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20話 オリエンテーション10(終わりの中で)

オリエンテーション9、更新で内容が二倍くらいになりました。

まだ読んでいない方はそちらから読んでいただければよろしいかと。

読んでいただきありがとうございます。

 血塗りの紙を空高くに思いっきり放り投げた。


 三枚の朱は頼りなく力によって無理やり上空に追いやられ、そしてそのあとは風で飛んでいった。

 簡易な魔法がかけられていたのかも。

 みるみる小さくなる。

 中でも朱の濃いものを消えなくなるまで見送って、空しかなくなったところで私は足元から吸い込まれるように感じ、気がついたら墨色の闇だけの空間へと引き込まれていた。


 それは一瞬の出来事だった。




□ □ □ □ □






 目を開けた途端、これは夢だと理解した。

 目に映ったのは今の自分は知らない、確かに昔の時代に地を踏んだことのある懐かしい、因縁の風景。


 懐かしい……。

 匂い、空、風すらも。

 自分の覚えのない感情が流れてくる、記憶はないけれどこれは私のもの。


 前世……………。


 今の人生のひとつ前の、別人の生きた道。

 どんなものかは覚えてないけど、私はここに来たことがあるのだ。

 果たして、良いものか、悪いものか……。判断し、決めるのは自分だ。


 当たり前だけど、ユールもメリッサもいない。

 そのわずかな心細さをひと時忘れて、これから僅かの間、リル・ライラントではない感情を自分のものとして話させてもらう。


 




 それは白黒の音のない夢。


 




 私の名は───。


 私は花の咲く草原の中央に座り込んでいた。

 ガーベラ、スイートピー、ネリネ……………。

 色に染まって見えなくても、色とりどりの風景は容易に想像できる。


 座り込んでいて、腕の中にあるのは男性の頭。

 仮面をしていて顔は見えないけど、とても呼吸が荒い。全身が速いリズムを刻み上下に揺れている。

 その度にお腹から大量に出血していてすぐにでも息絶えそうな状態。私の力でも魔法でも治せない。


 これは……。


 そっと、刺激を与えないように顔を覆い、隠していた仮面をとった。衝撃でひび割れた後のある白塗りの仮面を。


 綺麗な顔、リルならそうとしか思わなかっただろうけど、違った。私はリルではなくて───だもの。

 もっと特別な衝撃があったのだから……。


 そう、ずっとこれまで彼を探していた。諦めかけて、今になって会えて、それで………。

 白黒でも髪が黒髪なのは肌が白いのは見て取れる。

 彼は一生懸命、目を開いた。 

 僅かに開かれた瞳は私を捉え、奥で微笑んでいる。


『あぁ、彼だ。やっと会えた、それなのにどうして……』


 彼はむせ込んで真っ赤であろう血を、綺麗な花の咲く地面に吐いた。


 草花を黒くする液体は、口から、お腹から、次々に湧き出て止まらない。

 もうすぐ別れなのだと悟る。


『嫌だ、行かないでよ、せっかく会えたのに』


 その言葉は私が言うのは許されないもの。私は彼の傷の原因を……。


 目から暖かいものが流れて頬を伝う。

 その姿を見せたくなくて必死に、長い服の袖でゴシゴシ拭う。


 泣きじゃくって、目を覆ったところで手をどけられた。彼は私を悲しそうに見つめていて……。


 きっと、私はこの人が好きだったのね。

 またこぼれた水滴を、彼は力の抜けかけた手で拭ってくれた。

 口を開いたけど、私にその言葉が届くことはない。

 無理をして笑った。

 笑っているのに、涙は止まらない。そればかりか水量は増えた。


 頭を優しく撫でられる。


『おいてかないでよ……』


 彼は首を振った。

 それに絶望感を感じた。


 私に何かを差し出してくる。

 手と一緒に受け取るとその中には冷たい腕輪が入っていた。細かな細工をされた銀の輪に瞳くらいの珠が埋められ、周りには細かな石が散りばめられている。明らかに高価なものだ。


 彼はもしかして、貴族だろうか?

 けど、私の中にその答えはない。

 あなたは、誰なの?


