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040「ボストンでは禁止」※サトル視点① 

「顔立ちや振る舞いは楚々とした大和撫子なんだけど、首から下はメロメロメロンなデカメロンなんだぜ?」

――鼻息荒く興奮するな。意味が分からない。

「弐村。惚気話なら、他でやってくれ」

 放課後、同規格で作られた建売の一戸建てが連続する閑静な新興住宅街を並んで歩きつつ、スクールバッグをリュックのように背負った上機嫌の弐村と、肩掛けカバンを斜めに提げた不機嫌なサトルが、傍目には仲良さげに会話を交わしている。

――まったく。こんなことになるなら、図書館でレシピ本を読み耽らずに、適当に借り出して帰ればよかった。

「だいたい、デカメロンは、そういう意味じゃない、と思う」

 サトルが自信なさげに付け足すと、そんなの関係ないとばかりに弐村は話を続ける。

「僻むなよ、二葉。彼女が欲しかったら、この前に言ってた女子大生にレシーブ、トス、スパイクすれば良いじゃないか」

 さも空中にバレーのボールがあるかのようなジェスチャーをしながら弐村が言うと、サトルは、弐村の頭をバレーボールに見立てて後ろから軽くパシッと叩きながら言う。

「アタック、か? 別に、俺は彼女に気がある訳じゃない」

 そう言ってからサトルがスイッと弐村から目線を外すと、弐村は、サトルの前を横切って視線の先に移動してから言う。

「今の発言は、ダウトだな。視線を外して瞬きが多くなるのは、嘘をついてる動かぬ証拠だぞ、ホラ吹き男爵」

――クッ。やっぱり、こいつに四宮のことを話すんじゃなかった。

「誰が男爵だ、このエロ河童!」

「河童で結構だよ、このムッツリ助兵衛!」

 売り言葉に買い言葉で言い争い始めた二人は、頬を抓ったり、額を指で弾いたり、カバンの肩紐を引っ張ったりしながら、しばらく、やいのやいのと戯れていたが、やがて二人の気持ちが落ち着き、再び平穏を取り戻して会話をリスタートする。

「ああ、もう、やめやめ」

 苛立たし気に早口でサトルが言う。

「俺のことは、一旦、脇に置いておけ。この際、恋人自慢でも何でもいいから、さっきの話を続けろ」

「おっ、とうとう折れたな。ヒヒッ。俺の勝ちだ」

 弐村は、咬み合わせた歯を見せながら笑うと、鬼の首を取ったように得意気な調子で話し出す。

「まあ、年上で包容力があるのは、さっきも話した通りだけどさ。それだけじゃなくて、俺のことに色々と興味を持ってくれてさ。誰かさんが話半分で聞き流したような熱弁も、ちゃんと興味を持って聞いてくれて、感想や質問まで寄せてくれるんだ」

「良かったな。他人にとっては心底どうでもいい、お前の詳詳詳細情報に、わざわざレスポンスを返してくれる、心優しい奇特な彼女が出来て」

 嬉々として話す弐村に、皮肉を込めてサトルが安堵の意を表すると、それを受けた弐村は、少し表情を曇らせて続ける。

「ああ。そのことは有難いことなんだけどさ。ただ一つ、気になることがあって」

 サトルは、やや眉を吊り上げながら、周囲を憚るように声のボリュームを落して訊く。

「何だよ、弐村。まさか、その彼女は、実は反社会的組織に属する人間の娘だった、とか?」

「いやいや、それは無いから。その場の成り行きで、彼女の家まで送って、雑談かねがね紅茶を飲んで帰ってきたけど、住まいは、この辺に建ってるような普通の分譲物件だったし、派手な和服を着たお姐さんも出てこなければ、切り傷や刺青のあるお兄さんも出迎えなかったから。任侠ドラマの観すぎだぞ、二葉」

 お道化た調子で肘で脇腹を小突きながら言う弐村に対し、サトルは声量を戻し、心配して損したとばかりにイライラとして言う。

「だったら、何が懸念材料なんだ?」

「それだけどさ。何かと興味を示してくれるのは嬉しいんだけど、彼女の興味の対象が、ちょっとおかしくて。何でか知らないけど、やたら俺とサトルのことを訊いてくるんだ。だから俺は、実際のエピソードに二割増しで答えてて」

「こら、勝手に脚色するな。原作に忠実に話せ」

「いや、だってさ。サトルと二人で過ごした日々の一場面を面白おかしく話すほどに、瞳をキラキラ輝かせて、続きを迫ってくるんだもの。興が乗れば、口が軽くなるのも無理ないだろう?」

 腕に縋り付きながら同意を求めてくる弐村を、サトルは、何かの拍子に付着した泥状の汚れを叩き落とすかのように弐村を振り払いつつ、彼の背中のリュックを平手で叩きながらキッパリと言い切る。

「当然じゃない。俺を、お前みたいな変わり者と一緒にするな!」

「アウチ! さっき買ったメロンパンが潰れる」 

――好きだな、メロンパン。彼女が出来たというから、少しはまともになるかと思ったのに。より、変態性が増してしまっただけだったか。

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