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相馬貴也です。

貴也目線の閑話です。

 相馬貴也です。


 ――あれは相馬貴也になる前のこと。


 毎日の残業でくたくただったある日。

何日間もの積もりに積もった寝不足がたたったのか、鉛のように身体が重い。


 仕事の事を考えながら歩いていた。

自分はインターネットのゲーム制作に関わる仕事をしている。

明日の会議に間に合うように資料は用意した。

大丈夫なはずだ。


 仕事から解放されたことから、半ば放心状態だった。

あんなに疲労困憊といえる状態はなかなかない。

自宅へはあと少し。


 よく見知った場所なのに、深夜の暗い暗い闇世が普段とは違うどこか別次元にいるかのように感じられた。

目の前の交差点を渡って、数100メートル先に自宅であるマンションがある。

1年前までは人気(ひとけ)があり、煌々と灯りがついていた部屋に今はない。

30代の男1人で暮らす住居は、ただ寝るだけの部屋と化していた。


 ふとそのとき手にしていたスマホの待受画面を見る。

待受画像には1人の小さな男の子が写っている。

まだ2歳にもならない頃に撮った写真。

あれから1年以上経つ。

――そう、離婚して息子と別れてから。


 「……悠希」

身体はクタクタなのに、名前を呟いた口元が無意識に綻ぶ。


 横断歩道を渡る。

チカチカ点滅する信号に少し急ぐが、身体が思うように動かない。


 と、その時、横から明るいライトが見えた。

勢いよく交差点をバイクが曲がってきたのだ。


 気付いた時には、そのバイクが自分の目の前にいた。



 そこから記憶は――――ない。



*****


 新しい世に生まれ落ちて、見る世界は驚きの連続だった。


 まず自分には前世の記憶があったこと。

バイクに轢かれたはずが、気付けば病院の一室だった。

最初は病院に搬送されて一命を取り留め、身動きが取れないのかと思ったが、後々、自分の元の身体は死んでしまったと気付いた。


 突然の死にやり残したことが多くて、正直後悔ばかりした。

臓器移植カードに全部○を付けてたから、自分の身体のいく末がどうなったのかも気になった。


 そして従兄弟の悠希とも出会う。

――悠希――息子と同じ名前で、同じ年頃の男の子だった。


 3歳になったある日、ずっと忘れていたトンデモナイ事を思い出す。

自分の名前の相馬貴也と、従兄弟であり、和田財閥の御曹司である和田悠希の名――

この名前はゲームの中の登場人物の名前だった。


 僕が亡くなる直前まで制作に関わっていた乙女ゲームだ。

CMも流していて、前世の世界ではまずまずの人気だった。


 そのヒロインの攻略対象者の1人である、相馬貴也に自分がなっていた。


 和田悠希に関しては、ゲームのメイン攻略対象者だ。

彼の名前はシナリオライターの人と打ち合わせしながら、なんてことない会話の中で、自分のスマホの待受画面に写った息子、悠希の話題になり、「名前いただきます」と、軽い流れで決まった名前だった。

その悠希が目の前にいる。

ゲームのシナリオと違わず、賢く可愛らしい顔立ちの男の子だった。


 驚いた。

ゲームの世界に生まれ変わるなんて。


 悠希との出会いから数年経過し、シナリオ通り、幼稚園で悪役令嬢役の高円寺ゆりかに出会う。

シナリオでの彼女は縦巻きロールの髪型、ワガママ、高飛車な態度でお嬢様言葉を話す、お嬢様らしいお嬢様だった。

ヒロインが聖麗学院高校に入学すると、成績、容姿、そして攻略対象者たちからの好意に嫉妬し、ヒロインを「貧乏人!」と虐めぬく役である。

最後は高校の卒業パーティーでヒロインを虐めたことについて皆から断罪され、婚約者の悠希も去っていく運命を持つ。


 そんな典型的悪役令嬢の運命を持っているはずなのに。


 ……な・の・に、だ。


 自分の目に映る彼女はその悪役令嬢とは何もかもがちがう。


 初めて会った彼女は、黒髮のポニーテールを揺らし、大きな愛らしい目をした子犬のような子だった。

幼少時代から人より数歩も能力が抜きん出ていた。

性格は一言で言えば、大人の女性。

明るく素直で、たまに抜けてて、子供らしく活発に遊ぶこともあるけれど、気付くといつも一歩引いて皆んなを見ているところがあった。

同世代といると、なんだかんだ言いながら面倒を見てあげてるように見えた。


 ――自分と似ている?

いつしかそんなことを思い始めた。


 フランスで彼女と2人でお茶をした時、思いきって話してみた。

自分の中の秘密を。

悠希にも話していない秘密を何故、彼女に話そうとしたのかは、正直自分でもわからない。

ただ、ずっと違和感を感じていた彼女の精神年齢の高さ。

それが自分と似ていたから、口に出してしまったんじゃないかと思う。


 ――前世を覚えているだなんて。


 どんな反応をするんだろうと思ったら、彼女の声は震えていた。

『私も前世の記憶があるの』

絞り出すかのような声だった。


 あの時、僕の心にひとつだけ決めていたことがあった。

 僕の中で絶対的な存在である悠希の味方でいること。

悠希は僕の息子同然だ。

従兄弟であり、兄弟のように育った。

最後に見たスマホの待受画像の息子の顔と悠希が重なっていたから、尚更――


 悠希と出会ってから、ずっと味方であり続けてきた。

前世で息子に父親として何もしてあげられなかった償いに。

彼を害する悪役令嬢なら、僕は彼女を断罪するつもりだった。


 しかしあの告白からだろうか、彼女の脆さ危うさが見え出したのは。

心を一度許した彼女は自分の前で、別人の様に弱々しくて、目が離せなくなった。


 気付けば悪役令嬢に肩入れしている自分がいた。

いつか婚約破棄を言い渡す予定の悠希なんて、今や彼女に骨抜きにされている。


 他にも気になることがある。

彼女と僕の世界観の違い。

彼女は前世の夫である真島さんと出会っていた。

彼女にとって、ここは現実世界のようだ。

何故だろう?

僕にとってここは自分が作ったゲームの世界のはずなのに。

彼女の話だと、前世の彼女が亡くなってすぐに、高円寺ゆりかとして転生したらしい。

それともゲームと現実が入り混じる別次元の世界――パラレルワールド?

生憎、彼女はまだゲームの世界にいて、彼女自身が悪役令嬢役だと気付いていない。


 オタクとは無縁そうな彼女があの乙女ゲームを知っているのかも謎なところだが、今のところ、彼女は悪役令嬢の立ち位置にいるのは確かだ。

高円寺グループのご令嬢の高円寺ゆりかを名乗り、和田財閥御曹司の許婚という、揺るぎな立場にある。


 彼女が大切にしている小学校入学式の写真。

あれはゲームの中に出てくる写真で、彼女は「見たことがある気がする」と言っていた。

近い将来、彼女は気付くかもしれない。


 彼女は本当に悪役令嬢になってしまうのか?

これから変わっていくのか?

彼女がヒロインを虐め抜くようなマネを?

もしそうなってしまったら、僕は彼女を断罪するのだろうか?


 高3の3月、僕たちはどうしているのだろう――――

……ついに、貴也が握る話の全貌を暴露!!


息抜きの閑話のはずか、重要なお話となってしまいました。


いやぁ、ゆりかターンだと、彼女、なかなか乙女ゲームに気付いてくれないので、貴也に皆さんへ語ってもらった次第です。

あらすじでは乙女ゲームって書いてあるから、隠すことでもないですしね!


また次回から本編に戻ります。

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