 彼を思い出し下を見ると脱力し目を閉じていて動かなくなっていた。

 うそ、嘘でしょう……。


『私のせいだ、ごめんなさい。謝るから生き返ってよ。こんなのって……神様、大切な人を守れないなら力なんていらないよ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』


 亡骸を抱きしめて私は嗚咽を漏らした。

 生きているうちにできていたら良かったのに。

 あなたはもう。私を見てはくれないのね。


 ごめんなさい、これは、呪いだから……。

 私には、解けない。

 彼の致命傷を与えた人。それはこの善者を演じて騙され続けた、愚かな私。

 

 だけど………、

 また、会える?

 来世で会える?

 彼と私は今世の悲しい出来事を変わらずに覚えていられる?


 わすれたくない。

 でも、ここで止まってても始まらない。

 なら、来世に託す?

 ない可能性を待つよりは、1パーセントでも期待できる方法を選んだ方が賢明。


 何百年後かの不確かな自分に?

 そんなの、嫌だよ……。

 

 嫌でも……少しの可能性があるなら、かけてみよう。同胞はたくさんいる。


 今世、あなたの隣にいられる権利はどのみち得られないから……。


 私、───は生まれ変ってもあなたのことを思い出して見せる。ダメでも、また転生できる。

 そうして再び巡り会えたなら、また、あの時代のように幸せになれる?

 愛おしいあなたは私をゆるしてくれる?





□ □ □ □ □






 気がつかぬ間に私は寮のマイルームへ、ベッドの上に帰ってきていた。


 ベッドは数日しか使用しておらず、また愛着もないはずなのに布団の抱擁感に癒しを覚える。

 なんだか、頭が変だ。グルグルする。


 脳だけ、勝手に働いて空回りしている。分からないことを考えて、答えを出そうとしている。


 前世の夢は断片的で短く、悲しいものだった。

 思い出して、また涙がでる。

 

 そのまま、布団に潜り込んで目を閉じた。

 無理だ、疲れた。

 頭か体力かどちらかわからないけど、どっちでも良い。どちらにしても今は寝るのが最善。

 

 ──────来世で会える?


 彼女……私の前世からすれば今世は来世。

 会いたい、それが素直な気持ち。

 知らない誰かに惹かれることは変だ。それでも、会いたいというのは前世につられているだけ?


 もしも、今世で彼を見つけたら……リル、あなたはどうする?


 分からない。

 名すら、夢で聞くことが叶わなかったのに。

 私は前世で愛した彼の名を、深く後悔した愚か者の名が掴めない。

 前世の鍵は、前世の真名。


 名前さえ思い出せたら、私は前世を完璧に知ることになるだろう。そうなったらどんな行動をするのか、本人も見当がつかない。


 私は涙を流しながら、また眠りに落ちる。


 隣に眠るヴァルの暖かさに何故か寂寥の念を抱いた。






□ □ □ □ □






 代休明けから、嘘のようにさえわたった脳をフル回転させることになった。


 この学校は基本的に校外学習に重点を置いている。椅子に座り学ぶよりも魔法は直感に従え、この理念のもとカリキュラムが組まれているのだが、そのせいか授業は少ない。

 魔法を教わるのにこれまで、勉強(予習)をしてこなかった者はいきなりの濃厚な授業は大変。

 なにしろ、短い授業の中で基礎から上級まで学ばなくてはいけないのだから。


 魔法は使う魔力の量によって級が区切られる。

 初級、中級、上級、超級、超上級。超級を使うのは簡単ではないし、なおさら超級の上級になる超上級はこの世界でも使える人なんてあまりいない。使い手の噂すらも、聞いたことはないがどこかにはいるのだろうか。


 学校では上級まで修学するが、使えるのかはまた別の話。


 実生活で役立つものというと更に限られていて、畑を耕すものでも中級ほど。しかも長い詠唱がいる。


 古代と言われるほど昔、無詠唱で超級すら発動させられたらしい。今は、人によるが上級が限界だそうだ。


 私はどうかって?

