7話 リルへ、母より
テル先輩は相談話を聞いてくれた後、会場の片付けをするため校舎へと戻っていった。
テル先輩が去った後の部屋は、静寂に包まれている。
窓から、陽の日が入っているだけで他はなにも聞こえない。
ただただ、無………
「ふわぁー」
「わっ!!びっくりした、ヴァルいたのね」
「あ?ちょっと昼寝してた、眠かったもんで。リル、まさか俺のこと忘れてたとかはないよな?」
ご名答です。
テル先輩との会話に夢中になってヴァルのことをすっかり忘れてしまっていました。
そして、ヴァルのあくびに驚いてしまいました。
「も、もちろん、忘れるわけないじゃない」
「なんか怪しいぞ!ほんとうか?」
「ほんとう、だよ……」
「ふーん」
ヴァル、信じてくれたかな?なんか、生返事だったきがするのだが、気のせいかしら?
「なあ、リル。部屋にはリルと俺しかいないし、今のうちに荷物の整理してしまったらどうだ?幸い、ホームルームまでは、一刻もあるだろう」
「ええ、そうするわ。はあ〜」
仕方なく片付けをしぶしぶ始める。
片付け、苦手なのよね。けど、いつまでも片付けずにしておくというわけにもいかない。
華月の里ではマイルームがあって部屋自由ものが散らかっていた。
ここは、自分だけの部屋ではないし、授業が始まったら、毎日時間割をしなくてはいけない。それなのに、毎回カバンから探すのは片付けよりもっと大変だ。
教科書とノートは棚に立てかけ、多めに持ってきた衣類はクローゼットになんとか入れた。
服が多かったのか、クローゼットが小さいのか。さて、正解はどちらだろう?
両方だな……。
クローゼットの扉が少し浮いているのはこの際、無視する。
最後に時計や小物を置くべき場所へ置いて、ベッドに腰を下ろした時、ヴァルが何か白い紙をくわえてこちらへやつてきた。
「なに、これ?」
「カバンの底に入ってた」
それは封筒だった。
ロウで封がされている。
宛名は私リルへとなっている。差し出し人は、……お母さんだ。
いつの間にこんなものをいれていたの?
一日離れただけで懐かしいと感じる家の香りがうっすらとする封筒を開ける。傾けると中身が溢れた。
中は、癖のあるお母さんの字で書かれた便箋と金色の髪留めが入っていた。
そっと、便箋を開いてみた。
《リルへ
今はきっと忙しいと思うので手短に書くね。
カバンの底に突っ込んでおいたから、この手紙を読んでいるということは、片付けが終わったところよね?
あなたに渡したいものがあってこの手紙を書いたの。もう、見たかもしれないけれど渡したいのは髪留めよ。
なんのへんてつもありませんが歴とした、魔道具でーす。なんの魔道具かって?
それはね、ジャジャーン!
髪の色をプラチナブロンドにする、魔道具よ。
プラチナブロンドが人口割合高いのだって。
リル、よく金色以外の髪だったらよかったのにと話していたでしょう。知り合いに作ってもらったの。これで、新学期から髪のことを心配しなくてもいいわ。しかも、泊まりがけの実習に便利な腕につけているだけで効果のあるスキル付き!
寝ている時も心配なーし。
これで、学校生活を存分に楽しんでね。
(追伸 あなた入学式前に片付け終わらなかった
でしょう?昔から片付け苦手だものね。
安心して。
お母さんの得意魔法で髪の色についての【記
憶】を消すようにしておいたから。
まあ、高位の先生には効かないかもしれな
いけどね)
リルのことが大好きな母より
「お母さん」
私は手紙から目を離して金の髪留めを見た。
つっこみどころの満載な手紙だがお母さんの優しさをたくさん感じることの手紙だった。
そして、知り合いに作ってもらったとしても、かなり魔道具は高価なはずだ。魔道具は作る人の魔力をある限り使い作るもの。一日経てば回復するとはいえ、魔力切れは辛いと聞く。だから高価なはずなのだ。
うちはそんな大金を持っていないはずなのに。
私は、鏡のある洗面台へと行き、髪留めで髪をとめた。腕につけていてもよかったのだが、どうせなら腰まで伸びた髪が邪魔だしくくってしまおうと思ったから。
パチンッ!
髪に何度か巻いて丁度良い強さになった時に指を外した。
音が鳴った途端に、髪の色が根本から先までプラチナブロンドに染まった。
映っているのはプラチナブロンドの髪の女の子。
欲しかった色に今、髪が染まっている。ものすごく気分が高揚している。
「どう?ヴァル」
「どう、と言われてもな。俺にはよく分からないが、リルがいいならそれでいいさ」
ヴァルに聞いたのが悪かったわ。まったく、女心が分かっていないな。
そうよね、ヴァルは雄だし。
私が髪を染めた動機は女心とまったくもって無関係な話だけど。
私は、今一度鏡に向き合い自分に笑ってみせた。髪色だけでかなり気分が変わる。
「ヴァル、行こう!あと十分でホームルームの時間だわ。たしか、入学のしおりに書いてた。私のクラスは一組よ!一年一組。ごめん、ヴァル、乗せて!」
「おう!乗れ、しっかり捕まってろよ。俺は入り組んだ場所を走るのは苦手なんだ」
そう言って私たちは先程確認した一年一組の教室へと急いだ。
リルのつけた髪留めが陽で、キラリと光った。