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33話 天能と王都の城10

突如鐘がなった。

それが開始の合図だったのか、試験官らしいおじいさんがやってきた。というか現れた。転移魔法だ。

サキシアス先生も一緒に。

様子を見に来た、と。


「今から、実際に入院している患者さんを治療してもらいます。一つ、魔力を使わず天能のみ使用すること。二つ、使い魔や自分以外の人の力を使わないこと。以上。質問はありますか?」


「いいえ」


「では呼び出します」


転移魔法で出されたのはベッドだった。

ベッドとそれに寝かされている患者とでも言うべきか。

つまり、起き上がれないほどの重傷者。

他も同じようなものらしくベッドが点在している。


若い男性。

赤茶の毛を持つその人は、苦痛に目を歪めながらこちらを見た。

腕と足が片方ずつない。

まだ傷口が新しいらしく血が滲んでいる。


「初めまして、リル・ライラントです。なぜ………なぜこのような怪我を」


自己紹介をして怪我の原因を尋ねる。

治癒をしやすくするために。


「君が、治し、てくれるん……っすか。ありが、たいっす。お嬢様ちゃん、は、知らないだろうけど、魔物との争い、っす」


話そうとしてくれているがあまりにも苦しそうなので止めた。

魔物…….。魔族とも言われる。

区別はなんだっけ、忘れたけどそれは今どうでもよくて。


争いなんてなくなったのではなかったの?

前提を話すと、この世界『ヴェール』には二つの大陸と一つの島がある。

大陸にはそれぞれ 人と魔物が住んでいて、島には誰もいない。そして 二つの種族は仲が悪い。

だけど、千年前。闇の賢者が光の賢者に負けてから二つの種族が争ったというのは、 少なくても記録には残されていない。

私を含めた市民の認知はこうである。


だから今の話では矛盾が生じてくる。

変わりに試験官に話を聞く。


「数年前から魔族が度々国境に姿を見せる。中には武装したものもいて、そいつらは争い事を起こす。彼はその際の争いを止める騎士か、巻き込まれた民かだ」


なんだか大事を聞かされた気がする。


「サキシアス先生もご存じでしたか?本当の情報なのですか?」


「ああ、一部の人間は知っている。混乱を防ぐため公にはまだ発表されていない」


ふと、メリッサとここに来る前にした会話を思い出した。


『例えば戦争が始まったとすると攻撃か治療か、大切なのはどちらだと思う?』


もしかして知っていたのかな。


「お嬢様、ちゃん」


「はい」


患者さんに呼ばれたのですぐに返事をした。


声を出すのが辛そうだったので、ベッドの鉄柵を握って身をのりだし耳を近づける。


そして彼は言った。

欠損なんて治せないのは知っている。だから、無理しなくていいよ、と。

失敗しても気にしないで、と。


自分はとてつもなく辛いだろうに私を気づかってくれたのだ。


なんでそんなに弱気なのよ。

これくらい誰でも治せるのに。


「隣に友がいるっす。戦いの時に俺を庇ってくれたんっす。病院でも隣で、運がいいんっす。こいつと隣合って死ねるなら幸せっすよ、俺」


息絶え絶えに涙を流しながら語る。

目をやると同じくらいの重傷者がいる。


なんだかやるせない気持ちになった。


天能大会って………大会って何よ。


現地に病院が足りないから、未熟者でもなんでも使えるなら学生にでも治させておけって?

馬鹿にしないでよ。

私はそれでいいわ。

だけど、この人たちのことを考えてよ。

苦痛に耐えてるのよ?

ちゃんとしたプロの治癒師を雇いなさいよ!!


「…………から」


「お嬢、ちゃん?」


「死なせないから、安心して!大丈夫よ!!」


許可を取り、試験官の持っていたカルテをむしり取る

右手と左足の欠損。

大腿骨一本と肋骨が二本骨折。

左手に刺し傷、頬に切り傷。

なんで会話できるのか不思議なくらい。


そっと手のひらを彼の額に当てて唱える。


私はきっと怒っているのだ。

このくだらない大会を開いた人に対して。


「癒し 優しき人に安息を 【ルイース】」


唱えた途端、みるみる怪我が治る。

切り傷や刺し傷は跡形もなく消え、血の滲んでいた足や手があったところからは新しく欠けた部分が現れる。

彼の体を全て包むように光が照らす。

やっぱり天能ってすごい。

こんな大怪我を治しても疲れないもの。


「え!!ヤバい完璧に治ってるっす!!これお嬢さんがしたんすか?」


病み上がりの彼は元気にベッドから飛び起きて、私の手を握りブンブン振りながらお礼を言ってきた。


「お嬢さんありがとう、ありがとうございますっす。夢っすか。あんな怪我が治るなんて夢っすよね」


お嬢ちゃんからお嬢さんに格上げされた。


「えと、現実です」


うわー、頬をつねって確認する人っているのね。

思い切りしたんだろうな。赤くなってる。

そっと無詠唱で治しておいた。


「……………」


賑やかだった彼は急に無言になった。

視線の先には一つのベッドと、その傍らでうずくまる生徒らしき人。

多分治せなかったのだろう。


「お嬢さん……図々しいお願いなのは分かっています。これが試験なのだということも。ですがどうかっ……」


「試験官さん、あのー。担当の人以外を治癒してもよろしいでしょうか?」


「治せるのですか?一人治して限界では?まぁ、マニュアルの台詞には[患者さんを治療してもらいます]としか書いてありません」

 

にこりとして言われた。

つまり人数指定はないということ。

責任が及ばないように含みのある言い方なのだろう。でも、それでも、失格になったとしても結構。

名声も表彰も何もいらない。


だから───。


「大地に宿りし祈りの力 我に集いて痛みを無に 傷を癒し在りし時に 此処に存ずるすべての傷を癒せ【ルイース】」


両手を広げ声高らかに叫んだ。

体力がごっそりとなくなっていく。


ああそうだ、この会場に百人いるのだったわね。

例え体力尽きようとも誰かの命を救えるのなら、いくらでも持っていって。


自分のいる場所を含めて眩しいくらいの光りに包まれる。暖かい……。

力を勢いよく放出したせいで、髪ゴムが取れたのか金の髪がそよぐのが視界の端に映る。


そして周りから声がぼんやり聞こえる。


「噓だろ!?」

「死んでなかった、生きてた!!」

「古傷が……」

「なんで目が見えるの?抉られたのに」

「足が生えてる」


泣き声や歓声。

範囲で治したから百人どころじゃなかったわ。古傷も治せるのね。

やりすぎたかしら。でも後悔なんて全くない。

そして景色が傾いた。


とても眠い。天能を使いすぎたのかしら。

試験中だから起きないと。

だけど、意思に反してその場に倒れた。

だけど地面に打ち付けられることはなく丈夫で大きな腕のなかで。


この腕を知っている。

ものすごく落ち着く……。


意識を失う直前。支えてくれたのが、先日の前世見をしたときに出てきた人に見えた。



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