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028「遊園地へ(5)」

――乗らずに休憩してて、正解だったかもしれない。

「大丈夫ですか、伍代さん。さながら、戦場から帰還した傭兵のようですけど?」

 燃え尽きたボクサーのようにベンチに座っている伍代に向かって、レイが心配そうに声を掛けると、よれよれの伍代とは対照的に晴れ晴れとしているユキが、伍代にスポーツドリンクを手渡しながら陽気に言う。

「大丈夫、大丈夫。降りてすぐに、腹の中のものを吐き出してスッキリしてるから。――いつまで、シケタ面をしてるんだ!」

 空いた手でユキが伍代の肩を小突くと、伍代はハッと正気を取り戻して顔を上げ、プルタブを起こして缶を開けると、ごくごくと喉を鳴らしながら勢いよく飲み干し、片手の甲で口元を拭いながら立ち上がり、元気良く言う。

「伍代選手、ふっかーつ!」

――万能薬(スポーツドリンク)一つで回復するとは。体力お化けというか、筋肉馬鹿というか。

 レイが心の中で毒づいてるとも気付かず、伍代は、先程までとは打って変わってニコニコとしながら、二人に提案する。

「今度は、どのアトラクションにします? ここから一番近いのは、メリーゴーランドっすけど」

 スマホの地図を指さしながら言う伍代に対し、ユキは、その手からスマホを取り上げ、別のエリアを指し示しながら言う。

「馬鹿か、貴様は。この歳でメリーゴーランドに乗るなんて、恥さらしもいいところだ。私は、こっちのウォータースライダーか、ふれあい広場に行くのが良いと思う。レイは、どっちが良い?」

――童心に帰って、というには、少しばかり無理があるものね。日が高くなって暑くなってきたから、クールダウンしても良いし、ワンちゃんやネコちゃんをモフモフして癒されても良いんだけど、ここは、これを伝えておかないとね。

「あの。さっき、こういうものを渡されたんですけど」

 レイが、先程ヒビキから手渡されたビラを、ポーチの外ポケットから出して広げると、ユキと伍代は額を寄せ、興味深そうにレイの手元を注目しながら言う。

「おっ、ロックバンドのライブっすね。クレイジーサンダースか。インディーズなんすかねえ。聞いたことあるすか、先輩?」

「ああ。名前には聞き覚えがあるんだが、どこで聞いたんだったかな」

 伍代の質問に対し、ユキは腕を組み、首を捻りながら適当に返事をした。

――六岡さんのバンドだってこと、ユキさんは知らないのかな。教えずに連れて行ったら、面白いことになりそう。六岡さんも、私がユキさんと一緒に来てることは知らないみたいだったし。

「行ってみたら、ハッキリすると思いますよ。どうでしょう?」

「俺は賛成なんすけど、先輩は?」

「レイが行きたいんなら、ついて行くのが正解だろう。それに、私も気になることだ」

――奥歯に物が挟まったような言いかたね。何か気掛かりなことでもあるのかしら? 

 どこか歯切れの悪い調子でユキが言うと、伍代は両手を顔の横でひらひらさせつつ、それを揶揄うような調子で茶化す。

「素直に行きたいって言えば良いじゃないすか。ヘイヘーイ。らしくないっすよ、先パ、イッ」

 ユキは、踵で思いっ切り伍代の爪先を踏みつけると、膝を曲げて両手で爪先を抱えながら片足で跳ね回る伍代を無視して、レイの手を引きながら言う。

「行こう。行って、キッパリ、スッキリさせよう」

「あっ、はい」

「ああ、待って。置いてかないで。スマホ返して!」

 レイの手を引き、スマホを見ながら急ぎ足で特設ステージに向かうユキを、伍代は早足で追いかける。

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