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23話 天能と王都の城1

 ドテッ………

 鈍い音と共に無機質な地面に倒れた。


 痛い……。

 語彙力の少なかった当時、単にそう呟いて目元に水を溜めた。実際、身体もすり傷だらけであちこちから血が滲んでいる。


 けど、私が悲しいのはそれではない。

 傷は飛ぶ練習をして自分で作ったものだから、怪我をしても構わずに何度も飛んだ、その証拠だから。

 悲しいのは、悔しいのは、それを馬鹿にされていること。目の前には三人の男の子が立っていて私を見下ろしている。

 この人たちが私を突き飛ばしたのた。


「お前のこと知ってんぜ。村長のところの魔女だろ」


 中でも太り気味の子が始めに話し出した。


「いや、違うだろー?こいつ飛べないって母ちゃんが言ってたー。母ちゃん、村一番の情報持ちだしー」

 

 この中のリーダー格らしき子が次に口を開く。

 語尾をやたらと伸ばすのが気になる。


「そーだ、そ〜だ」


 最後は影の薄い子。

 その子は薄笑いを浮かべると私の溝落ち辺りを強く蹴った。思わず涙が目から溢れる。


 なんで?どうして?

 どうして私はこんな目に合うのだろう。【飛行】が使えないから?

 それは、悪いことなの?

 

「わた、し、私は練習してたの。【飛行】の……」


 勇気を出して声に出したのに意図せず震えたものとなる。

 それを見て三人はまた笑う。


「練習って、なんのー?手にあるものからして【飛行】かなー」


「無理無理。いくら色が賢者様に似ていようがお前に才能なんてないぜ。はっ、賢者様は【飛行】を得意とした、それなのにお前は飛べない。魔法使いは皆、飛べるものだぜ」


「そーだ、そーだ!!」


 近くでは大人たちが会話をしている様子が見られる。目があった気もしたが、その人はすぐに会話に戻って私の視線を無きものとした。

 要するにこの村は、華月の里の人には、家族以外で助けてくれる人がいないんだ……女の子が年上の男の子にいじめられていても……………。


 ───────みんな、敵だ


「お前は賢者様なんかじゃない。中身のない空っぽだ!!だろ?空から落ちる、落ちこぼれ魔女」


「そうだねー。こんな髪色は落ちこぼれにはもったいないなー」


 語尾を伸ばす太り気味の子が私の髪を持ち上げ引っ張った。


 我慢が出来なくなって、涙が堰を切ったように流れた。


 どうしてこうなったかな?

 私は、もう、目標を見つけたじゃない……………。


 ?、目標って…………



『………ル、…ル、リル!!おい、起きろ!!!』


 荒々しい光、いや声に導かれるように、私の意識は遠のいていく。





* * * * *






「起きた、か」


 そこにはドアップの銀の獣の頭があった。

 なんだか心配そう………。


 ここ、どこだっけ。

 私は……………そうだ。私、男子に囲まれて、それで。


「あっ………」


 衝動的に起き上がった。


「「痛ッター」」


 同時に悲鳴を上げた。

 

「それを言いたいのはこっちの方だ!!急に起き上がって……………」


 夢、か……。 


 使い魔がぶつくさと呟いているのは放っておこう。

 ここは学校の寮だ。

 私の居場所……………。

 そして頷いた。それがわかれば十分、学校にはあのいじめっ子はいないのだから。


 確認したら眠くなってきた。

 窓の外はさして明るくないし、あと2時間は寝れそう………。

 ぐー…………………。


「っておい、何寝てんだよ。今日がなんの日か覚えてんのか?」


 なんだろう。なんかあったっけ?

 私の誕生日は終わったし、んー記念日?


「今日はサキシアスとかいう奴との約束の日だぞ!!」


 ヴァルが先生を呼び捨てしたのはまぁいい。

 私はすぐに飛び起きた。

 枕元にあった時計を掴んでマジマシとみる。

 

「じ、時間は?大変よ、あと二十分しかないじゃないの!!」


 思わず放り投げてしまった置き時計をヴァルは器用にも口で受け止め、ご丁寧にも枕元に戻してくれた。

 寝ているだろう先輩を起こさないよう、暗闇の中であちこちにぶつかりながら支度をして寮を出る。

 

 かなり急いで走って、ついでに何度かつまずいたりしながら着いた先にはもうサキシアス先生がいた。



「来たか……」


 私が待ち合わせ場所に来れたのは太陽が登って少しの時。

 ギリギリセーフ、ね。

 疲れた〜〜〜。

 額の汗を拭う。

 

 先生はやはりというか、既に待っていた。

 側に立っているのは……烏、にしては大きいわね。肩辺りまで高さがあるし、見るからに使い魔だわ。

 本で見たことあるような無いような………。

 目は黒いし、先生と印象がそっくり。


「おはようございます」


「ああ……」


 今更だけど、メリッサがいないということは、先生と二人になるのがイコールだったのね。不安要素しかないじゃないの!!

 き、緊張するわ。

 しかも、移動でも向こうでも泊まりがある。

 まぁ、ヴァルもいるし、いざとなれば助けてもらおう。楽観主義でいきましょう。


「行くぞ」


 言って、先生は烏にまたがった。

 今にも羽ばたいて飛んで行きそう………。

 箒じゃないのね。日をまたいでの移動なら【飛行】を使うより他の力に頼った方が魔力の効率上では良いもの。

 って、呆けている場合ではないい。私も行かないと置いて行かれてしまう。


「ヴァル、お願い」


 呼びかけに応じて、私の影から出てくる。

 ヴァルが頷いたのを確認してから、急いでその背に乗せてもらう。

 目の端に映った烏はなぜかヴァルに恐れを抱いているように見えた。


 

 


 

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