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025「遊園地へ(2)」

――旅は道連れ、世は情け。不慣れな場所に行くときは、同行者が多いほうが心強いのは、たしかなんだけど。

「伍代。年頃の女の子を、どこへ連れて行ったら喜ぶだろうかとは相談したが、一緒について来てくれとは頼んでないぞ?」

「何を言うんです、先輩。こういうところへ来るときは、ムードメーカー役が必要じゃないっすか。ねっ、四宮さん?」

 シナモンと粉砂糖がふりかけられたチュロスと、キャラメルとチョコレートでコーティングされたポップコーンを持ったユキが、藍色の犬耳カチューシャを付けている伍代に苦言を呈すると、伍代は、ユキの鋭い眼光をパンフレットで遮ってどこ吹く風と受け流し、朱色の猫耳カチューシャを付けているレイに向かって、フレンドリーに声を掛ける。

「えっ、ああ、そうですね。人数が多いほうが、賑やかになりますから」

 レイが眼を泳がせ、視線の端で「カメリア戦隊バーサスさそり怪人スコピオナー。十三時、特設ステージにて」というポスターを見ながら言うと、ユキは、ポップコーンをレイに渡しつつ、やれやれとばかりに肩を竦めながら言う。

「まあ、レイが良いんなら、良いんだが。――くれぐれも、私たちの邪魔をしないようにな」

 ユキが、パンフレットを持つ伍代の右手首を掴んで腕を半ば強引に降ろさせ、カッと歌舞伎役者のように睨みを利かせながら忠告すと、伍代は、蛇に睨まれた蛙のように肩を縮こまらせ、震える声で返事をする。

「は、はい。ここ、心得ます、です!」

「まあまあ、ユキさん。そんな怖い顔しないでくださいよ。楽しくなりそうじゃないですか」

 ポップコーンを持っていないほうの手を目線の高さに挙げ、ひらひらと降りながらレイが言うと、伍代が、まるでシェイクスピアの演劇に出てくる道化師のような大袈裟なジェスチャーで両手を広げて天を仰ぎつつ、その感動の深さを表現する。

「おお、なんとお優しいお言葉。あなたは神か仏か、それとも天使か。――ぐおっ」

「馬鹿なことを言うな。釘を刺しておくが、貴様にレイは、やらないからな?」

 ユキがチュロスを食べる手を止め、拳で伍代の頭頂部を小突いてから言うと、伍代はパンフレットを右脇に挟み、両手で殴られた部分を抑えつつ、へらへらとしたしまりのない顔をしながら言う。

「狙ってやしませんって。俺の好みは、グラマラスなお姉さんだもの。四宮さんは年下だし、妖艶っていうより、活発な感じじゃないっすか。――あっ、決して魅力が無いって言ってるんじゃないっすよ。あくまで、ジャンルが違うってだけでさ。たとえば、人参と薩摩芋なら、人参のほうが好きだって話」

 伍代が、必死になってレイに弁明すると、レイは、ポップコーンを口に運ぶのを中断し、心配を払拭するように明るく言う。

「それくらい、わかってますから。安心してください」

「良かった。――あ! 向こうで風船を配ってる」

 ホッと胸を撫で下ろして安堵したかと思えば、伍代は、すぐに着ぐるみを被った猫のキャラクターに向かってダッシュする。その後ろ姿を見てから、レイとユキは顔を合わせて肩を竦める。そして、ユキがボソリと呟く。

「あいつの精神年齢は、小学生並みだな」

――まったくもって同感です。でも、この場には相応しい人物だと思います。 

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