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12話 オリエンテーション2(夜明けの空より出発する)

 ヴァルと、その背に乗せてもらった私は音も立てず屋上の空いている空間に降り立った。地についたときも衝撃はなかった。

 まるで風が地面をなでるように。

(足音なしで降りられたということは肉球もあるのか?犬科っぽいし)


 重くなかったろうか?

 私はすぐに背から降りた。


 まだ人はそんなにいない。

 いるのはクラスメイト10人くらいと、先生が二人。暗くてよく見えないがそんな面子だ。

 クラスメイトの顔をまだ覚えていないがここにいるならそうなのだろう。


 先日、担任と名乗ったサキシアス先生と、もう一人。ほんわりとしたオーラを纏った先生がいる。青と碧のグラデーションのかかった髪が他ではあまり類を見ないのに既視感を覚えるのが印象的だ。


 初見の先生もサキシアス先生も、ありえないというようにこちらを見てきた。

 …………そう、よね。


 きっとこの実技は初級の魔法を使わせて魔法をどれだけ使えるのか測るのが目的だったのよね。それなのに魔法を使わずに、あまつさえ使い魔にここまで運んでもらうなんて変よね。


 仕方ないじゃない、屋上に行くには壁をよじ登るかヴァルに運んでもらうしか選択肢がなかったのよ。

 だから、言い訳させてもらうわ。


「あの、申し訳ありません。こうするのが手取りばやいと思いまして、その、あの、いけなかったでしょうか?」


 思いの外緊張していたみたいだ。

 言葉がしどろもどろになってしまっていた。

 答えてくれたのは、サキシアス先生の方だった。暗闇で、しかも先生は髪も服も黒色だから馴染んでしまってよく見えない。この先生は話しにくい雰囲気なのだけど。自己紹介の時も壁を作っているような気がしたし。


「いや、そうではない。むしろ、思考力という項目では良い」


「そうですね、ここまで使い魔と結びがつよいとは。しかも、天狼ですよ」


 なんか、生徒の私にも敬語を使うなんて腰の低い先生ね。サキシアス先生より下の先生だろうか?

 どっちにしても、先生は先生だ。

 それにしても、テンロウか。

 ヴァルが自分の種族のことをそう、言ったわね。

 見た目は、犬だからテンロウ犬と言ったところだろうか。


「加点ですね」


 あれ?

 サキシアス先生、この先生には敬語を使うんだ。

 お互いに腰が低くて、変な感じ。

 それに何か言われるとは思ったけど、まさか加点とは。なんだか、後ろから視線を感じる。

 いいものではなさそうね。


「ええ。リルでしたっけ」


 先生は私の名前を知っているらしい。

 背の高い、謎の先生はかがんで目線を合わせてきた。

 逆に私は知らない。

 できれば、名前くらい知っておきたいけれどこの場で聞くのは違う気がする。この学校で暮らすのだし、いつか、名を聞く機会くらいあるだろう。

 変に間が空いてしまったが、はい、と答えた。


「あなたほど、使い魔に好かれるのは珍しいのですよ」


 好かれる?

 疑問に思ったけど、確かにヴァルは優しさがある、ちょっと乱暴なところもあるけど。それはさっき空を飛んだ時に分かった。


 けど、好かれているのかな?

