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032「必然かも」

――現実は、映画より奇であるようですね、バイロン卿。

 ウエイターにワインの種類について質問攻めにしている漆田をよそに、サトルとマコトは、思い出話に花を咲かせている。

「あのシスターだけは、虫が好かなかった」

 サトルが語気を強めて言うと、マコトは、仕草がオーバーすぎるほど大きく頷き、同意する。

「わかりますよ。僕も、ずっと苦手でしたから。陰険ですし、性格は悪い方向にひねくれてますし、猜疑心が強すぎますからね」

――二葉くんと七尾さんは、「希望の星」という名の、同じ児童養護施設で育てられたらしい。

「そうそう。子供の言うことは、絶対、信じないんだよな。そのくせ、主の言葉を信じろって言うしさ」

 サトルが、ごもっともと肯定してから不満をぶちまけると、マコトは、我が意を得たりとでも言いたげな黒い笑いを浮かべながら言う。

「おまけに、杓子定規で融通利かずですからね。もし、施設を取り仕切っているのが優しく慈愛に満ちたシスターであったなら、それに対抗して彼女を出し抜くための詭弁が発達せず、もっと素直な人間に育ったはずです」

――ズル賢いのは環境のせいだ、とでも言いたげね。でも、正直で陰日向の無い二人は、とても想像できないなあ。

「蟷螂のように頬がこけた顔をして、出汁を取ったあとの鶏ガラみたいな骨張った手で、金切り声をして、やたらと清貧思想を押し付けてくるんだもんな。やってられないよ」

 グラスの水を一口飲んでからサトルが言うと、マコトも、ワイングラスに残っている赤ワインを一口含んでから言う。

「彼女の言うことも、もっともらしいのですし、彼女一人が信仰するのは自由だと思いますが、それを無理やり押し付けられては、辟易しますよね」

――男同士で意気投合しちゃって。二葉くんに、腹を割って話せる相手が出来たのは喜ばしいけど、輪に入れない私にしては、蚊帳の外に感じてしまう。

「ねえ、レイちゃん。どうして私って、紳士たち(ハンサムボーイズ)にモテないのかしら?」

 酒臭い息をしながら、レイの太腿に手を置き、肩を寄せ合うようにしてしなだれかかりながら、ねっとりとした声で言う漆田に、レイは胸の内で嫌悪感を抱きつつ、機嫌を損ねないように質問を返す。

「おモテにならないんですか? 女性らしい魅力に溢れてると思いますけど」

――深酒しなければ、の話ですけどね。この場で飲みたくなる気持ちは、同意できますが、飲むペースやウエイターさんへの質問内容のディープさから察するに、日頃から、よく召し上がるのでしょう? 

「そうでもないのよ。寄ってくるのは、変な男ばっかりなの。嫌になっちゃう」

――私も、嫌になっちゃったな。ウクレレでも弾きたい気分。

 レイは、片手を挙げてウエイターを呼ぶと、漆田を席に押し返し、メニューの食後酒(ディジェスティフ)欄を見せながら言う。

「たとえ変でも、男性から寄ってこられるだけ、いくらかマシだと思いますよ。さっき頼んでたのは、どれですか?」

――せっかくだから、良いお酒をいただいて帰ろう。そうでもしないと、割に合わないもの。


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