027「遊園地へ(4)」
――手持ち無沙汰なのに任せて、空高く飛んでいくヘリウムガス入りの風船を見るともなしに見ながら、どこかで子供が泣いてるだろうなとボンヤリ考えていたら、見慣れたプリン頭が視界の端へ飛び込んできた。
「クレイジーサンダース、三時からライブやりまーす」
「わっ。六岡さん」
レイは、背後に立つヒビキの存在に驚きつつ、斜め後ろからにゅっと差し出されたビラを受け取りながら言った。ヒビキは、ベンチの背もたれに片手と尻を乗せつつ、上体をレイのほうへ捻った状態で言う。
「ノルマ達成っと。いやあ、なかなか受け取ってもらえなかったから、大変だった」
――いま、ここで私が勢いよく立ち上がったら、六岡さんはベンチごとひっくり返るのかな。昭和のコントみたいに。
心の中でレイが全然関係ないことを考えているとも知らず、ヒビキは話を続ける。
「こういう場所だから、来場者の大半は親子連れなんだけどさ。ビラを配ってる俺の姿を見るやいなや、小汚い野良犬でも見つけたかのように子供の手を引いて『あっちへ行くざますよ、太郎ちゃん』ってなことされる訳よ。メンタルに大ダメージ」
ヒビキが、かけもしない眼鏡があるかのように、顔の横に手を添え、くいっと軽く上下に動かすジェスチャーをしながら言うと、レイは、その動きに教育ママの姿を思い浮かべ、吹き出しそうになるのをこらえつつ、ビラを見ながら言う。
「特設ステージってことは、いま、ヒーローショーをやってる場所ですよね?」
レイの質問に、ヒビキは待ってましたとばかりに立ち上がり、一人で三役を演じながら答える。
「そうそう。カメリア戦隊っていう二人組のヒーローがいてさ。スポーツ系好青年で子供受け抜群のレッドと、ビジュアル系イケメンで奥さまのハートを鷲掴みのブルーが、世界の平和を守るために、悪の組織と戦ってるんだ。今日は、スコピオナーってサソリ型の怪人が相手だから、おおかたその怪人は毒針がある尻尾を持ってて、レッドとブルーが戦闘途中に毒が回ってよろけると『フッフッフ。どうだ、参ったか。このスコピオナー様の毒は、あとからジワジワ効くのだ!』なんて言って煽るわけだ。そこへ、観客席で見てる年齢一桁のちびっ子たちが『がんばれー、れっどー! ぶるうー!』と声援を送ると、二人がピンチを脱して必殺技を繰り出すんだろう。あっ、最初から二人でビームを出してやっつけろと言っちゃ駄目だぜ」
意気揚々と語るヒビキに、レイは率直な感想を述べる。
「ずいぶん詳しいですね」
「まあな。これでも小学校の低学年くらいまでは、喉を嗄らして応援してたから。今は、違うことで大きな声を出してるけど」
そこまで言うと、ヒビキは一旦言葉を区切り、ステージがある方角へ歩き始めながら続ける。
「入退場は自由だから、気が向いたら来てくれると助かるよ。それじゃあ、俺は設営があるから」
ヒビキは、それだけ言って、そのまま目的地へ向かって走り出した。
――三時からなら、三人で観に行けるかな。もうすぐ、戻ってくるだろうし。
「あっ、メッセージが来てる」
レイは、時間を確かめようとスマホのロックを解除すると、そこにユキから一件の通知があるのに気付き、パネルをタッチしてメッセージを開く。
 





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