026「遊園地へ(3)」
※本文の最後に、成宮りん様よりいただいた挿絵を掲載しています。
――旅の恥は搔き捨てと言います。この非日常ファンタジー世界では、ちょっとくらい恥ずかしいことをしたって平気なものです。周囲も、大目に見てくれます。見ては、くれるのですが。
「大丈夫か、レイ?」
俯き加減でハンカチを口元の当ててベンチに座るレイの正面で、ユキは一昔前の不良のように股を開き、踵を着けたまま腰を浮かせて座り、レイの顔色を窺いながら言った。レイは、眉をハの字にしながらも、努めて笑顔で言う。
「はい。少し休んだら、だいぶ落ち着きました。――あっ」
レイが顔を上げると、視線の先で、伍代がジェラートを持って駆けてくるのが見える。
「アイス買って来たよ~」
能天気に伍代が言うと、ユキは立ち上がり、伍代の手からジェラートを取り上げると、それをレイに持たせ、伍代の背中に圧し掛かって無理やり最敬礼させながら言う。
「何かレイに言うことは?」
「ウグッ。ごめんなさい。調子に乗って、回しすぎました!」
――そう。私が乗り物酔いになった原因は、コーヒーカップで、伍代さんが思いっきりハンドルを回しまくったからなのである。回した本人と、私の隣にいた五木さんが平気だったのは、三半規管の強度が違うからだろうと思う。さすが、トラック運転手。
伍代に謝らせたユキは、脇腹に軽く肘鉄を食らわせてから伍代を解放し、背中と腹をさすりながら小さく呻く伍代を尻目に、ポーチを開こうとしたレイに言う。
「全部、一人で食べていいぞ。それは、迷惑を掛けた慰謝料だから」
「えっ、でも、私は気にしてませんから。それに、こういうアクシデントは、遊園地では付き物ですし」
「いいから、受け取っておけ。じゃないと、こいつが反省しない」
「反省してるって」
「うるさい!」
反論する伍代をユキがローキックで黙らせると、レイはクスッと笑いをこぼしてから、二人を見て言う。
「そうですか。それじゃあ、いただきます」
レイが、プラスティックのスプーンで一口食べたのを見ると、ユキは伍代の肩に腕を回し、引っ張り歩きながら言う。
「ゆっくり食べればいい。私は、こいつとアレに乗ってくるから」
そう言いながら、ユキは、腕を回していないほうの手でジェットコースターを指さす。すると、引っ張られて歩かされている伍代が、顔面蒼白になりながら言う。
「待って、先輩。俺、幽霊と高いところは駄目だって言いましたよね?」
「私を盾にして小鹿のように震えていたが、お化け屋敷はクリアできたじゃないか。だったら、アレも平気だろう」
「なんすか、その無茶苦茶な道理は」
「やかましい。大の男が、細かいことをガタガタぬかすな」
「細かくないっすよ! 命に係わる大事じゃないすか」
騒々しく言い争いながらジェットコースターに向かうユキと伍代の後ろ姿を、レイは微笑ましく見送りつつ、ピンクとレモンとホワイトの山脈を切り崩しにかかる。





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