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065「披露宴(Ⅱ)」※シゲル視点

――じっと着席して馴れ初めや祝電を披露されるより、立食パーティーのほうが、ずっと気易くていい。ガーデンテラスに、こうして休憩用のベンチがあることもある。

「隣、よろしいですか、一橋さん」

 ベンチに座り、紺碧の空を流れる一筋の飛行機雲を見ながらボンヤリと休憩しているシゲルに、コーヒーカップを二つ持ったマコトが声を掛ける。

「ああ、七尾くんか。どうぞ、座りなさい」

「では、お邪魔します。平日ですけど、今日の講義は、お休みですか?」

 片方のカップを手渡しながらマコトが言うと、シゲルは、カップを受け取りながら言う。

「講義も教授会も、代理を立ててきたんだ」

「そうでしたか。その代理というのは、いつぞやの、壱関ハジメさんですか?」

 マコトが、斜め下に目線を外しながら言うと、シゲルは、それに同意し、感心して言う。

「そうそう、壱関くんだ。よく覚えているね」

「顧客情報の記憶には、自信があるのです。前に一度、お嬢さんのランドセルのことで、相談を受けましたから」

――そうだった、そうだった。多少、値が張っても構わないから、六年間使うに堪えるだけの品が欲しいと言われて、業者を紹介してもらったんだった。

「もう、小学生の子供が居てもおかしくない歳なんだよな、僕も」

 山際に湧いた綿菓子かシュークリームのような小さな積雲を見つつ、シゲルが感慨深げに言ってコーヒーを口にすると、マコトは、同じタイミングでカップを口に運んで香りだけ嗅ぎ、すぐにカップを下ろして言う。

「八幡さんと言いましたか、たしか、妙齢の女性とお付き合いされてるとか何とか、噂になってますけれども、まだ、しばらくは、おひとりさまなのですか?」

――相変わらず、耳の早いことだな。どこにアンテナを張っているのやら、知れたものじゃない。

 シゲルは、カップを膝の上に降ろし、周囲の様子を見渡し、知り合いの姿が近くにないことを確かめてから言う。

「少なくとも、僕のほうは、そう考えてるよ。ただ、こういうことになると、周囲のお節介焼きが急かすものでね。壱関くんからは、早く婚姻届を出して教授夫人にしてやれ、なんて言われたよ」

「ハハッ。既婚者らしいですね。それで、それから、どうしたのですか?」

「プライベートな問題に土足で踏み込まれて、いくぶん腹が立ったものだから、君こそ論文を出して、早く教授夫人にしてやりたまえと言い返してやったよ」

「おやおや。痛いところを突きますね」

 そう言うと、マコトはカップを口に運び、慎重に漆黒の液を啜り始める。

――でも、今日の二人の幸せそうな姿を見たら、存外、結婚というのも悪くないのではないかと思えてきた。八幡さんは、どう思ったのだろう。

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