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064「披露宴(Ⅰ)」※ユキ視点

――厳かな式のあとは、肩肘張らず、皆さまが自由に歓談できるよう、ブッフェスタイルの披露宴をご用意しました、なんて厚化粧の白塗りお化けが言ってたけど、どうにも落ち着かない。

「ブッフェか。気取った言いかたで、なんだか背中がむず痒いな。立ち食いと言っちゃ駄目なのか?」

 ローストビーフを盛り付けた白い洋皿を持ちながら、ユキがヒビキに向かって言うと、クリームチーズとトマトがのったクラッカーとクロワッサンをのせた洋皿を持ったヒビキが、ユキに言い返す。

「いやいや。立ち食いって言ったら、そばとか、うどんとか、串カツとか、座る暇を惜しんで手早く済ませるイメージじゃないか。料理の豪華さや会場の優雅さが伝わらないよ」

――なんだかなあ。漢字や横文字にすれば、格上で有難いもののように考える風潮は、受け入れにくいものがある。

 ユキが、納得いかないといった様子で不満げな表情をしながら、フォークでローストビーフを口に詰め込んでいると、そこへシーザーサラダとコーンをのせた洋皿を持ったアヤが近寄り、二人に声を掛ける。

「こんにちは。たしか、ユキさんと言ったかしら。いつも、馬鹿弟がお世話になっております」

 アヤが身体を斜めに傾げて会釈しながら言うと、ユキは、口を押さえ、頬の中にいっぱいの牛肉を急いで咀嚼しつつ、軽く会釈を返す。

――こいつは、いや、この人は、六岡の姉貴で、えーっと、たしか、アヤさんと言ったかな。

 ユキが脳内で人名検索をしていると、クラッカーを食べ終えたヒビキが横から口を挟む。

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。未来のアーティスト様だぞ?」

 ヒビキがエッヘンと胸を張ると、アヤは呆れた表情をしながら、持っていたスプーンでヒビキを指しながら言う。

「そうやって、ふらふらと叶うかどうかも分からない夢を追いかけてるのが、馬鹿だっていうのよ。まあ、あんたの人生はあんたのものだから、好きなことをすれば良いと思って止めはしないけど、そのせいでユキさんに迷惑を掛けたら、私が承知しないんだから」

「へいへい、わかってますよ。薬さじを持った、ご立派な看護師さま」

「これは、普通のテーブルスプーンよ。こんなので、調合できるはずないじゃない」

 ヒビキが皮肉を込めた調子で、嫌そうな顔をしながら言い、それにアヤがツッコミを返すと、ユキはプッと笑いを吹き出す。

――真面目な姉と、適当な弟か。塩梅が良い姉弟だな。

「まあ、そんなことは置いといてさ。今日は、どういう風の吹き回しなんだ?」

「何がよ?」

 ヒビキの質問にアヤが疑問を返すと、ヒビキは目線を下げ、アヤの脚線を見ながら言う。

「決まってるだろうが。スカートとヒールをはいてることだ。大根脚だから、脚は見せない主義じゃなかったのか?」

――あっ、本当だ。今日は、ズボンと運動靴じゃない。

 揶揄うヒビキに対し、アヤは片手でヒビキの頬をつまんで捻りながら言う。

「レディーに対して失礼なことを言うのは、この口か?」

「イヒャイ。放してよ、姉ちゃん」

「なら、謝りなさい。謝罪と賠償を求める」

「もっ、申し訳ありませんでした!」

 そう言うと、ヒビキはアヤの皿にクロワッサンを載せる。アヤは、ヒビキの態度に満足して手を放す。

――なるほど。六岡の弱点も、頬なのか。アヤさんの弟に対する扱いかたは、いろいろと参考になるな。

 顎に手を当て、アヤに対して感心するユキと、頬をさするヒビキの二人の右手には、安物の同じ指輪がはめられている。

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