053「梅雨入り」
――ボウリングにゲームセンター、そして焼肉。動きやすくて汚れてもいい服装で来いと言ったのは、こういう理由があったからか。
「ボウリングにしても、クレーンゲームにしても、ずいぶん手慣れてたようだったけど、よく遊ぶの? ――そろそろ載せても大丈夫かな」
網の下の火加減を見つつ、レイが言うと、サトルは、トングで大皿の肉や野菜を小皿に二等分しながら言う。
「まあ、男同士ではな。弐村にしつこく誘われて、断り切れずに付き合うパターンが多いんだけどさ。投げるときのフォームや、取りかたのコツをなんかを、聞いてもいないのに教えてくれるんだ。――はい、四宮の分」
片方の小皿をサトルがレイに渡すと、レイは、それを受け取りつつ、厨房のほうを見ながら言う。
「ありがとう。――遅いわね、ライスとドリンク」
「忘れてるんじゃないか? 混んできたし。――すいません、ちょっと良いですか?」
サトルが店員を呼び止め、注文内容について確認しているあいだ、レイは、隣の席に置いてあるショルダーバッグと、その横で透明のビニール袋に入れられ、ひときわ存在感を放っているチョッキを着た兎のぬいぐるみを見て、小さく微笑む。
――タグにアームを引っ掻けて一回で取るなんてね。普通に買おうと思ったら、とても五百円では済まないものだから、ゲームセンターにしたら、大赤字ね。……でも、このぬいぐるみ、どこに置こうかな。胸に抱きしめて寝るような歳でもないし、着せ替えたり、話しかけたりするのも、ちょっと気恥しいものがある。だからといって、大事にしまっておくのも、もったいないわよね。
「すぐに持ってくるってさ。あっ、先に言っておくけど、この網目からこっちは、俺の陣地だからな。……聞いてるか?」
ぬいぐるみの扱いについて悩んでいるレイに向かって、トングの先で網の真ん中を線引きしてみせながらサトルが重要ぶって言うと、レイは、ワンテンポ遅れて返事をする。
「あっ、うん。聞いてる、聞いてる。それで、店員さんは何だって?」
「ぜんぜん聞いてないな。すぐに持ってくるって言ったって、いま俺が言ったんだ」
サトルが、語尾に苛立ちを顕わにしながら言うと、レイは、ムッと口の端を歪めて言い返す。
「ごめん。でも、そんなキツイ言いかたをしなくても良いじゃない」
そう言って、レイが菜箸で網の真ん中に肉を置くと、サトルは、載せられた肉をトングで端に寄せつつ、すぐに文句をつける。
「だから。ここからこっちは、俺のスペースだって言ったじゃないか。聞いとけよ」
「それについては、謝ったじゃない。蒸し返さないで」
レイが言ったあと、サトルとレイは無言で互いを睨み合っていたが、店員がジンジャーエールと烏龍茶、それから並盛のライスを二つを持ってきたところで、レイは烏龍茶とライスを、サトルはジンジャーエールとライスを手に取り、沈黙を保ったまま食事を始める。
――スプリットになったときに代わりに投げて倒してくれたり、取ったぬいぐるみをプレゼントしてくれたりしたときは、意外と優しいところがあると思ったのになあ。
このあと二人は、仲直りの糸口を掴めないまま、必要最低限の言葉だけを交わして食事を終え、店の出口で解散した。





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