029「遊園地へ(6)」
後書きに載せた曲は、完全にオリジナルです。
「いやあ、特等席だったっすね」
「ほぼ、貸し切り状態でしたからね。パフォーマンスは、申し分ないんですけど」
時刻は十七時過ぎ。特設ステージをあとにして、伍代とレイの二人は、並んで歩きながら会話を交わしている。
「もったいないっすよね。心にグッとくる良い曲だったから、出口でシーディーを買ったんすけど、これ、なんて読むんすか?」
伍代は、ジャケットに印字された筆記体のアルファベットを指さしながら、レイに訊いた。
「ハブ、ア、ビューティフル、ドリーム。直訳すれば、美しい夢を持て、という意味ですよ」
年下のレイが、年上の伍代に対して丁寧に教えると、伍代は後頭部を掻きながら、恥ずかしげもなく言う。
「中学校から、やり直さないと駄目っすね。これでも、高校は出てるんすよ。まあ、ひのき第二っすけど」
「へえ。高校時代から、ひのき台なんですね」
――ひのき第二と言えば、名前を書けば受かると言われてる滑り止め校ね。不良らしく、ブレザーを着崩したり、ズボンを腰穿きしたりしてたのかな? 眉は残ってるし、ピアス穴は開けてなさそうだけど。
上目遣いで口では感心しつつ、胸の内では上から目線で見下しているレイに対し、伍代はシーディーを肩掛け鞄にしまい、顎に指をあてながら、訊いてもいないことを話し出す。
「たしか、先輩も同じ高校のはずっすよ」
「あっ、そうなんですね。その当時は、お互いに面識はあったんですか?」
「いや、無いっす。三学年以上離れてるんで、同じときには通ってはいないんすよ。けど、先輩の伝説は、語り継がれてたっすよ」
「伝説、ですか?」
レイが興味深そうに訊くと、伍代は、キョロキョロと周囲を窺ってから、やや声を潜めて答える。
「ここだけの話、入学初日にジャージだけ着て現れたり、一ヶ月で校内のチンピラ共を束ね上げて女番長になったり、不登校の生徒を家から引っ張り出したり、とまあ、無茶苦茶なことをしてたみたいっすから」
――たとえ尾鰭が付いたとしても、火のない所に煙は立たないもの。三分の一くらいは、事実に基づく話なんだろうな。
「ワイルドな生徒だったのね、ユキさん」
「ワイルドすぎっすよ。突然、何も持たされずに無人島に放置されたとしても、生き延びそうじゃないっすか?」
「フフッ。そうかもしれないですね」
二人は、しばし笑い合っていたが、やがて、伍代が、前方遠くを見ながら言う。
「あの二人、うまく行くっすかねえ?」
伍代の問いかけに、レイは、同じように行く手を眺めながら言う。
「相性は、悪くないんじゃないかしら」
――肉感的な女性がストライクだと言われて、珍しくドギマギしてたユキさんは、可愛かったな。女性らしく丁重に扱われることに、慣れてないみたいだったし。
「お邪魔虫は退散ってところすね」
「そういうこと。あのまま二人と一緒に居るのも、無粋ですから」
「それもそっすね。――あっ。ここで外すみたいっすよ?」
伍代は、腕に巻いた入場証を目線に持ち上げて示し、次いで退場ゲートの脇に設置された篭を指しながら言う。
「あら、本当」
レイが片手で入場証を外そうとすると、すでに外した伍代がレイの腕を取り、両手で千切り取りながら言う。
「簡単に切れそうなのに、意外と固いんすね、これ」
「あっ、ありがとうございます」
「礼には及ばないっすよ。――混んでなきゃ良いっすね、電車」
「そうですね」
二人は、ゲートにあるバーを押して退場すると、一度遊園地のほうを振り返ったあと、再び前を向いて駅へと歩き出す。
「have a beautiful dream」
作詞:ヒビキ
作曲:タケシ&マリ
〽大人たちが敷いたレールに乗り
嫌な顔ひとつせずイイ子ぶってる
そんな青春、灰色だろう?
※心にでっかい夢を持て
たとえバカにされようとも叶わなくとも
夢を追う人は皆、美しい!
〽親のため子のため会社のため
足を棒にし手を焼き頭下げる
そんな人生、退屈だろう?
※繰り返し





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