010「質して尋ねて」※サトル視点
「メロンパンとフルーツサンド、どっちが良い?」
――こいつに買い物に行かせたのが、そもそもの間違いだったな。俺としたことが、こんな初歩的なことに気付かないとは。やっぱり、今日の俺は、頭が働いてないらしい。
癖のある前髪を二本のヘアピンで留めた青年が、片耳を下にして机の天板にぐでっと突っ伏しているサトルの顔の前に、両手に一つずつ菓子パンを持って見せながら言った。サトルは、ゆるゆると気だるげに上体を起こすと、片手をフルーツサンドに伸ばし、ひったくるように取りながら文句をつける。
「弐村。お前は、女子か?」
青年は、メロンパンを胸の前に抱えると、くねくねとした滑稽な動きをしながら、妙に艶っぽい声で言う。
「あら、バレちゃった? キャハ」
「やめろ、気持ち悪い」
そう言いながら、サトルは机の間から足を出し、青年の向う脛を蹴り上げる。青年は、メロンパンを顎の下に挟みつつ片足立ちになり、両手で向う脛を抱え、陽気におどけながらも、どこか恨めしそうな眼をして言う。
「イッテ。コンビニまでパシらせといて、この仕打ちとは。サトルのエスは、ドエスのエスだな」
「五月蠅い」
バッサリと冷淡に言い捨てると、サトルは、我関せずとばかりにピーッとテープを引っ張り、ビニールを外してフルーツサンドに噛り付く。青年は、バリッと袋の口を左右に引っ張って開け、メロンパンを一口食べると、ジトッとした眼をしてサトルを睨みながら、恩着せがましく言う。
「もう少し、感謝して欲しいな。四限が終わって、すぐにダッシュして買ってきたんだからさあ」
「はいはい、どうも。元はと言えば、課題を忘れてきたお前が悪いが、とりあえず礼を言おう。でも、今度買ってくるときは、おかずになるものが良いな」
ツカサが感情の篭らない棒読み調で言うと、青年は、キョロキョロと左右を見渡したあと、ツカサの耳元で声を潜めて言う。
「おい、二葉。そういうことを、平然と言うなよ。いくらなんでも、制服で成人向け雑誌は買えな、イッ!」
青年が言い切る前に、サトルは青年の足の爪先を踵で踏みつけながら、険しい表情をして低い声で言う。
「お前の頭の中は、ピンク一色か。この、不健全野郎」
「おお、イテエ。どっちかというと、俺のほうが、男子として健康的だと思うけどなあ」
メロンパンを机に置き、踏まれたほうの足を片手で撫でさすりつつ、青年は独り言のようにボソッと言ったあと、立ち上がってメロンパンを手に取り、一口齧りながら何気ない調子で言う。
「それよりさ、二葉。朝から、何か考え事をしてないか?」
――ギクッ。こういうことだけは、すぐ勘付くから困る。なるべく、平生を装わなくては。
サトルが一瞬、フルーツサンドを食べる手を止めたのを見て、青年はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、ねっとりとした粘着質な声で言う。
「フッフッフ。さては、図星だな? おおかた、何か心境を変化させるような大きな出来事があったのだろう。たしか、昨日はバイトが無いと言っていたから、仕事関係では無いな。う~ん、そうだな。たとえば、誰かのことが気になっている、とか?」
「黙秘させてもらおう」
青年から顔を背けつつ、フルーツサンドを食べながら微かに震える声でサトルが短く言うと、青年はコーナーに追い詰めた鼠をいたぶる猫のように、意地悪い目をしながら言う。
「いいよ、いいよ。どうぞ、ご自由に。俺は俺で、言葉以外の反応を見て、勝手に真相を探っていくから」
――さっき俺のことをドエスと言ったが、弐村のほうが、よっぽどサディスティックじゃないか。
こうしてサトルは、昼休みの時間いっぱいまで青年に質問攻めに遭い、最後には根負けして、女子大生の大家代行が挨拶回りに来たことを白状したのであった。





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