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涼子(2)

「げ、げ、げえ」

「はは、鬼太郎かよ。りょうちゃん余裕だね。でもこっからはそうはいかないよ。マジでやらないと死んじゃうからね」


 死んじゃう。真樹人の声はいつも通りの軽い調子で全てが冗談に聞こえそうだが、おそらくこれは冗談ではない。冗談にしては状況が悪質すぎる。


「さて、いろいろ分からない事はあるだろうけど、答えは生き残ったら教えてあげよう。ともかく生きたいなら今から俺が説明する事をちゃんと聞く事だ。めんどいから二度は言わないよ。いいね?」


 有無を言わさない口調だった。私は何も言えず、頷く事も出来なかった。


「おい聞いてんのかよクソあま!」


 途端激昂した声と共に顎を思いっきり掴まれた。まるで万力のようにぎりぎりと顎をしめつける彼の握力に一切の容赦はなかった。


「ご、がが、ぐ、や、や、めめ……」

「あ、そっかごめんごめん。力入らないんだっけ。忘れてた」


 いつもの声音に戻り、何事もなかったかのようにふっと彼の手は離れた。いきなり口を掴まれた事で、少し口の中を噛んでしまったらしく、血の味が咥内にじわりと広がった。


「じゃあ気を取り直して。今からりょうちゃんにはあるゲームに参加してもらう。一対一の真剣勝負だ。でもルールはとってもシンプル。猿でも分かるほどに簡単だから安心して」


 真樹人の声はどこか楽しんでるように浮かれている。


「りょうちゃんにしてもらう事は、二択を選び取る事。ターン制で、りょうちゃんが選択を終えたら、次は相手側の選択に移る。基本的にはその繰り返しだ。さあ、ここで一番重要なポイント。りょうちゃんが選ぶ二択について。ここが一番大事なとこだから聞き漏らしのないように」


 この異常な状況において、まるでバラエティ番組の司会者のように芝居がかった彼の様子はひどく異質で、それが余計に私の中をぞわぞわと気持ち悪くさせ、恐怖に染めていった。


「りょうちゃんに与えられる二択。それは自分の肉を提供するか、対戦相手の肉を喰らうか。このどちらかだ」


 ――は?


 肉を提供するか、対戦相手の肉を喰らうか。

 それが私が選択する二択?


「いい間抜け面だねー。後で見せてあげたいくらいお見事だよ。でも俺が言ってる事はマジだからね。これはある種のデスゲームだ。君が死ぬか、相手が死ぬか。最悪どちらも死ぬ場合だってある。でも少なくとも、二人とも生き残るという未来は絶対にない。だから君は真剣に選ばなければいけない」

「え、ら、ぶ」

「そう、選ぶんだ。もう少しだけ詳しく説明しよう。まずは肉を提供する、を選んだ場合。この場合、俺がりょうちゃんの肉の一部を切り取らせてもらう。そしてその切り取った一部を対戦相手に食べてもらう」


 ――真樹人は、一体何を言ってるんだ。


 日本語はひどく正しい。何の文章も、言葉も、間違いはない。ただ出来上がった文章はあまりに歪で現実とは思えない奇怪で猟奇的なものだ。


「肉を喰らう、こっちを選んだ場合りょうちゃんの身体に一旦傷はつかないけど、その代わり対戦相手から提供される肉を完食しなければならない。どう、ここまでは分かるよね?」


 分からない。全く分からないし、分かりたくもない。肉、肉、肉。

 何故肉を切られたり食ったりしないといけないんだ。まるで理解が出来ない。しかしここで頷かなければ、また先程のようにいきなり真樹人の情緒が崩れるかもしれない。私はとりあえず訳も分からぬまま小さく頷くしかなかった。


「単純なルールだろ。基本はこれの繰り返しだ。ただペナルティがある。もしいずかれの形で相手から提供された肉を食べられなかった場合、その場合はペナルティとして自分の肉を自分自身で食べてもらう事になる。食べられなかった場合の判定だけど、例えば肉が提供されてくると、俺がりょうちゃんの口にその肉を放り込む。その肉を口から吐き出したり、制限時間以内に飲み込めなかった場合がペナルティにあたる。オッケー?」


 こくりと頷く。

 内容はとりあえず理解した。しかし倫理としてまるで理解も納得も出来ない。

 何のためのゲームなのか。そして対戦相手とは何なのか。そして私は勝つために、誰の肉を食べなければならないのか。

 

「とにかく勝つためには食い続ける事だよ。頑張ってね、りょうちゃん」


 なんて理不尽なんだ。いずれにしても私は相手の選択次第でも肉を切られる。無傷で五体満足でここを出られる保証はどこにもない。

 

この狂ったゲームは、一体何への罰なんだろう。


「さ、先行はりょうちゃんだ。Cut or Eat?」


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