069「いらっしゃい」
――嵐の前は、波が穏やかで静かなもの、のはずなんだけど。
「こんにちは。『ミチが行く。突撃ドッキリ? アポなし! 新婚さん、お邪魔しま~す』です!」
ダイニングテーブルの長辺に並び、仲睦まじくブランチにオムレツとカナッペを食べていたツカサとレイのところへ、向日葵のような晴れ晴れとした笑顔の参藤が闖入した。レイが片手で開いた口を押さえながら驚いている横で、ツカサは、静かにナイフとフォークをプラターの両端に置き、参藤の発言に冷静な批判を加える。
「そのバラエティー番組みたいなタイトルは何なんだ、参藤」
「あっ、そうですね。いきなりゴールデンに格上げされた深夜番組が、伸びた尺に困ってネタ切れし始めて、ついに迷走した、みたいな感じです」
レイがツカサに同意すると、参藤は、興奮気味に言う。
「ちょっとした、ジャーナリズムですよ。それでは、さっそく、夫さんから、新婚初夜の様子について、生々しいエピソードを聞いていきましょうかね」
「野次馬根性の間違いだろう。朝っぱらから、そんなことを訊く奴があるか」
「せっかく起こしてあげたのに、二度寝しちゃうものだから、もうすぐ十一時ですよ、ツカサさん。どっちかといえば、お昼に近いんじゃありませんか?」
露骨に嫌悪感を顔に表すツカサに対し、レイが今朝のことを含めて指摘すると、参藤は、手にしている傘の柄をツカサの頬に押し付けながら言う。
「二人の恋のキューピッドとしては、ものすご~く結末が気になるんです。さあさあ、クリームあんみつにメープルシロップをかけたような甘~いお話を、ぜひ!」
「傘をマイクみたいにするな!」
ツカサが片手で傘を振り払うと、参藤は、レイに傘の柄を向けながらインタビューする。
「おおっと。マスコミを敵に回す、塩対応ですね。人気作家の座に胡坐をかいて、すっかり天狗になってしまったのではないかと思われますが、どう思いますか、レイさん」
「そうですね。やはり作家という職業は、人気商売ですからね。記者さんには、もっとサービス精神を出さないと、有ること無いこと書かれて干されてしまうのではないでしょうか」
「そうですよね。――そういうことなのだよ、ツカサくん」
どこぞの学者か評論家のようなやり取りのあと、レイに同意をした参藤は、すぐに傘の柄をツカサのこめかみに当て、グリグリと押し付けながら言う。
「やめないか。頭痛がする」
ツカサが言い返したとき、そこへカヨがグラスに入れたアイスレモンティーを載せた銀盆を持って現れ、レイとツカサの前に置きつつ、自然な様子で参藤に対して言う。
「お茶をお持ちしました。――あっ、ミチさんの分は、あとでお持ちしますね」
「ありがとうございます」
「待って、九条さん。受け入れが早すぎる」
カヨに礼を言う参藤、苦言を呈するツカサ、ツカサの物言いを素知らぬ様子でスルーして部屋をあとにするカヨの三者三様の対応を見ながら、レイは、カナッペに手を伸ばす。
――ここまで予想外に色んなことがあったけど、これからも想像を超えるような出来事が待っていそう。





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