込みたくないと思ってしまったのである。
「……はぁ、貴様という男は――」
――すると、そんな俺を察知したのか、楓夕は小さくそう呟くと、俺にずいっと10万ドルを渡してきたではないか。
「へ? い、いやだから仕返しは――」
「これは、私と貴様の人生ゲームなのでしょう」
「え――ま、まあその気分でやってはいたけど――」
「だったら持ちつ持たれつという奴です。片方が大変な時は一方が支え、一方が大変な時は片方が支える――人生とは、そういうものですよ」
まあゲームでそんなやり取りをしてどうするのかという話ですがと、楓夕はぶっきらぼうに10万ドルを置いたのだった。
「楓夕……」
楓夕はあくまでゲームを進行させる為に言ったのだと思うが、俺はその言葉がストンと胸に落ち、何とも言えない心地よさを覚えてしまっていた。
うん……やっぱり楓夕は史上最高の許嫁なんだな。
「……さて、これが終わったらおやつにでもしましょう」
「そうだな。あ、そういえば冷蔵庫に貰ったケーキがあったな」
「そういえばそうでしたね。ではこの10万ドルの代償はそのケーキを全て貰うということで償って頂きましょう」
「ぐ……ふ、楓夕がそう言うのであれば……!」
「冗談ですよ」




