067「披露宴(Ⅳ)」※アヤ視点
――挨拶は短いほうが良い。幸福は長いほうが良い。長い挨拶のある式を挙げて、短い幸福しか得られなかった私が言うのだから、まず間違いない。
「いやあ、助かったよ。あのまま、向こうの奥さんの長話に付き合わされたんじゃ、料理を堪能するどころじゃなかったからね。ありがとう、六岡さん」
「どういたしまして」
噴水のほとりの縁石の上に、ジャケットを脱いだマサルと、スラックスに穿き替えたアヤが並んで座り、昇っては落ちる水の流れや飛沫、水面に浮かんでいる閉じかけのスイレンの花などを見るともなしに見ながら、他愛無く会話している。二人の周囲に、二人を知る人物の影は無い。
「僕も、一世一代の大芝居を打ったものだからね。これで式が大失敗だったら、縁談を取り消すところだったよ。ハハッ」
小さく笑いをこぼすマサルに、アヤは同調してクスッと笑ってから言う。
「無事に終わってよかったですよね。でも、芝居で終わらせて良いんですか? 係りの人に預けてる私の手荷物には、カスミソウのブーケがありますよ?」
小首を傾げつつ、アヤがマサルのほうを向くと、視線を感じたマサルは、少し恥ずかしそうにしながら言う。
「このあと、予定は?」
「明日の午後まで空いてます。というより、無理を言って空けてもらいました。さっき、着替えに行く途中の廊下で三谷さんに訊いてみたんですけど、この近くに、雰囲気が良くて、平日の夜は比較的空いてるバーがあるそうですよ?」
これでどうだ、とばかりにグイグイと外濠を固めていくアヤに対し、マサルは、やや困った顔をしながらも、まんざらでもない調子で言う。
「参ったね。そこまで誘われちゃ、無下にできないよ。でも、ご祝儀に結構な額を包んだからなあ」
――ない袖は振れぬ、か。ノースリーブで結構よ。
「奢ってもらおうなんて、ちっとも考えてませんよ。割り勘で良いですから、行きましょうよ?」
アヤが、やや強引に詰め寄ると、マサルは、ポリポリと指で頬を引っ掻きながら言う。
「そう言われると、助かるような、情けないような」
「何を言ってるんですか。私だって、ちゃんと働いて稼いでるんですから、良いじゃありませんか。それとも、バツイチの私では不満ですか?」
――さあ、来い。ここまで言って食いついてこないなら、とんだ甲斐性なしの臆病者だぞ。
機嫌を損ねた様子で、アヤが口の端を歪めながら言うと、マサルは、機嫌を取るように言う。
「いや、そんなことは無い。わかった。行こう」
――よっしゃ。第一ステップ、クリア。
 





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