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10話 つかの間の休暇日(木と、水と、精霊と)

「あ、あのすみません」

 

 私は入学式に出会った白の少女に声を掛けた。


「っ………!」


 少女は、湖を見ていて私たちに気付いていなかったらしい。

 驚かせてしまったようで、目を丸くしている。


「あなた、あのときの…?」


 ああ、やっぱり使い魔に手を触れたことを怒っていたのか。

 何か言われる前に謝ろうとした。が、私に話す間を与えず少女は私の手をパッととった。そして予想外の言葉を口にした。


「あの、教えてください。どうやったらあんな風に使い魔と仲良くなれますか?」

「へ?」


 その口調は怒っているという感情はどこか懇願するようだ。とりあえず、怒っていなくて良かった。

 ふと、手首に目を向けるとあの時のように右の手首に白蛇が巻きついていた。


 仲良く?

 どういうことか私には分からないが。

 この質問には代わりヴァルが答えてくれた。


「リルの周りには魔力が溢れている。しかも俺たちの波動にこれが合うらしい。溢れた魔力はの身体に纏わり付いていて、それに近づくと、すなわちリルに触れると気持ちが良くなるのだ」

「そうなの?ヴァル。なんだか、私も初耳な内容だったのだけれど……」


 魔力に波動があるだの聞いたことのない情報が聞こえていた。

 そうは言っても、私は魔法のこと以外はあまり勉強しておらず、その狭い範囲での知識なんてたかが知れているものだけれど。

 だけど、ヴァルの説明を受けた少女も呆けていた。


「魔力、そうなの?」


「ああ、そうだ」


「そっか。私の魔力は違うんだよね、きっと。だから上手くいかないんだ。残念だな。教えてくれてありがとう。でも、もう少し頑張ってみるよ」


 少女は何かに納得したというふうに、お礼を言った。

 その表情は僅かながら切なさを帯びている気がした。

 何に納得したというのだろう、何が上手くいかないのだろうか?

 聞かない方がいいのかも知れない。でも、……


「あのさ、聞いてもいい?ここで何をしていたの?」


 そう聞かれた少女は、かすかに迷いを見せた。

 数秒ほど間が空いて少女は口を開いた。


「よかったら聞いてくれないかな?嫌だったら私の独り言だと思って聞き流してくれてもいいから」


「うん、聞かせて」


「私ね、精霊と契約しようとしてたの。木の精霊と」


 精霊とは自然の存在する場に多くいる生き物だ。

 気まぐれで、だけど気に入ったものには親切らしい。

 精霊と使い魔は、契約できるという意味では似ていると言える。だが、本質的なものは異なっている。

 使い魔が、魔法使いと同様に体内に溜められている魔力で魔法を発動するのとは違い、精霊は大気中に漂う魔力と魔素を組み合わせて使う。だから、魔力切れなどは起こさず精霊の格とと契約主の魔力量で使う魔法の威力は変動するそうだ。

 契約すれば、精霊の体力が尽きるまで魔力を消費することなく魔法が使える。

 そして、契約主の魔力も増える。

 利点が多いことは分かるが、なぜこの少女はこの

時期のこの日に契約をしようと思ったのだろうか?


「私の家系はね、代々、精霊と契約することで魔力を増やしているの。理由は知らないけど、それが掟になんだって。家族が精霊と魔法を使っているのを見て憧れてた。私もお父様に魔法術学校へ入学したら精霊と契約しなさいと言われたの。だから、今さっそく契約してみようと思って、木の精霊を呼び出してみようとしたの。……ダメだった。契約どころか、姿を見せてもくれない。使い魔と呼び出してみても……。はあー」


 少女は大きめの溜息をついた。

 もしかしたら、引きこもっていた私とは違い、朝から精霊を呼び出そうとしていたのかしら。

 溜息には、疲れと落胆が入っている。


「もしかしたら、精霊と契約することは不向きなのかもしれない」


 そして、少女は再度小さく溜息をついた。


「聞かせてくれてありがとう。けど、ごめんね。私にはどうしていいのかわからないわ。ねえ、ヴァル。魔力には詳しかったけど、精霊について何か知ってる?」


 すると、隣で話を聞いていたヴァルは少女の近くへ行き、足元でいった。


「木の精霊以外で試したか?お前もそこそこ、いい魔力だ。」


「へ?やってないよ。だって、木の精霊が一番、契約しやすいと教わったから」


「お前、魔力属性は木でなかっただろう?」


「なんでそれを!?」

「匂いだ。お前からは木の匂いが全くしない。だが、かわりに澄んだ水のような匂いがする。そうだな……物は試しだ。そこの湖で水の精霊を呼び出してみろ。諦めるのはそれからでも遅くはないだろう?」


「う、ん?」


 ヴァルは声こそ穏やかだが、その奥には強い芯のようなものがある気がする。


 少女は、若干曖昧な返事をして、明らかに疑問を顔に浮かべながら湖に向かって手をさしだした。


「大自然に生ける精霊よ。水に住まう精霊よ。我が前にその姿をあらし、服従の意を示せ。【セルタヤ】」

 

 唱えた後は何も、起こらなかった。

 やっぱり、ダメだったかな?


 なんて思った瞬間、水が急に動いた。

 と、いうより吹き上げた。

 つ、冷たい。まだ、春だもの。水が冷たくて当然よね。てか、この水なに?水を浴びた私たちだっ、少女は震えていた。

 寒いのかしら?