 ヴァルを見たけれど足元で座っているだけで何も言わない。それに、反応も示さない。考え事をしているというふうだ。


「魔法は苦手を練習するのも大切ですが、得意を伸ばすことがより重大なものなのですよ。リル、ぜひ長所をここで伸ばしてください」

「はい」


 私が返事した後、先生は頷いた。

 そして、サキシアス先生のほうを見て目配せし、もう一度私のほうをむいた。


「それでは用があるのでこれで失礼します。また、会いましょう」


 柔らかな雰囲気の先生も、学校にちゃんといるのだ。それがなぜして、担任の先生が怖そうな先生に運悪く当たってしまったのか。


 それだけ言って、箒に乗り去っていった。

 急いでいたらしい。

 もしかして、先生方のお話を邪魔してしまったりしていないだろうか?怒った感じはしなかったが。

 ほんの少し、木のような匂いがしてきた。


 まだ、夜は明けない。

 闇が続いていて、星も瞬いている。

 周りを見るといつの間にかたくさんの人が集まっていた。 


 皆、箒を持っている。

 それ以外はどうやら私を除いたらいないようだ。

 そして、小さな人のグループがいくつかできている。あれは、きっとオリエンテーションも始まっていないのに友達を作ろうとしている集団ね。

 あそこに混じりたいとは思えない。

 人がやたら密集しているのは、その中に入るのも近づくのも憚られる。


 同じ1組に友達がいたことに気づきユールを探そうとしたが願いは叶わなかった。


 先生がオリエンテーションの説明をする、と言って集合の号令をかけたからだ。



・ ・ ・ ・ ・


「一組の全員、40名が揃ったので今からオリエンテーションについての説明をする」


 先生の号令で皆集まった。

 ただ、暗闇でサキシアス先生の顔はよく見えないので声のする方向に体を向けている時いう感じだ。


 クラスメイトは先生の声に集中していて物音一つ立てないし、鳥も木もまだ眠っているようであたりは静まりかえっている。

 その静寂の中で先生の声だけが響き、溶けていくようだ。


「今回は時間よりも前に集まることができたようなので褒めよう。だが、それは年度が始まったばかりだからだ。これからも、この締まりを忘れずに行動しろ」


 さっきのサキシアス先生が謎の先生に敬語を使っていたのが嘘のように声音は元の冷たいものに戻っていた。

 どちらが本当だろうか?


「さて、本題のオリエンテーションについてだ。このオリエンテーションではいくつか課題を用意した。これに全力で取り組め。一つ目の集合はクリアだ!だが、クリアと評価は別だ。成績は評価を元につけるから、そのつもりで頑張るように」

 

 場の空気が緊張感を帯びたのが分かる。

 ようは、成績優秀を目指す人が多いのだ。

 なぜなら、この学校の成績優秀者は良い就職先が見つかりやすいから。貴族の女性は成績が良いと婚約者が見つけやすいらしい。 

 私は成績優秀を目指したい訳ではないが強い魔法使いになりたいなら必然的に成績優秀にならなければばならない。 


 ちなみに、課題をクリアさえすれば卒業はできる。


「今から二つ目の課題を言わせてもらう。二つ目は飛行移動だ。目的地まで飛んでもらう。時間はどれだけかけてもかまわん。野宿する場合は場所を考え、方法はこの屋上まで来た方法と同じにすること。最上位でたどり着いたものには景品を渡そう」

 

 飛行の競争、リレーか。

 初めて、黙っていた生徒がざわついた。

 魔法術学校の景品は豪華なことで有名だから。


「目的地は太陽の沈む方向にある、西果ての丘。これが地図だ」


 そう言って、一人一人の手元に地図らしき紙が落ちてくる。


 王都魔法術学校、と記された場所が点で赤く光っている。現在地が光っているのだ。

 これがある限り迷うことはない。

 本当に、ただの競争ということか。


「ちなみに、俺は今、分身の魔法を使っている。後、数秒で目的地にいる本体に戻るので各自、自分のタイミングで出発すること。ではな」


「あっ……」


 叫んだのは誰か。

 サキシアス先生は話が終わると共に消えてしまった。質問は受け付けない、考えろという意図か。

 太陽が夜を消そうとしている。

 空がほんのり、明るくなってきている。



 それから皆の反応はバラバラだった。

 それぞれ、戦略を考えているのだ。

 すぐに猛スピードで飛び立つもの、計算してか遅くも早くもなく飛ぶもの、そして……


 私は地図を見た。

 サキシアス先生が野宿という言葉を出した理由も分かる。普通なら、一泊はする距離だ。

 西果ての丘まで地図ではかなり遠い。

 家から学校までの何倍だろう?


 問題は、ヴァルがどれだけの速さで飛べるかだけど……

 ヴァルは空の方が早く駆けられると言った。

 地を走った時、十分に早かったというのに。

 私も移動することにした。


「ヴァル、また乗せてくれる?」


「ああ、勿論だ」


 今度は突き飛ばされることなく自分の足で背に乗った。

 あらためて乗ると、ヴァルは大きいと思う。

 背に乗ると、普段の目線より高い位置を見ることができる。しかも、毛がふさふさで気持ちいい。軽く指が毛に埋まる。

 気持ち良くてすりすりしたくなるけど、今は我慢する。これは授業だ。


 他のクラスメイトよりのんびりしているのは、混雑を避けるため。衝突事故でも起こしたら、競争どころではなくなってしまうから。

 すいた場所を狙って飛ぶ方が楽だし安全性も高い。

 もう、クラスメイトは残っていない。

 ユールも先に行ったのだろう。向こうで会えたらいいな。クラスの人数はそこまででもないし目的地で探してみよう。

 

 誰もいなくなった屋上から飛び立った。


 丁度よくその時、背後で朝を運ぶ光が輝きを見せた。

 



 


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