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17話 オリエンテーション7(朝起きて……)

「……ル。ル………リル?リル」

 

 ん?すんごく遠くから声が聞こえる。


 そうか、私の名はリルか。

 そうかそうか、なんだか眠いなあ……。

 花畑に立つ白い天使が私に手招きをしている。天使さんもう少し寝かせて。

 くーー………。


「リル。起きてよ、リル!」


「はいっ、天使様!」


 なっ、なんだ?

 火事?それとも地震?どこに避難すれば……

 あれ?思わず返事をして飛び起きたけれど、ここどこだ?


 確かオリエンテーションで森、というか丘に来ていて、サキシアス先生が来て、星を見て、それから……。


「ヤバイ!」


 とっさに跳ね起きて見たのは火事、ではなく焚き火。

 

「良かった……」


 火は消えかけながらもなんとか燃えている。

 本当に消えかけているので、安心はできないが。危

なかった、火が消えたら魔物が寄り付いてくる所だ。


 一応、結界を張ってはいるが完璧というわけでは無さそうだし。

 慌てて近くに置いてある薪を何本か、引っ掴んで入れたあと、一息ついたところで何かが顔を覗きこんできた。


「おはよう。そして久しぶり!私を覚えているわよね?大丈夫だった?なんか寝ぼけたついでに慌てていたけど」


 見上げるとそこにいたのは、つい先日、友達になったユールだった。

 真っ白い髪を爽やかな風に流し朝日に染めながら、私を見て立っていた。


 どうやら変なところを見られてしまったいたようなので、ここは真面目に平常通りに……。


「お、おはよう。もちろん覚えているわ。あなたは私の初めての友達だもの。でも、私、寝ぼけてなんてないわよ」


 そうしてすまし顔で言ったつもりなのに、ユールはそれでもなお笑うのだ。眉を寄せて笑うものだからこちらとしては恥ずかしい。

 もしや、ユール、あなたは私のごまかしを信じていないわね?


「ふーん?リル、あなたが寝ぼけていなかったのは認めてあげるわ。でも、慌てていたのは否定しないわ。私を天使と見間違うなんて、悪い気はしないわ」


「……………」


 きっと、ユールはなんでも見通せるのね。私の嘘に呑まれようともしない。

 これは隠そうとするだけ無駄というやつだわ。

 ひとまず、ここは別のことをして気を他のことに向けてしまいましょう。

 あわよくば忘れさせてしまおう。記憶は上書きができるものだ。

 そうよ、それが一番だわ。



・ ・ ・ ・ ・




 かくして私たちは朝食を摂ることにした。


 本日の朝食は春キャベツのグラタンと白パン。メニューが軽めでやはり保存食だが、美味しい。朝に食べるにはちょうど良い量だ。

 今回、レーズンパンが入っていなくてほっとしたのは、いうまでもない。


「リル、早かったわね。ここについたのいつなのよ」 

「ええーっと、昨日の夕方あたり、だっけかな」


「えっ、嘘でしょう?どんだけ飛ばして、へ?す、す

ごいわね。私は理解不能だわ」


「そんなに驚かないで。パンがのどに詰まるから。それに私の力で飛んできたわけじゃあないから。私、【飛行】が使えなくて使い魔に飛んでもらっただけだから」


 それでも、本気ではないとボヤいていたっけ。

 チラッとヴァルに目を向けるがヴァルは寝たままで、少しも動こうともしない。

 ご飯、いらないのかしら。

 まあ、一応は残しておくけど。起きなかったら昼に食べるかな。


「そうだとしても。夕方は早いわ!さすが天狼ね……」


「テンロウ?そういや、ヴァルを呼び出したとき自分をそう言っていたわ。綺麗だしすごい犬よね。私は天に分不相応な素晴らしい使い魔を貰ったわ」


 心からそう思っている。

 なのに、私の話を聞いたユールは半眼になっていた。


「……犬?天狼を?そんなに美しい獣なのにただ一言。犬って……。ああ、そうか。もしかしてリル、天狼についてよく知らないのではない?」


 気づいた。

 ユールは呆れているのだ。原因は不明であるが呆れたのは私に対する何かであろう。

 この場面で、下手に口を開けば私の知識が少ないのがバレバレになる。

 だから、返事はコクンと頷くまでに留まった。


「その獣は天気の天に、狼と書いて天狼なのよ。炎を吐き、空を稲妻の如く駆ける。生物学界では有名な個体。でも、犬というのも半分は正解。天狼は犬と狼のどちらの要素もあるから」


 へー。

 あまりの迫力に相槌を打つことすらできない。

 ヴァル、走りだけでもすごいのはわかってはいたけど、ユールの興奮度からして想像よりももっと格上なのね。 


 出会った時よりもユールが饒舌になっている。異常現象なのか、それともこちらが素か?

 ……どちらだろう。

 ユールはこちらには気にせず話続けている。


「そして、なんと、光の賢者様の使い魔も天狼であったと伝えられているのよ!その身体は金色に光ったらしいけど」


「……何ですって!?」


 驚きのあまりようやく声が出せた。

 危なかった、うっかりパンが食道をふさぐところだ。

 そんなこと聞いたことないよ。

 私の絵本にはそんなこと書いてなかったわよ?

 だけど、絵本は子供用に最低限のことしか載っておらず、使い魔の表記もなく、そこまで詳細まで書かれていなかったから嘘とはいえない。


 ふと、入学式の時を思い出した。

 そういや会場に入る前にこちらを見ている人がいたわね。あれは新しく列に並んだ者に対する興味ではなく、もしや興味はヴァルに向いていたのかしら。

 ということになると、私以外はシーユ様の使い魔についての知識があった……。


 そんな訳……あるかも?

 そうであれば、私は魔法以外についての勉強するべきかもしれないわ……。これじゃ魔法しかできない魔法バカだ。魔法すら並より少し使えるだけなのに。 


 もう少し話を聞かせてもらうことにした。


「シーユ様の?」


「そうよ。私、彼女のファンなの。だから、光と闇の伝説についてはたくさん情報を集めたわ」


「なるほど……」


 光と闇の伝説、に詳しい理由はふに落ちた。

 ファンなら、調べて分かることもあるのかも。シーユ様のファンはともかく、好きだという人は大勢いるもの。


「なんて、幸運なのかしら。シーユ様の使い魔と同じ種の獣に会えるなんて。リル、あなたが金髪なら目が赤いし完全完璧だったわね。伝説が始まりそうなことになっていたかも」


 そうね。

 本当にあなたにはなんでも見通せる力があるのね。天能?

 けど、後日天能ではないと言われる。

 


 あえて、髪色については黙っておいた。

 ユール打ち明ける時、誰かに見られているかもしれないし、シーユ様ファンのユールが嬉しさのあまりクラスメイトに言わないとも限らない。

 伝説扱いされるのはごめんだし。

 私は光の賢者様とは別の賢者を目指しているのだから。


 けれど、たとえば、ユールともう少し関わって仲良くなった頃には秘密を言ってしまってもいいのだと思う。

 緊張で気づいていなかっただけかもだけど、魔道具の髪留めの魔法で記憶にないだけで、本当は一度本来の私を見ているわけだし。



 

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