 いいえ、違うわ。

 少女は水を浴びる前から視線を変えてはいなかった。ただ、一点を見つめていた。


 その先にいたものは、水の身体を持った魚だった。

 魚が水から出て、なんと水のないところで宙に浮かんで泳いでいる。不思議だわ。

 もしかして、これって?

 

 みなして驚いている時、初めに口を開いたのは魚だった。


「やあ、こんにちは。外に出たのは何百年ぶりかな?まあ、数えてなんかいないから分からないけれど、僕を呼び出してくれたのはそこの白いお嬢さんかな?優しい水の波動だね。そして、生気が溢れている、将来未知数の女の子か。よし!決めたよ。お嬢さんを契約の主人と認めるよ。僕を上手く使ってね?」


 な、なんかこの精霊が危ういような…。

 私は徐々に驚きから解放されていったが、少女は

口を開いて固まっていた。

 そして泣いていた。


「本当?本当に、私を、主と認めてくれるの?嘘じゃない?」

「お嬢さん、疑り深いね。ああ、間違い無いよ。逆に僕を捨てる無いでね。君を気に入ったのだから」


 精霊は直感で行動すると言うけれど、本当なのね。水から出てきてすぐ、契約するなんて。

 それとも、この少女が水に好かれる体質なのか。


 精霊は少女の周りを二、三周泳ぎ、それから姿を空気と同化させた。


「あ、ありがとう。私が精霊を呼び出して契約できるなんて……」


 少女は私の方に向き直りお礼を言った。


「いいえ、それなら。ヴァルに言って、私は何もしていないもの」


「あなたは、変わった人ね?」


「なにが?」


「普通の人は、使い魔のしたことでも自分の手柄にしたがるものなのよ。あなたは心が綺麗なのね」


 今度はヴァルの方に向き、頭を深々と下げて言った。


「見ず知らずの私を助けていただきありがとうございました。精霊と契約をすることは幼い時からの夢だったのです。あなた方になにがお礼がしたいのですが……」


「…俺はいらんぞ。知ってることを話しただけだ」


 ヴァルはシレっとした顔で答える。

 私は、そうね。

 なにもしていないけど、お礼をくれるというなら遠慮なく。これは、チャンスだわ。


「あのさ、お礼をくれるなら、友達になってくれない?わたし、この学校で友達いないのよ。同じ里から来た人はいるのだけれど友だちと呼べるような人はいないの」


 この学校で友達を作りたいと、数年前から考えてた。里では疎まれて、友達なんて出来なかったから。


「そんなことでいいの?あの、私も!私もまだ友達がいなくて。友達になるのがお礼になるのなら、是非」


 私は、手を少女に出した。


「私の名前はリル・ライラント。得意魔法は水属性よ。よろしくね」


「私は、ユール・ヨヌハータ。私も、水属性が得意なの。よろしく」


 ユールは私の手をぎゅっと握った。

 私は、ようやく人生で初めての友達を持つことができた。

 友達とは共にいるだけで生活が楽しくなるものだと聞いた。

 もし、それが本当ならいいな。これからの2年、どうせなら楽しんで学びたいもの。


 それから私たちはたわいのないことを湖のほとりで話し合って、気がついた時には陽の日が落ちかけていた。


 た、大変だ!

 夜の森は危険だ。

 魔物や魔族が出やすいと聞く。(魔族が出たというのは一度も聞いたことがないけれど)

 今思い出したが確か校則に、目立った行動をしすぎるべからず、というのがあった。


 例え魔物を倒せても、そのあと先生にお叱りを受けそうだ。あの、冷たそうな担任のサキシアス先生に?嫌だ!怖い。

 つまり、この場では魔物に出会さず、出来るだけはやく寮に戻るのが最善の作品だ。


 という訳で私たちは寮まで全力ダッシュしたのだった。


 なんだか最近、よく走る気がするわ。



・ ・ ・ ・ ・



 私がユールと寮にたどり着いたのは日が落ちてしまってから。

 ちなみに、ユールの部屋は3階らしい。

 羨ましいな。4階まで登るのは結構キツイのよね。これを2年間、毎日登るのか。


「じゃあ、リルまた明日のオリエンテーションで会おうね」

「ん?あした?」


 確か、先生はオリエンテーションはクラスごとにすると言っていたような気がする。

 もしかして、ユールも……


「ユール、クラスは何組?」

「一組だよ。しかも、席はリルの後ろ。気づいていなかった」


 私は素直にコクリと頷いた。

 後ろだったら、記憶に残っていても良さそうだけど。


「あっ、そうだ。リル、あの時体調悪そうだったから……」


 そうだった。

 乗り物(?)酔いがすごかったんだわ。

 そんな理由で覚えられていたとは………。

 うわ〜。なんか、気持ち悪さを思い出しかけた。あれはやばかった。


「昨日、ちょっと色々あって、もう大丈夫よ!」


「本当に?」


「ええ」


「そう、じゃあまた明日ね。明日は早いから早く寝たほうがいいよ。おやすみ」


「ありがとう。おやすみ」



 それからは食事をして、部屋に帰ったらすぐにベッドに入った。

 明日のオリエンテーションの集合は夜明けと同時。夜明け前、つまり4時くらいには起きなくてはならない。それに、オリエンテーションでは魔力を使うだろうから、寝て魔力を貯めないといけない。


 いつもより早い時間なので寝られるか不安だったがベッドに入るなりすぐに寝てしまった。ヴァルを抱き枕にして。


 


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