 詠唱すら限界を試したことはないものね……。

 やろうとしたら、魔力をためた時点で母に止められた。【飛行】すらできない私を止める必要があったのか、里を壊滅させるなんて恐ろしいことを、見習い魔女の私がすると危惧したのか…過保護だな……。 


 いつか試してみたいな〜。

 魔力量も、人より少しは多いみたいだし!!


 


 その日は、この時間割も授業時間も毎日不揃いな学校には珍しく7時間あった。しかも、全教科。

 普段なら平均しても、4時間で終わるのに。

 授業間の休み時間も長いのに。


 1時間目はなんと、「魔法実践」だった。

 朝からハードね。

 こちとら、まだ寝起きで頭が働き始めていないのに。

 魔法実践ではとにかく魔法を撃ちまくる。当てるのは防護魔法をかけられた的。一定の威力で魔力切れになるか、チャイムがなるまで連続で発動させる。

 魔法をたくさん使うことで魔力量は増加する。毎回、魔法の種類は変わり、今日は火の日。

 私は倒れず、チャイムが鳴るまでバタバタとクラスメイトが倒れていき最後は1人に………。

 1人で詠唱と発動を続け、それを先生にジッと観察されるはめとなった。

 目立つし、詠唱で舌がもつれるし……。それでも私だけは魔力の減るのを感じることすらない。

 いっそ倒れた方が楽。

 隣のクラスメイトみたいに地面に転がって伸びていたいが、私にはそれをするための演技力が芳しくないのだ。

 魔力切れで倒れた人は、つまり私以外は紫色の謎の液体を口に入れられていた。

 魔力薬ね、材料はなんなのかしら。

 粘性の強い液体を飲まされてユールも微妙な顔をしていた。例えるなら、スライム。中には口を押さえてうずくまる人も。

 マズイ、のかな?

 好奇心とは恐ろしいものだ。

 あんなにみんなが気持ち悪そうな顔をして口に押し込まれているのに、一口飲んでみたい私がいる。

 興味本位で、怖いもの飲みたさで、どんなものか気になるのは愚かよね。

 気になるなー。

 

 2時間目は「詠唱暗記」。

「みなさん、この授業ではひたすら呪文を書いて書いて頭に叩き込んでもらいます。サボりもおしゃべりも許しませんからね」

 詠唱はなくても魔法は使えるが力が落ちる。慣れたら無詠唱でも威力は保てるらしい。

 ひたすら長い分を覚えさせられる苦痛の時間。

 頭にもうインプットしている呪文の書き取りを覚えさせるために延々とさせられけんしょう炎になりかけた。

 この授業いります?

 初級中級魔法は家でほとんど覚えましたが………。

 心の嘆きはついに先生には伝わらず、適当に書いた練習プリントを提出しておいた。

 もう、誰なの?

 便利な詠唱なるものを遠い遠い存在にしたのは。これでは進化どころか退化してるじゃないの!

 そりゃあ魔法が失われかけている、なんてことにもなるわよ。

 進化しなさいとは言わない、せめて現状維持くらいしてよ!

 動物はね、進化が基本的なのよ!!

 退化じゃないのよ、進化よ、進化!!!


 3時間目は「倫理」。

 要するに偉人の思考を学ぶ。

 最初のほうはやはり入り込みやすい賢者のことを教えられる。賢者様が活躍したのは1000年よりも遡る時、何を考えていたかなんて記録に残るものでもない。

「えー、かの有名な魔法の鑑であるシーユ様はですね、えー、闇の賢者を滅ぼしたのですが、えー、そのすぐ後に魔女にしては短い寿命を終えたのでありまして、えー、自ら命を絶った説が有力な一説とされていまして、えー……」

