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18話 オリエンテーション8(新たに……)

「3着、メリッサ・テナロール。4着、ラオ・ハユヌア。5着、……。」



 日が登り始めて暑いな〜とか呟いていたくらいから、次々と順々に黒いローブ姿がこの場に降りてきた。


 カーブを描いて向かって来るのはクラスメイトの面々。


 誰が誰かなんてのは区別がつけられないが、この場にこの時間に来る制服の魔法使いなんて限りがあって、以外は確率的に低い。


 他のクラスのオリエンテーションの時間は教えられないし、まして何処でするなんて情報はない。私がないなら他でも同じはずだから。


 三者三様の表情をしているが。大半の顔には疲労と汗が滲み浮かんでいる。


 使い魔に運んでもらってらくした私からすれば申し訳ない。みんな、そうすれば疲れないのに。

 あっ、そう言えば『今、屋上に来た方法で目的地へ向かえ』的な、それに近い指示は出していたわね、先生。


 あれは、色々な簡単な手で来ると踏んでいたのかしら。それとも、先生はすんごく厳しくて苦労して【飛行】でここまで来るのが前提だとか。私だけがイレギュラーだとか……ないわ。ないない。

 それは、うん。流石にね…………。

 みんなまだ、魔法使いの卵のようなものだし。

 ほとんどが、家で魔法を一通り教わったような人だが。


 なんだかさ、今、制服を着ずに景品を着用している私がいうのもおかしいだろうから口には出さないけど、暑そうだよね。


 黒って光と熱を吸収する色だもんね。

 そりゃあ、暑そう、どころか酷暑だよね。

 うんうん、分かるよ。

 大変そうね。

 多分ね、それも含めての課題ではないのかしら?


 ユールは気づいているのかいないのか、私同様にローブ内に冷気が覆うように魔法でコーティングしている。

 冷をとる手段にたどり着いたのは、私とユールと推定あと一人だけ。




* * * * *



 私とユールは頭の後ろをポリポリと書いていた。

 困ったことになったなあ、と。のんびりしている場合ではないのだが焦って考えられなくなるのが怖いので落ち着くために状況を整理しよう。


 困ったことはクラスメイトが揃ってサキシアス先生が次の課題を説明した時から始まった。


 私たちはこの課題が無事に終われば、【転移】で学校のそれも自室に帰してもらえることになっている。


 帰りはよいよい、行きは怖い、だ。

 歌、反対だったけ?

 これはどうでもよいのだ。


 【転移】をする前にあることを行う。

 なんと、なんと、なんと前世見、をするのだ。

 前世を見ることが出来るのよ、魔法術学校のお楽しみ行事よ、醍醐味よ!!!!!

 今回のは1カ月後に行う本番の慣らし、いきなり前世とはいえど自分以外の記憶を見ると、前世に同化しかけて危なくなる人が倍増するかららしい。だから今回のは、ほんの僅かにしか見えないらしいがワクワクしている。


 これを楽しみにしていた。

 魔法を今より上手く使えるようになるかもしれない。何より、前世なんてロマンチックじゃぁないですか。


 そんで本題ね。

 その、前世見の前の課題についてよ。


 課題に名前を付けるとしたなら、3人で杖を作りましょう、だ。


 えーーー、そのまんまですね。ひねりも工夫すらない。名前なんて大袈裟すぎたわね。

 わ、わかりやすくて結構!

 理解に難儀するのよりはね!!


 つまりまとめると(まとめなくても概要は題名にされているけど)、3人グループで杖作りをしなさいと言うこと。


 現代において道具に頼らなくても威力の高い魔法を作り出すことはできるとされている。だが、習慣とは離れないもので持っている形だけのものになり下っても常に携帯することは魔法使いの嗜みらしい。 


 課題で形ばかりの杖を作ることになったのだが、何故3人なのか。それは課題に仕上げの〈念入れ〉を一人以上の奇数でしなければならないからないからだ。


 さて、条件をかんがみると少なくとも3人は必要なのだ。私とユールと、あと一人。誰かが必要。


 初対面の人に話しかけるのは難しい。タイミングとかがつかめない。

 ユールの時は成り行きで話せたけど、再現できるかと言えば、否、だ。


 どうしよう……。

 こんなことしてる間にもあちらこちらでグループができてきている。すなわち、声をかけられる人も少なくなっていることとイコールになる。


 誰かかわりに声かけしてくれないかな?

 ユールを見ても激しく首を横に振るだけ。まだ、何も言ってないのに、ただ見ただけなのに!

 こちらも、無理みたい。あっ、あっちもだ。

 どうしよう、どうしよう……………。

 考え過ぎるのも良くはないわね。人の会話が聞こえてしまう。これじゃあ、盗み聞きみたいじゃない。しかも、会話の内容がどうにもなあ。


「ねえ、ハーナア。組まない?同郷だし、よく話したことあるし、あたし、あなたのことしか知らないのよ。だからさ」


 どこか、明るい赤髪のはつらつとした背が高めの女の子だ。だけど、その元気な声はハーナアと呼ばれた幾人か、取り巻きを連れた人に途中でかき消される。


「いやよ。私はもうあなたと関わる気はありませんの。あなたのことなんか知らない。私にはこちらのクラスに知り合った仲の良い人がいますもの。それに、あなたは仲が良いと思っていらっしゃったのかもしれませんが私には迷惑でしかありませんでした」


 あー。なんか険悪な雰囲気になっているわね。

 けれど、ここまで聞いていた以上耳を塞ぐのは好奇心という要望が勝って叶わない。


 取り巻きはそれを囃し立てていて「そうですわ」とかそれくらいしか言わない。バカなのか?


