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051「重解」

――ペーパーバックを開けると恋文が挟まっていた。そして、三谷さんから交際を申し込まれた。モテ気が二重になってやってきたわけだ。判別式イコール、レイか。ハハ、アハハ……、ハア。

 行儀悪くテーブルに肘と顎を載せ、ため息を吐くレイに、フミがガサガサと菓子鉢に煎餅を並べながら言う。

「どうしたのよ、レイちゃん。さっきから、悩まし気に吐息を漏らしてばかりじゃない。風邪でもうつされたんじゃなくて?」

――うつされたのが風邪なら、どれだけ楽なことか。この病は、草津の湯でも治らないのよ。

「けやき温泉でも、これに対する薬にならないわ」

 気だるげにレイが言うと、フミはレイの額に手を当てながら言う。

「そうね。熱は無いみたいだわ。だったら、心の病気ってところかしら? どんな話でも聞いてあげるから、言ってごらんなさいよ」

「叔母さんに言っても、なあ」

 身体を起こし、レイが煎餅を手に取ってパキッと一口大に割って食べながら言うと、フミは、煎餅を割らずにバリバリと齧って食べつつ、口を片手で押さえて言う。

「参考にならないとでも思ってるかもしれないけど、言ってみなきゃ分からないじゃない。面倒臭がらずに、言いなさい」

「別に、面倒くさいから言いたくない訳じゃないわ。ただ、三角関係に悩んでるだけよ」

「あら、嫌ね。二股を掛けられてたの?」

 フミが顔をしかめながら言うと、レイは、即座に両手を小さく左右に振って否定しながら言う。

「違う、違う。昼間と、さっきとで、急に二人の男の人から思いを告げられたの」

「へえ、売れっ子ね。それで、私を巡って争わないで、という展開に」

「ならないわよ。というか、そうさせないようにするには、どうしたものだろうかと考えてるの」

 拗らせフミの妄想愛憎劇を、レイが序幕でバッサリと切り捨てると、フミは、大きく首を縦に振ってから提案する。

「なるほど、なるほど。そこまで悩むなら、殿方それぞれと一対一でデートしてみたらいいんじゃないかしら?」

「え? 何で、そうなるのよ」

 突拍子もない提案にレイが疑問を挟むと、フミは説明を続ける。

「だって、そうでしょう? 付き合ってくれって言ってるんだから、試しに付き合ってみればいいのよ」

「いや、でも、それって二股じゃない」

 レイが発案の問題点を指摘すると、フミは否定して一人合点してしまう。

「違うわよ。一回デートしてみてから、それ以降もお付き合いしていけるかどうか判断させてくださいって、あらかじめ言っておくの。それに、もし、これでレイの気持ちも考えずに性急に事を運ぼうとがっついてきたら、その場で断っちゃいなさい。決まりね」

――勝手に納得しないでほしいな。他人事だと思って。……でもまあ、そうするのがベターか。たまには、叔母さんも良いこと言う。

 自分に言い聞かせるように、レイが心の中でゆっくりと咀嚼してフミの提案を受諾していると、フミは二枚目の煎餅に手を伸ばしつつ、ガラッと話題を変える。

「それよりも、レイちゃん。あんた、一橋先生について、何か知ってることは無い? どんな些細なことでも良いんだけど」

――訂正しよう。やっぱり、叔母さんは自分のことしか考えていない。

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