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1話 召喚の日

 魔法がそこかしこに芽吹いている世界。

 そこが、わたしが生と死を授かった場所。 


 『ヴェール』


 

 

 生まれるからにはいつかは終わる。だから生と死。

 私は華月の里にて15歳を迎えた。


 ヴェールでは15歳を迎えると使い魔を召喚して、王都魔法術学校にはいらなければならないという法がある。実力の関係はあまりない。 


 私もまた例外ではない。 

 使い魔の召喚は、今日。

 そして、明日が王都魔法術学校の入学式だ。

 そして、そこで選定を受ける。選定とはよくわからないが、魔法使いとしての才能を数値化してくれるらしい。選定に、あまり期待はしていないけれど。

 ちなみに、予定がこんなに詰まってしまっているのは、私が遅生まれだからだ。


 この里のことを紹介しておくと、ここサタトルラ国の領土の端っこの方にある人口100人にも満たない村だ。

 岩山の山頂付近に存在し、主な収入は農作や採取など。

 良く言えば風勢があるのんびりとした、悪くいえば活気のない、いわゆるところの田舎と使用するにふさわしい村。


 私の立場はその華月の村の村長の娘。

 得したことなんてないけどね。

 





 これまで私はなんとなく、日々を過ごしてきた。

 私に唯一優しい、お母さんとお父さんに育てられながら。


 朝はお母さんに魔法の使い方、呪文を教えてもらい、覚える。それの繰り返しをする。魔法についてはこれだけで実技をする数は多くない。

 お母さんが忙しくなる昼からは日が暮れるまで好きに本を読む。物語、歴史、などなど。為になる植物学、動物学、地学はあまり読まない。

 けれどおかげで読むのはずいぶん早くなって、一刻あれば本の一冊は軽く読めてしまう。


 世間がいうところで、私は勉強っ子。

 遊ばないのかって?

 そりゃあそうしたい。

 野原を駆け回りたい!

 友達と花畑で寝転がりたい!

 森の探検をしたい!

 じゃあなんで大人しく座って勉強しているか?

 それはね、私と遊びたがる同年代の子供なんていないから。 


 初級魔法も使えない子と遊んではいけない。あんな子、魔女失格だ。

 里の人は自分の子にそう教える。

 だから、みんなは私に関わらなし、遊んでくれない。

 私は勉学に向き合うしか、この里では暇つぶしがないのだ。

 そうして、「私は勉強が好きなんだよ」と言えば、お母さんもお父さんも心配せずにすんで誰も(私以外は)悲しまないから。


 こんなに学んでも、天才と呼ばれる枠に入ることは出来ない。

 魔法も駄目。

 人には必ず一つは何か得意があるらしいけどわからないよ。神様、それが本当なら教えて。

 私には誇れるものが何があるの?

 それとも、なにもないのかな。

 せめて、使い魔だけでいい。使い魔だけは私と相性の合うものを与えてください。

 





 召喚の用意がされた部屋の中央に私は両親に挟まれる形で立っている。私は召喚具の一つである水鏡を覗き込んだ。

 そこにはいつもと変わらない自分の姿がこちらを見つめ返している。金色の髪に、血のように赤い目。


 「はぁ〜。どうして私、シーユ様と同じなのかしら。色の組み合わせなんて他にたくさんあるのに」


 思わずため息が出てしまう。

 シーユ様と言うのは、千年前にこの世界を闇から救った賢者様のこと。誰もが彼女に憧れる。

 魔力が多く、ものすごーく美人な人だったらしい。私は髪と瞳の色以外、平凡な少女。

 

 シーユ様は強い。この世界の誰よりも。

 でも、私は………。

 シーユ様の色を神様に授かっても、マイナス思考から抜けられない。

 

 「大丈夫よ。リル、あなたならきっと優しい使い魔を召喚できるし、選定だってそこそこ良い数値になるわよ。必ずしも、強いことが良いとは限らない。かつて、シーユ様もそうおっしゃったわ」