 ユールが声を潜めて「両方とも貴族なのよ、ただの揉め事ね。これはよくあること。けど、取り巻きは一応貴族だけど、それ以下の家格ね。あの場で発言するべき立場でないわね」と。

 まるで、特権階級の人々のことをよく知るよう。

 家格とか……よくわかんないや。


 詳しそうに語ったあたり、もしかしたらユールは貴族かもしれない。突拍子もないことだが。何故か納得はできる。誰しも、隠し事くらい持っているものだ。

 どっかで引っかかってたんだよね。ユールは仕草がおっとりしてるから。


 外れてたら、あまり良い気はしないだろうから、まだ触れないでおこう。

 今は、こっちが気になって仕方がない。


「本当に。いつも、馴れ馴れしく近づいて来て、そるほどよく思っていない相手の対応にどれほど苦労したか。あなたのような貴族としての自覚がなくて作法がなっていない人。もう限界ですわ、目障りな。ここでは我慢しません」


「そ、そんな……」


「少しは自分以外のことも考えられるように努力することね。さようなら。今後関わることのなきよう。」


 その場に崩れている赤髪を見ることもせずに踵を返し、取り巻きを引きつけ去っていく。


 私は、なんとも言えない。

 貴族とは想像よりもみにくいものかもしれない。

 私の中のイメージで、貴族とは華やかで聡明なものだと出来上がっていた。

 それなのに取り巻きを連れていた方は刺々しいし、さっきの会話は残っていて、思い出しただけで反吐が出そう。


 これが、現実なのね。

 最悪じゃん……。

 どれを指摘していいかわからないけど。主に、あんなのがこの国の上の方の格を持つとか……。終わったな。

 何故かこの国の終焉まで予想し始める。


「ヴァル、どう思う?」


「あの赤髪の女には悪いものは感じない」


 何気なく話しかけたのだが、ヴァルは察して聞きたいことを、地面から声だけ返してくれた。

 ヴァルが今しているのは隠影で、地面に潜り魔力の消費を抑えている。私の魔力じゃ足りないのか、と言う質問に対して、十二分に足りているが寝たいから、と返答された。


 だから、今度はユールに目配せをして赤髪の少女に近づいてみた。

 

 この子は知っているわ。

 3着で着いた、名前は、えええっとね、そう。メリッサ・テナロール。


 わーお。思い出したわ。

 入学前の学力検査の結果で学年のトップに入っていた子じゃあないか。学力検査が苦手で順位に落ち込んだ私は目の保養にと上位者の名前を見ていたのだ。

 あれは天才の部類だわ。

 天才は目にうっすら水を貯めていた。


 話しかけてみようかしら。

 貴族らしいし、敬語を使ったほうがいいよね。

 ハンカチを差し出しながら、勇気を出して声をかけた。だって、こんなの放って置けない。


「あの、すみません。私はリル・ライラントと申します。大丈夫ですか?」


 声に反応し、顔を上げた時、涙が落ちたのが酷く寂しそうで。

 ハンカチを受け取ってポツリと声を出した。


「あたし、なにかを間違っていたのかしら。たった一人の友達を失ってしまったの。彼女、怒ってた。あたしが悪いのに、理由がわからないの。アホなのね」


 初対面の私に、何かを疑うまでもなく悩みを言う。

 悪感情を外に漏らすわけではなく、ハンカチを握りしめていく。

 理不尽なこと言われたのに自分のせいだと自負するあたり、悪い子ではない。むしろ、素直で純粋な性格だ。


 大丈夫よ、私も、いいえ。

 この場の人は全てと言っても過言ではないほど、あなたを怒ったハーナアのほうが意味不明で阿呆だと思ってる。


 だから、ね。

 ハンカチがいくらシワシワになっても、構やしないわ。私に吐き出せなくても、ハンカチが相手をしてくれるから。

 決して溜めてはいけない。

 胸の溝に悪いものがわだかまるといつか、心が病んでしまうもの。

 幼少期の光の賢者様と比べられた私のようにはなってはいけないわ。

 目の前にいる人が二の舞にあるのを見たくはない、だからできることなら阻止してみせる。

 

 そうか、私は自分とメリッサを重ねてしまっていたのだわ。

 なら、友達になりたい。


 相手が貴族ということすら頭から抜たら、胸の奥で率直に出た思い。

 同情ではないと言えば嘘になってしまうが……。


「あたし、友達居なくなっちゃたんだ。最初からいなかったんだ。どうすりゃよかたんだろ……」


 その声は切なく果てなき空に溶けていく。

 だから、私のターンだ。

 これを断られても、同じ舞台に立つだけ。

 そして頑張って丁寧な言葉を使ってみる。なんだか、身分高いそうだし。


「あのさ、なんなら友達になりませんか?えっと、私たち今2人であと一人いるんです。3人だと課題できますし、それ以前に人数が増えて楽しいと思うんです。そうだよねユール」

 

 ユールを見た。

 若干、強引かとも思慮したが……。


「はい、そうにございますね。私はユールと申します。ご挨拶に預かりました」


 敬語がスムーズに聞こえた気がするような……。


「友達がいないなら作ればいいじゃないですか。一人にこだわるよりも、こちらは2人です。一石二鳥と言う奴ですよ!」


 しばらく悩んでいたようだが、瞬きを十何回かした時にメリッサは答えた。


「もし、いいのなら。いいの?あたし、迷惑かけるかもだけど、それでもいいなら」


 なんだろう。

 モヤモヤするな。だってメリッサは本気で自分が悪いと勘違いをしているんだもの。


 それを断ち切るようにメリッサの手を握り、勢いよく引っ張って立たせた。


「よろしくお願いします。メリッサ」

「ありがとう、リル」


 こうして、新たな友達ができた。


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