11話 オリエンテーション1(夜明けの空で)
私は、夜明け前に目をさました。
ちゃんと、昨日決めていた時間に起きることもできた。(ヴァルに起こしてもらったけど)
ヴァル、こんな時間に起きられたなんて……、ちゃんと寝ることができたのかしら?
かく言う私は、いつもより早くに寝たのに爆睡していてヴァルに起こしてもらうまで、寝言を話していたという。
睡眠が浅くて良からぬ夢を見たかもしれない。いつもみたいにさっぱりと目が覚めない。
時間帯が違うからというだけかもしれないけど。
先輩はどこへ行ったかは分からないが、私が目を覚ました時には部屋にいなかった。
はや起きだな。
お腹がすいて食堂へ行ったのか、はたまたこんな時間から魔法の練習をしに外へ行ったのか。可能性はどちらもあるが、やはりテル先輩なら後者であろう。
制服を着て、魔道具で髪を低い位置で止めたら部屋を出た。
私は、私たちは、まだ寝ている人もいることを考慮して忍び足で寮のすぐ側の校舎に向かった。
・ ・ ・ ・ ・
さて、困ったことになった。
遅刻はしていない。
もちろん場所を忘れたわけでもない。
だが、場所が場所だ。
先生は屋上が集合だと言った。
そして、それが原因でピンチに陥っている。
屋上へ続く階段は校舎の中。その校舎が施錠されているのだ。まあ普通、学校は警備が固いものだものね。
はあー。どうしようか?
壁に力いっぱい魔法を放って破壊する?
せめて、前日によく考えたら、今には対策ができたかもしれない。
他の生徒はどうしているのだろう?
ふと、辺りを見回すと何かが上空を横切って行った。
あっ、あれは生徒だわ、箒にまたがった。
制服を着ているのが見えた。
どうしよう?
私、その魔法使えない。
やっぱり、校舎へ入る道を探さないと。それかいっそ壁をよじ登る?
「ちなみに、屋上へ向かう階段なんて一昨日見た時はなかったぞ!」
思考を読んだようなタイミングで行った。
希望は消えた。
つまり、最初からそのつもりだったのか。
サキシアス先生はオリエンテーションは授業だと言った。すなわち、もう授業は始まっているのだ。
【飛行】は初級魔法だ。簡単な誰にも使える魔法初心者が魔法なれするためのような簡単な。そう、普通なら……。
本当にどうしよう?
このままだと完全に遅刻だわ。
登るか、これ。
そう決意して壁のでっぱったどころに手をかけようとしたとき、ヴァルが言った。
「数日前、言っただろうもう忘れたのか?」
なんか言われたっけ?
考えてみた。
ん、んんんー?
「言っただろう?俺がどこへでも連れてゆくと」
あー、言われたわね。
でも今、私が行きたいのは遥か高いところなのよ?
疑問を口にする前にヴァルに鼻先で突かれて、気がついたら背の上にいた。それは、仕方ないなというふうに。
前に、というかつい最近、同じことをされたので身構えることはできたが……
地上を走るのはできても、あんな高い場所までジャンプするのは、俊足のは足をもってしても難しいだろう。
「飛べばいいのだろう?飛ぶのが怖かったら目をつぶっていろ」
どういうこと?
そう聞く間もなく、足にあった地面の感覚がなくなり変わりに浮遊感に襲われた。
怖い!と瞬間には思ったけれど不思議にそうは思わなくなった。
なんと!飛んでいた。一度も辿り着けなかった場所を。どうして?ヴァル!?
ヴァルには翼なんてないよね?
でも、安心感があるだけで不安はない。なぜかな?
箒が細くて、ヴァルの背は大きいからかな?
今、立っていたところがどんどん小さくなる。
その感覚に目眩を覚えながら、今度はまっすぐ前を見た。
素敵、空はこんなに気持ちのいいものなのね。
もうヴァルが翼がないのにとか、不思議だとか考えてもいなかった。
夜明け前の直前の空気は冷たくて心地よい。
屋上にはまだ数人しか人がいない。
私は今一度、闇夜の空気を肺いっぱいに吸い込んで深呼吸した。
「俺はな、地上も早く走られるが空はもっと早く走られるんだ。俺が好きなこの空をリルが好きになると嬉しい」
十分よ。もう、好きだよ。
自分で飛べなくても、ヴァルが見せてくれるなら。
ずっと嫌いだった。そして嫌われているのだと思った。
嫌いでなくなっても自分で飛ぶとなると別の話だが……。
けど、今は空よりもヴァルの少し分かりにくい行動が好きだな。
ヴァルは口調は悪いが不器用な優しさがあるな。
もちろん素で話せと無理強いさせたのは私自身だけれど。
それにしても、こんな私の使い魔によくなってくれたものだ。私は本当にヴァルが主と認めるだけの価値を持ち合わせているのだろうか?
相応しくなれるよう、テル先輩に言ったように賢者を目指してみよう。膨大な魔力量という可能性は、持ち合わせているらしいのだから。
これが、今生で初めて空を飛んだ日。
きっとこの感動は一生忘れない。