そう言って、私の頭を撫でてくれる。 

 お母さんはいつも私の欲しい言葉を与えてくれる。何度、落ちこぼれと言われた私を慰めてくれたか。 

 

 私は、落ちこぼれの魔女とよく言われるが別に魔法が使えないとか、威力が無いとかそんなことが理由ではない。

 ある魔法が使えないのだ。初級の、魔法使いなら誰にも使えるような魔法が。その魔法が使えないがために、この里の人は私のことを蔑んだ目でいつもいつも見てくる。  


 練習すれば上手くなれると、最初の頃は気楽に思っていた。

 けれど、何度してもダメ。

 できない、怖い、嫌だ。

 あの感覚を、なんて言うのかな。……そう、まるで魔力が拒否するような、その魔法を使うなと言われているような。

 使ってはいけないと思ってしまう。

 地から足を離したからといって、なにか変わることもないのに………。


 それ以外は、普通に魔法を使うことができる。ううん、むしろまわりの魔法使いの魔法よりも強い。実践数は少ないけれど華月の里の長であるお母さんに手ほどきをしてもらったのだから。


 「リル、きっと上手くいく。さあ、目を閉じて唱えて。召喚の言葉を」 

 

 使い魔とは主と、つまり私と生涯共に寄り添ってくれる、魔力を持つ獣のことだ。 

 魔法使いは、何故か長寿だ。 

 魔力の量にもよるが平均でも二百歳は生きる。対して、使い魔は契約前だと長くて百歳くらいまでしか生きられない。だが、人と契約することで共に生きること、寿命を伸ばすことができる。 

 そのかわりに、使い魔は魔法のサポートをし、主の言うことには逆らわないらしい。

 

 いいつけを聞かないような使い魔でも、可愛がるから、私を認めてくれるような使い魔が来てくれますように。

 

 わたしは、水鏡の前に跪き額の前で手を組んだ。


 【我名はリル・ライラント。華月の魔女なり。 

  開け、火のように。導け、我が運命。水の

  ように気ままに、風よ、吹き裂け。その絆よ、

  永遠の樹となれ。金色に輝く我が半身。

  その名はーーー】


 魔法は大きく分けて、木、火、土、金、水、風、療、光、闇、無、十属性あり、召喚の魔法はあまりない無属性に分けられる。

 召喚する使い魔の属性が呪文に影響されないようにするためらしい。 


 生涯一度しか使わない呪文だが今まで何度練習して口ずさんだか……。

 全力で祈った、私と相性の合った優しい使い魔が来てくれますように。弱くても強くてもどちらでも構わないから。

 そして、最初で最後の魔法を使った。


【ヴァル!】

 

 今のは名前、もしもこの名を使い魔が承諾したら、これが鎖となって魂を縛る。そして、主人に背けなくなるのだ。


 唱え終わるのと同時に強い光を感じて、思わず目を閉じた。暖かいような、冷たいような、よく分からない類のない風が吹き、何が来るような気配がした。嫌な気配ではない。

 優しく包み込むような気配。 

 

 しばらくすると、風がおさまった。

 そして、そっと目を開けると、そこにはいた。これからのわたしの相棒が。


 私とは、正反対の容姿をした綺麗な獣が。


 私が十五年、欲しかった色。


 それは、犬のようだった。大きな立ち耳に、銀の毛並み、瞳の色は深い蒼色。高さが、腰あたりまであることから、やはり普通の犬とは違うことが分かる。

 そりゃあそうだ。使い魔と一般動物とは根本的に異なるのだから。


 そっと、月光のような毛に触れる。 

 その毛布は私の指を軽く埋めた。

 柔らかい。  

 神々しい銀の獣は、その姿とは逆にふんわりとした毛を持っている。 


 獣は、ヴァルは、こちらを真っ直ぐに見つめていた。私も、腰を下げ目線を合わせ、その宝玉のような目を見て言った。


「私はリル。リル・ライラントよ。得意な魔法属性は水よ。私に就いてくれるなら、これからよろしくね、ヴァル」



 

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