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013「猫の目のように」※ヒビキ視点

――新曲のインスピレーションが湧くと思って、拾ってみたのは良いものの。

「降りて来いよ、バステト。お前の好きなカリカリだぞ」

 箪笥の上にいる白斑の黒猫に向かって、ヒビキはキャットフードの袋をシャカシャカと振りながら呼びかけている。

「お腹すいてないのか? お~い、バステトや~い」

 ヒビキが口元に片手を当てて猫を呼んでいるところへ、姉のアヤがやってきて言う。

「ヒビキ。そんなに大声で呼んだら、怖がっちゃうわよ。――おいで」

 アヤが両手を開いて優しく呼びかけると、猫はニャンと小さく一声鳴きながら、アヤの胸元に着地した。アヤが猫を抱えなおすと、ヒビキは猫の頭を撫でようと腕を伸ばすが、猫はその手に向かって牙を剥き、シャーッと威嚇する。

「ウオッ、おっかない。俺、嫌われてるのかな。拾ってやったのは俺なのに、姉ちゃんにばっかり懐いてる」

 眉をハの字に下げ、切なそうにヒビキが言うと、アヤは冷静に言い返す。

「普段、この家に居ないのに、恩人ぶって馴れ馴れしく接するから、警戒してるのよ。もしくは」

 アヤは、そこで言葉を区切り、猫の背中を優しく撫でる。すると、猫はウットリと目を細め、耳を垂れて気持ち良さそうな表情をする。その様子を見て、ヒビキは口を尖らせながら不満げに言う。

「もしくは、何なのさ?」

「ネーミングに、不満があるのかもしれないわ」

「なんでだよ。カッコいいじゃないか、バステト」

「だって、エジプトの女神の名前じゃないの。言っておくけど、この子、雄猫よ?」

「いいじゃん、細かいことは」

「それじゃあ、あんた。滅多に家に居ない飼い主に花子って名前を付けられても、納得するの?」

「俺は猫じゃない!」

 興奮したヒビキが声を大きくして反論すると、猫は耳をピンと立て、目を見開き、アヤの腕の中をすり抜け、アヤの両脚を盾にしながら、尻尾を立ててヒビキを睨みつける。

「ホラ。そうやって、すぐに苛立って声を荒げるから、いつまで経っても懐かないのよ」

 勝ち誇ったかのようにアヤが言うと、ヒビキは不貞腐れたようにムッとした顔で言う。

「ヘン! いいですよーだ。姉ちゃんが好きなら、好きなだけベタベタしてろ、この薄情猫め」

 ヒビキが両腕を胸の前で組み、プイッとアヤと猫に背を向けると、アヤは、やれやれといった調子で溜め息まじりに言う。

「また、そうやって子供みたいに拗ねるんだから。――あら?」

 踵を返したヒビキに向かい、猫は、おっかなびっくりにその足元にすり寄る。ヒビキは、その変わり身の早さに呆れつつも、その場にしゃがみ込み、キャットフードの袋から中の餌を片手で軽く掬い出し、猫の顔の前に見せながら言う。

「食べるか?」

 猫は、しばし躊躇しながらも、食欲には勝てなかったと見えて、その手から餌を口にした。アヤがホッと安堵しながら見守る横で、ヒビキは嬉しそうに微笑む。

――まったく。気まぐれな奴だな、お前は。


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