涼子(4)
「せっかく切り取るんだから、相手が食べにくい部分の方がいいと思うんだよね」
一つ提案がある。そう言って真樹人は私の耳たぶをつまみながら語りかけてきた。
身体がぶるっと震えた。
「こ……ま、か、このみみ?」
「君の耳は大きめだし、相手が失敗する可能性は高いと思うよ」
つまり真樹人の提案は相手のペナルティを誘発する狙いのようだ。確かに成功すれば、私は一度の肉の提供で相手に追加の肉を与える事が出来る。ペナルティの場合は、自分の肉を自分で食べるルールだ。有効打ではある。
が、正直どうだっていい。早くこの地獄が終わってさえくれれば。それに、断ればまた逆上される可能性がある。
結局私は、真樹人に耳を削がれるしかないのだ。
「は、い。はい。そ、おほいま、す。うぅうう、い……あああ」
「そうだろ? いい案だろ? そうと決まれば早速切り落とそう」
真樹人には罪悪感の欠片も見受けられない。私の身体を切り刻み、破壊する事に何の躊躇もない。改めて真樹人の異常さに背筋が凍った。
右耳の先端部分を指でつままれる感触。そしてその後すぐに、耳の付け根にひやっとした感触があたった。
「いくよー」
真樹人は言い終わるや否や、びりっと耳の付け根に強烈な電流のような鋭利な痛みが走った。痛みに飛び上がりそうになったが、それは始まりに過ぎなかった。そこから、びび、びびびびびり、びりりり、とあてがわれた凶器が私の顔から耳を剥がし始めた。
「ひ、ひぎっ! いいいがああがい、いっ、つ、いあああぎぎっ!」
「あーうるさいな。なんて品のない声だ。それでも女の子かよ」
真樹人の軽蔑の言葉を受けながら、耳はべろりとほとんど耳たぶの半分程度の部分でしか繋がっていない所まで剥がされてしまった。
「もうちぎれそうだな」
かちゃんと刃物を置く音が聞こえ、次の瞬間ぶちぶちちっと力任せの勢いで耳を引きちぎられた。
「っみ……!」
右耳が凄まじい熱を持ちながらねっとりとした血のどろつきでまみれていた。
「これはいいよ。絶対に食べられない」
そう言ってまた真樹人はその場から離れ、奥でがちゃがちゃぎりぎり音を鳴らし、それを終えると部屋から出ていった。向こうに私の耳を運びに行ったようだ。
「ふー、ふー、ふー……」
耳を覆う激痛や、今起きた惨い現実で壊れそうな心を落ち着かせるために荒い呼吸を繰り返した。だが何度呼吸を繰り返しても心拍数と共に乱れた精神は発狂する一歩手前で今にも壊れそうだった。
「ひー、ふー、ひー」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ殺される殺される殺される。
このままこんな事が続けば本当に私は殺されてしまう。今に耳なんてかわいい程度のものだったと思うような部位を切り取られる事になる。
耐えられるのか。肉体よりも精神が持つ気がしない。
落ち着け落ち着け落ち着け。
この異常がなぜ成立しているのか。何がどうなっているのか考えろ。
思考しろ。思考をやめるな。
思考、思考、しこ、思考、しここう、こうし、こしう、し、こうこうし。
考えもて改定書いている。生きている事が出死ぬより先になるかのだろうか?
「んぐ、ふぐ、ぐう、ぐう、ぐう」
だ、めか、も。