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024「遊園地へ(1)」

――昼休みに、文化史のゲジゲジ先生に苦い顔で皮肉を言われながらもレポートを提出した私は、そろそろ夏物を出そうと思い、真っ直ぐ家に帰ろうとしていたのだけど。

「申し訳ありませんでした!」

「頭を上げてください。私なら、まったく気にしてませんから」

 正座をし、畳に額を付けて平伏するユキに対して、レイは、その肩をトントンと軽く叩きながら優しく言った。

――失態を謝罪しようという律義さは認めるけど、突然、背後から担ぎ上げて部屋に拉致する強引さは、どうにかしてほしかったな。

 居住まいを正したものの、今度は何をするべきかとレイが当惑していると、ユキは頭を上げ、バツの悪い顔をしながら右手にあるこたつテーブルの上の財布を手に取り、中から二枚のチケットを取り出し、そのうち一枚を畳の上に置き、片手で押さえながら滑らせるようにしてレイに差し出して言う。

「連休の初日は、シフトも休みなんだ。詫びになるかわからないけど」

 縦長のチケットには「つばき台わんにゃんパーク一日利用券」という文字と、ワガママな猫の女王と忠実な犬の護衛のマスコットキャラクターが描かれている。

「いえ、そんな。気を遣わなくて良いですよ」

 レイがチケットを返そうと、片手でユキのほうに滑らせると、ユキはレイの手の上に自分の手を重ね、そのままレイのほうへ戻しながら言う。

「いいから、詫びさせてくれ。私の気が済まない」

――義理堅いのね。まあ、悪い話ではないし、あんまり頑なにお断りするのも、かえって失礼か。

「わかりました。ご一緒します」

 レイが納得してチケットを受け取ったのを見て、ユキはパーッと表情を明るくし、飛びかかるようにレイに抱きつき、財布とチケットを持っていないほうの手でレイの背中をバシバシと叩きながら、嬉しそうに言う。

「ありがとう、レイ。絶対、楽しい一日にしてやるからな!」

――ぐっ。好意が痛いほどに伝わってくる。

「期待してます。……あの。ユキさんが喜ぶ気持ちは理解できるんですけど、そろそろ身体を自由にしていただけませんか?」

 レイが、息苦しそうにしながら言うと、ユキは慌ててレイに回していた腕を解き、恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻きながら言う。

「ごめん、ごめん。つい、感極まってしまった。それじゃあ、今度の火曜日に」

「ええ、火曜日に」

 そう言うと、レイは立ち上がってユキに向かって会釈をし、通学用の鞄を持って部屋をあとにする。

――夏服の他に、よそ行きも出しておかなくっちゃ。

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