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後日譚

 数日後、私は母の墓参りに来ていた。

 今日は母の命日というわけでも、誕生日というわけでもない。しかし私は、どうしてもこの絵をお供えせずにはいられなかった。手に持った黒い箱に視線を落とす。

 人のものを勝手にお供えしてしまう形になるが、まあ叔父さんなら許してくれるだろう。もちろん叔父さんの記憶は戻ってきていない。

 今日は珍しくケイくんも一緒にきていたが、今はちょっといなかった。ただのトイレだ。墓地を前にして言い出したので、それならもう先に始めてしまおうと一人で入ってきてしまっているわけだ。

 いつもは父さんと来ているので、何となくでしか場所を覚えていなかったが、なんとか儚い記憶を頼りに母さんの墓を見つける。しかしそこには、見たことのない男の人が先に墓前に立っていた。

 背の高い男の人が墓前でタバコを吸い、虚空を見つめているというのは、何故だかわからないが様になっている気がする。

 男の人は私に気づいて顔を向けるが、そのまま微動だにしないのでこちらから「こんにちは」と声をかけて近づいた。

「母のお知り合いの方ですか?」

「あ、ああ」

 男の人はひと目で分かるくらい挙動不審になっていた。突然声をかけられて驚いたのだろうか。

「ええと、君は……、娘さんなんだね。これは失礼」

 もし私が覚えていないだけの知り合いや親戚だったらどうしようと思ったが、そういうわけでもないらしい。よかった。男の人は筒状の携帯灰皿を出して、手に持っていたタバコを中に押し込む。

「まあ、僕は母の知り合いというか、生前お世話になった者です」

「そうなんですね。私は娘の夏美といいます」

 そう言ってお辞儀をする。こう格好つけてはみるものの、こんなところで会った人にどう接すれば良いのかまるでわからない。普段は父に丸投げにしてる上に、会うのも親戚ばかりだ。

「あぁ、夏美ちゃん、夏美ちゃんね……」と男の人は未だ挙動不審気味につぶやくが、その目は一点を見つめていた。私の手元だ。どうやらお辞儀をした際に前に出た、この箱が気になるらしい。

「これがどうかしましたか?」

 私は箱を持ち上げる。今更だがこの男の人、少し怪しい。様子もそうだが、この人自体なんとなく見覚えもある気がするし……はて?

「あ、うん、それね。ここ大きなお供え物は禁止らしいから、ちょっと気になっただけだよ」

「なるほど」

 相槌を打ちながらも私は男の人の顔をじっと見る。やっぱり確かにどこかで見たことがある。しかしどうしても思い出せず、もどかしさを感じる。

「えぇっと、どうかした……?」

 見つめすぎてさすがに気づかれてしまった。恥ずかしさが勝り、目をそらしてしまう。

「いえ、なんでも」

「そう? じゃあ僕はこれで」

 男は私の横を抜け、墓地を去ろうとする。

「あ、はい。ありがとうございました……」

 消え入るような声しかでなかったせいか、男の反応は無かった。

 その時、やっと思い当たる。

 いやでも違うかもしれない。記憶が無いというのは本当に不便だ。向こうも私を知らないようだったしきっと違うのだろう。でももし当たっていたら。もしもう会えなかったら……。

 私は叫んだ。

「ありがとうございました!」

 男の人はビクリ肩を上げ、驚いて振り向く。そして再びお辞儀している私を見るとヘラヘラとした笑顔で手を振り、去っていった。

 しばらくして、墓前で手を合わせていると、やっとケイくんがやってきた。

「おっそいなあ」

「いやここ分かりづらすぎ」

 ケイくんも私の横に並んで手を合わせる。

「ていうかナッちゃんの声が聞こえてきてわかったんだよな。さっきの人、知り合い?」

 どうやらここにくるまでの間にすれ違ったらしい。ケイくんがわからないのなら、本当に違ったのかもしれない。

「う~ん。まあ、覚えてないかなあ」

 私は忘れっぽいのだ。

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