夏希(2)
「な、お、おおお、きぃ」
何も見えず、身体もうまく動かない。そしてついに指も切り取られた。
現実にこんな目にあうなんて想像もしていなかった。しかも何故そんな目にあっているのかも分からない。
「なんだい? お腹でも空いた? ちょうど良かったじゃないか。次は君が食べる番だよ」
自分の置かれた状況を今どれだけ自分は把握出来ているだろうか。
分かっている事はごく僅かだ。情報が足りなすぎる。せめて喋る事がもっと出来れば会話から探りを入れられそうなのにそれも許されない。
ここまで自由を奪っている理由は抵抗を防ぐという意味合いが大きいだろう。だが何故そこまでする必要があるのか。愉快犯なのか、はたまた明確な怨恨故か。理由が見えてこない不気味さが精神を圧迫し、体力の消耗を早めていく。
しかもそれがどこぞの見知らぬサイコパスではなく、見知った仲である尚樹という点がまたショックを大きくしている。どうしてよりにもよってあなたがこんな事を。
謎は他にもある。私の対戦相手だ。
私は一体誰の肉を切り、そして口にする事になるのか。
――ひょっとして……。
ここに尚樹がいるという事は、対戦相手も自分の身近な存在なのではないか。少なくとも考えられるのは、自分と同じように拘束されている者と、尚樹のような立ち位置の人間が向こうにもいるという事だ。でなければこのゲーム自体が成立しない。
ここにいるのが私と尚樹。ならば向こうにいるのは――。
「おもしろいゲームでしょ。こんな事僕じゃ考えつけない」
どうやら原案は尚樹ではないらしい。こんな趣味の悪い残酷なゲームを考えつくとは、相当向こうにいるもう一人は頭が狂っているようだ。
「君達のような欲深い最低な生き物にはぴったりだよ。素晴らしい」
欲深い最低な生き物とは、なかなかの言われ様だ。だが尚樹の発言で自分の中で先程思い描いた構図がほぼ間違いではないと思った。やはり向こうにいるのは、私とかなり近い存在だ。そしてそう考えた時、改めて戦慄した。
私の肉を喰う存在。私に肉を喰われる存在。そして向こうで彼女の肉を切る存在。
――正気なのか。
こんな事が知り合い同士で行われているなんて。
「君が食べる肉は、どの部分だろうね」




