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メキシコだったら

 宗一郎の告白に動揺していると、再びスマホが鳴った。

ピロリン!

メッセージの音。


 「ちょっと、ごめんなさい」

ゆりかがスマホを確認する。


 『狩野:至急車に戻ってください』

今度は狩野からだった。

ん?なんだろう?嫌な予感しかしない。


 ゆりかの顔色が曇ったことに気付いた宗一郎もどうしたのかと覗き込んできた。

「あーあー…タイムリミットかな」

苦笑しながら宗一郎は立ち上がり、伸びをする。


 「宗一郎君、さっきの話……」

「気にしないで。

ただ俺の気持ちを話したかっただけだから。

……でもさ、来年ゆりかちゃんたちが中学に入ったら、俺容赦しないから。

目の前でゆりかちゃんをとられて、大人しく指咥えて見てるなんてしないよ」

イタズラっ子のように口端を上げて宗一郎が笑う。


 ゆりかは宗一郎の言葉に赤面した。

こんな素直に気持ちをぶつけられることはまずない。

悠希の好意は行動でヒシヒシ感じてはいるが、言葉では表されたことはなかった。

正直、新鮮だ……!


 「一先ず、勉強とサッカー頑張らなきゃな。

和田君って勉強もスポーツも得意な完璧御曹司なんでしょ?」


 ほお、そんな噂が。

悠希をよく知ってるゆりかとしては、悠希のことを完璧御曹司とは笑っちゃいそうだが、能力と顔面偏差値はかなり高いのは事実だ。

「ふふ。悠希君は手強いわよ」

あのスペックでなかなか面倒な性格をしているからね。


 「そうみたいだね」

溜息をつきながら、宗一郎が頭をかいた。


 「……そうだ。忘れ物があった」

宗一郎がふいにそう言ったと同時に、ゆりかの手を引き、身体を自分に引き寄せる。

気付けば、宗一郎に抱きしめられた。

そして宗一郎の唇がゆりかの頰に触れるーー


 何が起こったのか理解できないゆりかはフリーズしていた。


 「カード……graciasありがとう.」

耳に息がかかるほど近くから宗一郎に囁かれる。

「……De nadaどういたしまして.」

呆然としながらも、ゆりかの口から自然とスペインが溢れた。

久々に話したスペイン語。

何故に今?


 「メキシコだったらハグもキスも普通なんだけどな」

宗一郎が抱きしめていたゆりかの背中をポンポンと叩き、腕を解く。


 カードのお礼をハグとほっぺにキスで返したのか!


 「日本だと普通じゃないわ!」

事をようやく理解し、再び赤面したゆりかが大きな声で否定する。

そう、日本に居たらこんなこと普通されない。

「はは。そうだね」

そのゆりかの反応に宗一郎が楽しそうに笑った。


 「さ、ゆっくりしてられない。車に戻ろ。

Mi (俺の) princesa(お姫様).」

宗一郎が手を差し伸べると、躊躇(ためら)いつつもその手にゆりかも伸ばした。


 「春が来るのが楽しみだな」

宗一郎が呟いた。


※※※※※


 宗一郎と一緒に車に戻ろうと歩いていると、校門付近で黒い人影が近づいてくるのに気が付いた。

黒服姿の狩野だ。

GPSを使ってたのか手にはスマホを持ち、一目散でゆりかに向かって走ってくる。


 「お嬢様!」

「何かあったの?」

ゆりかも駆け寄り、狩野に尋ねる。

狩野が待ち合わせ場所で待たずに、ゆりかを探しにくるなんて珍しい。

宗一郎君とのあの駄菓子屋の一件以来……まさか、宗一郎君と自分を監視に来たのか?


 ゆりかが疑わし気に目を向けると、狩野もそれに気づいたか「監視しにきたんじゃありません」と先手を打ってきた。


 はふん。読まれてる。


 「お嬢様、車の前に仁王像がいます」

「は?」

「あ、つい口が……失礼しました。

悠希おぼっちゃまが待ってます」

「え!」

悠希のことを仁王像発言したのもだが、悠希が車の前で待ち伏せしてることにも、ゆりかは驚いていた。


 「悠希君が仁王像?」

ゆりかが狩野に確認すると、狩野は片手を顎にあてながら、大きく頭を縦に振り頷く。

「そのお姿、仁王像の如く……といった感じです」


 ゆりかの脳裏に、悠希が車の前で仁王像のように立ちはだかっている姿が浮かぶ。


 ぎゃ〜、メンドクサイ。


 ゆりかの肩がズンと重くなる。


 「やっぱり、アレは和田君だったんだ」

宗一郎が突然話に入ってきた。


 ゆりかしか目に入っていなかった狩野が宗一郎を見て、慌てて挨拶をする。

「江間様、こんにちは。

突然お二人のお邪魔をして申し訳ありません」

「こんにちは。

以前、駄菓子屋でのことはありがとうございました」

「ああ、あれは私じゃなくて、経費で落としてるんでお気にせず。ははは」

「ちょっと、そんな話はいいから、今は悠希君のことよ」

ゆりかが呆れながら狩野を見ながら、校門に向けて足を進める。


 「宗一郎君、『やっぱりアレ』って?」

ゆりかが訊くと、宗一郎は思い出すかのように答える。

「さっき校門の前で待ち合わせてたとき、だいぶ先の方に黒い車が止まってたんだ。

それだけだったら、よくあることだけど、なんだか車の中から双眼鏡で見ているように見えてさ。

誰かわからなかったし、不審者だったら怖いから、学校の中にとりあえず逃げ込んだんだ」


 おお…!なんて危機意識!素晴らしい。

てか、悠希君、それじゃストーカーだよ。

十分不審者……いや、可哀想だから、言わないでおこう。


 「素晴らしい判断です。

お嬢様にもその危機意識分けてもらいたいくらいです」

「狩野」

狩野がしみじみと感嘆して唸るように言うので、ゆりかは狩野を睨みつけた。

これでも二児を育てあげた経験すらあるのに、この言われよう。

どうしたものか。


 「メキシコだと何回か誘拐されかかったり、強盗されてるから不審者には反応しちゃうんだよ」

宗一郎がハハッと明るく笑うが、笑えない話である。

案外修羅場をくぐってきたことに、ゆりかは驚いていた。


 「で、彼、どうするの?」


 宗一郎が親指で指す。

その先には黒塗りのゆりかの車の前で腕組みをしながら、まさに仁王像の如く待ち構える悠希がいた。

初めて二人のスペイン語登場。

話せる設定のはずが、一度も話していないことを作者が思い出したが為に、ここで出てきました。


そして悠希のストーカー化が進んでいる…大丈夫か?


第3章、悠希ターンで終わりかな、たぶん。

うん、たぶん。

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