 なにをかくそう、えー、が耳につく。文は区切りがなくて聞き取りづらい。

 あー。前の方の男子ども、指を折って遊んでいるわ。昼ごはんのデザートをかけているのもきこえたわ。

 うん、わかるわ。わかる。

 数えたくもなるわよね。だって、暇だし、眠いし、何よりまず眠いし。

 ちなみに今日のデザートはさくらんぼケーキだったはずよ。

 でも、ね、先生がチラチラ見てるし気づかれているわよ。どうせなら、バレないようにしなさいよ。甘いわね、詰めが。

 さつ、倫理に答えはないのだ。

 人の考えなど、当人にしか分かりようがないのだから。そして、大抵の倫理の題材となる偉人は亡くなっていることばかり。シーユ様がいい例。

 シーユ様が若くして亡くなった理由なんて誰一人、当時を生きた人ですら知らない。

 けど、疑問を抱かせるこの授業はなかなかに大切かもしれない。


 4時間目は「植物学」。

 植物は実に多様な種類がある。無数であるがゆえにまだ発見又は解明されていないものも。

 本時は一年生ということもあってか、先生は基礎から解説している。なんでも、基礎が重要。

「植物には役割を持つものがあります。時に傷を癒し、身体を強化するなど我々を助けますが、しかし、時に人を傷つけます。だから、傷つけないために毒草についても学ぶ必要性が大いにあります」

 配られたのは、分厚く文庫本くらいの図鑑。

 <植物大全>と書かれていて、各植物の名称、効果、生息域が載せられている。

「まずは、はじめのページから。えー、テスーニョですね。これは手に入りづらく紫色の毒性の弱い毒草です。侮ってはいけませんよ。毒性は弱くても厄介な代物で、何しろ味がしないのです。食物や飲み物に盛られることもよくあり、体内に蓄積したり一度に多量を摂取すると目眩がし、汗が噴き出し、指先が白くなりやがて死に至ることもあります。治療法はなく………」

 いきなり、物騒な授業だ。

 だがまぁ、手に入りづらいものなら心配はないか。少なくとも、学生には関わりの薄いことだ。働いたことのない我々が大金を手に入れられる訳がないし、持ち込んだら学校の警備魔法に引っかかるし。

 貴族ほどになれば命に直結するだろうが。味がなく、治療法がないなんて……。

「けど、なんて、すごい」

 写真を見て呟やく。

 色が毒々しいすぎるだろう。

 鮮やかな紫の葉は主張が激しく、これでは例え盛られたとしても一目瞭然だ。

 世の中上手くできているわー。


 お昼休憩を挟んで5時間目にようやく得意科目の「古代歴史」が開始された。古代歴史に興味を持った理由はこれといってないが、好きなものは好きなのだから仕方がない。

「初めは約1500年ほど前のことを話させてもらいましょう」

 そうそう、このあたりが気になるのだ。

 光の賢者様の話は有名だけど、そのせいかそれ以上昔は記録に残されている文献が極端に少なく、教えを乞うべき先生すらいないのが現状。

 そして、この授業は特別にいろいろな学校を転々と回っている先生から話を聞かせてもらえるのだ。

「当時、それはそれは有名な4人の英雄と言われた人たちがいました。賢者、予言者、聖女、剣士、彼らは部類ごとの最強だと称えられ《神々の眷属》と例えられていたのです」

 真剣にメモを取っていく。

 最強、4人、神々の眷属……………。

「彼らの元は我らが敵国のキーテ国の救世主なるものでした。なんらかのきっかけがあり、こちらの味方についたのですが………」

 なんらか、か。

 光と闇の伝説にも、曖昧で薄ぼんやりした記載を目にした。

(なのに、どうしてでしょう。光の賢者様はいなくなってしまったのです)

 歴史とは肝心なところがぼやけて、謎に包まれる運命にあるのか……。

「1000年前の賢者伝説はもちろん大切です。ですが、私はどちらも覚えておくべきことである、と」

 どの時代にも、有名になる人には賢者が必ずいるのね。

 1000年前にも1500年にも同じ尊称を与えられた人がいた。1000年前には誰もが知る光の賢者シーユ様と闇の賢者クヤートが、更に昔には眷属の賢者が。

 


 あと、2時間あったけれど眠すぎて内容を覚えていないから以下省略。


 そんなこんなで大変な授業を終えたけれけれど、それでも1日は終わっていない。まだだ、まだ残っている。


 初対面の人に挨拶をし、緊張に耐えることしなくてはならない、『天能の集会』が。


 





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