表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/34

22話 夕食

 掃除の際ついた埃を寮で洗い流した後、私とメリッサは先ほど話したイベントについてのプリントを広げ、夕食を食べていた。


 メニューはこの学園の名物料理である、ケサンラというパイ。ケサンという魔力の回復を促す青い木の実が練り込まれている。


 一見毒々しくも見えるけど、美味しいのよ!!

 ブルーベリーに近いような……味も、色も。違うのは形かな?ケサンは楕円形だしね。

 わ〜名物と称えられるだけあるわね。

 もう一切れいこうかしら、あっ最後の一切だわ。これは絶対に食べないと。

 わ、私は食いしん坊な訳ではないわ。これは体に良いのだもの。


「へ?」


 文字を辿っていて、とある欄で目が止まった。

 間の抜けた声をどちらが出したのか……。

 どちらもかもしれない。

 ついでにパイを手に入れ、頬張ろうした時にその文字が目に入って来た。


 息をはいたような捉えどころのない音はよく通ったらしく、周りの生徒が訝しげに見ている。

 けど、そうせざるをえない記載があったから仕方ないじゃない。

 顔を上げるとメリッサと目が合い、やはり気まずくて紙に目を落とした。


「第一学校……」


 先に口を開いたのはメリッサ。


 決して明るい声ではない。

 無理もないわ、だって……王都立第一魔法術学校、略して第一学校と第五学校は仲の悪いことで有名だもの。


 理由は主に立地に関係している。

 第一学校は王都に最も近く生徒には王族や上級貴族が多いなどで、設備が整っている。比べてこの第五学校はほとんど校舎が古いまま。ここは平民が多いから。私もまた然り。

 そんな差から第一学校はどこか第五学校を見下しているのだ。

 

「そう、ね。メリッサ……」


 パイを咀嚼し終えた私とメリッサは周囲の賑やかさと反対になんとも言えない暗さを醸し出していた。

 

「これは貴族の間にはよくしれたことなんだけど……」


 真面目な顔で語り出したメリッサに私は静かに頷いた。


「癒の天能は今、一番注目されているの。治癒は魔法での効果に限りがある。でも、可能性が未知数な癒は魔法の力を超えるものもあるのよ」


でね、とメリッサは続ける。


「ここからはあたしの考えたことに過ぎないけど……。例えば戦争が始まったとすると攻撃か治療か、大切なのはどちらだと思う?」


「攻撃じゃないの?」


 迷いなく答えたけど、それに対しては首を横に振った。


「大抵はそう考えるの。少なくともあたしは違う。戦争が始まると兵士はどんどん減る。ある程度なら強さで補うことは出来るかもしれない。けれど人数の差が大きくなればそうもいかなくなる。大事なのは、傷を癒し、闘う戦力を増やすことなの」


 確かにそうかも。

 いくら強くても数で押されることはあるものね。そこに削られた体力を回復する力が加えられたらどうだろう。

 それは事実上、無限な戦力を有していることになる。

 うーん。

 なるほどなるほど。

 大事な力かもしれないから見極める為の国へのお披露目会もかねている訳ね。


 それにしても、第一学校、か。

 噂では、毎年嫌がらせをしてくるらしいけど……。


 邪念を払おうとしたとき何かが空から降って来て……。


「伝言?」


 と書かれた紙切れが手の中に落ちていた。

 なんというコントロール。

 凄い!!


 ハッと周囲を見ると黒い鳥、烏みたいなのが窓から闇に溶けようとすると頃だった。

 他の生徒は気づいてすらいない。


「ねぇリル、なんだったの?」


「えっと、伝言みたい……」



《宛先・ リル・ライラント メリッサ・テナロール

 

 会場へ1日前に着く為、出発は二日前の夜とする。


         差出人・ ルナー・サキシアス》

 


 やはり文でも素っ気ない。

 用件は伝わりやすいが……。

 二日前、ということは四日後か。

 

「ごめん。ちょっと先生に言いたいことがあるから言ってくる。本当は今度会った時にしようと思ってたんだけど。早めに言った方がいいだろうし」


 メリッサがそう言って急に立ち上がった。

 しかし、歩き出してすぐに戻ってきた。


「あっ!リルにも言っとかないと。あのね、一緒には行けないんだ。さっき、家族から連絡が来て、貴族枠で出ろっ、て」


「へ?」


 明らかに動揺している。

 我に帰ったのはメリッサの申し訳なさそうな顔を見た時。


「そっか、メリッサの家は貴族だったわね。なら、仕方ないわ」


「ごめんね」


「何を気にしているのよ。友達はそんなことで怒ったりしないものよ」


 メリッサは私の言葉に笑った。

 そうよ。

 気を使っては駄目。むしろ大変なのは、欲のある貴族だらけのところに行くあなたなのだから。


「頑張ってらっしゃい」


「うん」


 返事をすると勢いよく食堂の出口へと走って行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