お化け屋敷と再会
ゆりかは本を抱きしめながら、鼻歌まじりで廊下を歩いていた。
「随分楽しそうだな」
悠希が隣を歩いている。
「ええ、本をもらえたし、学祭は楽しいし……」
楽しみだった学祭。
さらには漫画やらラノベやら乙女ゲームの小説の同人誌までいただけたんだから、楽しいに決まっている。
ただ、なにか引っかかっていた。
なんとも言えない違和感。
それを打ち消そうと、明るく振る舞うゆりかがいた。
「学祭って色々出し物があるから、楽しくて」
「…ゆりかが楽しそうにしてると、俺も楽しいな」
今度は悠希がはにかんだ笑みを見せた。
「そ、それは良かったわ…」
なんだか複雑な気分になってしまい、ゆりかは苦笑する。
「お化け屋敷、あった!」
貴也と後ろを歩いていた千春が指を指す。
その先を見ると黒い垂れ幕で覆われた教室があった。
大きな視聴覚室を使っているようで、外から見る限り、かなり広そうだ。
たまに叫び声が聞こえてくる。
入口にはどこから調達してきたのか、等身大のお化けの人形が置かれ、見るからにオドロオドロシイ……。
「いらっしゃいませー。
このお化けの館ではヘッドホンを付けてもらいます。
中はプロジェクターで映し出された最新技術映像も盛り込まれてますよ!」
「なんだか凄そうだな」
「お兄様の話通り、お金のかけ方が半端ないわ」
お化け屋敷を面白そうなんて思ってたが、これは想像以上に怖そうだ。
夏祭りの人がうわ〜っと驚かすような昔ながらのお化け屋敷を想像してたので、ゆりかは一歩引き気味になってしまう。
「やっぱりみんなで一緒に行きません?」
思わず千春の腕をガシッと掴むが、非情なことに千春により敢え無く振り払われた。
「ち、千春さん?」
よくよく千春を見れば、貴也に既に逆の腕を掴まれているではないか。
「私は遠慮するから、ゆりかさんと和田君いってらっしゃい!」
「僕と松原さんは出口で待機してるね」
貴也がゆりかと悠希の背をぎゅうぎゅうと押し、入口へと追いやる。
おのれ、貴也め。
腹黒悪魔の貴様にはお化け役がぴったりじゃ。
恨めしげなゆりかをよそに、悠希は「行くぞ」とゆりかの手をとり、意気揚々とお化け屋敷に入っていった。
*****
「ぎゃー!!」
ゆりかの悲鳴が木霊する。
きゃー!みたいな可愛い悲鳴はもう無理!
怖すぎる!
悠希の手をガッチリ握り、さらには背中にしがみつく。
「おわっ!」
急に背中にしがみつかれ、悠希が驚く。
「…お願い。離れないで……」
半泣き状態で悠希の背中に顔を埋めると、悠希がくるりと向き直り、ゆりかの肩を掴んだ。
「俺が……俺がいるから!
手を繋いでれば大丈夫だから!」
真剣な目をした悠希に、ゆりかはコクコク頷く。
……が、今のゆりかには悠希の言葉はまともに入ってこない。
ヘッドホンから流れる3Dサウンドと、悠希の背後に映るプロジェクター映像が恐怖を掻き立てられる。
四方八方から音でお化けがやってきたかと思うと、本物のお化け役の人間が足首を掴んできたり……。
「いやー!!足足あしー!!!!」
不意に足を掴まれたことにより、ゆりかは悲鳴をあげ、悠希を振り切るように後ろに一目散に逃げた。
「お、おい!待て!」
中は迷路のようになっていて、道が分岐しているが、パニックに陥った今は何も考えられない。
無我夢中で走っていた。
そして少し離れた場所でへたり込む。
もはや腰を抜かすと言った方が正しいか。
はあはあはあっ……。
む、無理なんですけど……。
暗闇で周囲がよく見えない。
「ゆりか!どこ行った?!」
黒い壁の向こうで悠希の声が聞こえる。
「わかんないー!!」
とにかく大きな声で叫ぶが、腰が抜けて足が動かない。
その間にも音と映像のお化けが、ゆりかを襲ってくる。
ひー!!
混乱する頭の中で、ヘッドホンを付けていたことをふと思い出す。
取れば怖さが半減するはずだ。
ヘッドホンを外し床に置く。
すると…確かに映像は怖いが、先程のような襲ってくる感覚はなくなった。
「は、ははは…。
最新技術って凄い」
思わず脱力し、壁にもたれ掛かる。
つ、疲れた……。
呼吸を落つけようと、一瞬だけ目を瞑り、一呼吸する。
すると突然肩をポンと叩かれた。
……ん?
気付けば隣になにか黒い物体が座っている。
横を振り向くのが怖い。
恐る恐る視線だけ向けると、黒いマントに骸骨のマスクをした死神がいた。
「んぎゃーーー!!!!」
逃げようと後ろに後ずさるが、立てない。
失神しそうなゆりかに、死神が近づく。
「大丈夫?」
「だ、だ、大丈夫じゃない!」
全力でふるふると頭を振る。
怖い!怖い!怖い!
近い!近い!近い!
もはや涙で顔もグチャグチにちがいない。
「死神怖い!」
ゆりかが叫ぶと、死神の動きがピタリと止まった。
「ごめん。
この格好のせいで、余計怖がらせたね」
死神がマスクに手をあてて、はずす。
ゆりかは思わず声を失った。
「………!!」
マスクから覗いた顔は見知った顔をしていたのだ。
その人物は綺麗な瞳で優しく笑う。
「ゆりかちゃん」
「……宗一郎君」
あぁ、悠希……残念すぎる。




