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狩野視点:可愛いお嬢様

リクエストにより狩野視点の話にしてみました。

 高円寺家に使える運転手、狩野美彦(かのう よしひこ)、40歳。


 高円寺家に仕えてかれこれ15年になる。

前職は教習所の教官をしていたが、たまたま飲み屋で知り合った旦那様に誘われたのがキッカケで高円寺家の運転手となった。


 先日、ゆりかお嬢様の護衛兼お付きの運転手に抜擢された。

空手は有段者で腕にはそれなりに自信がある。

なにより高円寺家のお子様たちの送迎は小さな頃より任せられていたから、お子様たちに懐かれていると自負していた。

正直ゆりかお嬢様のお付きの使用人に抜擢されたのは、嬉しかった。


 特にゆりかお嬢様は使用人に対しても気遣いをしてくださる、愛くるしい優しいお嬢様だ。

何かにつけて「ありがとう」という感謝の気持ちは忘れない。

「いつものお礼に」と、小学生なのに自分のお小遣いでスタパのコーヒーを買ってくれたりするのだ!

感激のあまり、涙が出た。

しかも才色兼備で許婚相手も和田財閥御曹司と、将来が楽しみなスーパーお嬢様なのだ。


 そんな自慢のお嬢様だが、少し変わったところがある。

たまに自分と変わらない大人と話しているように感じる時があるのだ。

子供なのにやたら大人びている。

いや?大人びているのに子供みたい?

不思議な子だと思う。


 大人びている反面、幼少の頃から木登りをしたり庭を駆けずり回ったり、やたらやんちゃでよく周りをヒヤヒヤさせてきた。

近頃はそういった行動はだいぶ落ち着いてきたように思うが、相変わらず好奇心旺盛なお嬢様なので、ひとり歩きした先でなにかトラブルに巻き込まれないか、日々心配している。


 先日は、ひとり図書館に行ったはずが、暑かったからと、隣の公園の池で遊んだ末、転んでずぶ濡れになって車に戻ってきた。

奥様は笑っていたが、隼人お坊ちゃまから「くれぐれも危ないことのないように目を光らせるように」と注意を受けた。


 小5になった今でもこんなことがあるのだ。

少しやんちゃが過ぎるお嬢様だと思う。


 そして今朝、そんなお嬢様から本を返却に行きたいからまた図書館へ送って欲しいと言われた。


 「お嬢様、一緒にお供しましょうか?」

図書館の駐車場に着き、お嬢様に問いかける。

本当はお供したい。

が、たぶん嫌がられるだろう。

小学校高学年の子だったら、図書館の中くらい1人でも大丈夫なはずだ。

でも何かにあったら?

非常に心配である。

 「狩野、大丈夫だから。

もう小5だから、1人でも行けるわ」

ほらきた、予想通りの言葉。

「でもお嬢様、先日ずぶ濡れで帰って来たから、心配なんですよ」

「………」

お嬢様の目が泳ぐ。


 「狩野、この前は少し遊びすぎたわ。

でも今回は大丈夫!

この荷物を見て!」

お嬢様が得意げに自分の隣に置いていた大きなバッグの中身を見せた。

タオルやら着替えやら何やら沢山入っている。


 「…水浴びでもまたするんですか?」

思わず白い目でお嬢様を見てしまう。


 お嬢様は今日も何かをする予定だ。

絶対、本を返すだけではない。

何をする気なんだ?

1人で水浴び?

全く解せない。


 「もしもの為よ!もしもの為!」

「もしもって、なんですか?

図書館に行くんですよね?!」

自分の問いにお嬢様が一瞬ひるむが、直ぐに毅然とした態度で「そうよ、図書館へ行くの」と目を見返してきた。

堂々としているのに、あまりにも白々しいではないか。

「なら、お嬢様、その荷物置いていっても大丈夫ですよね?」

笑顔でそう言うとお嬢様が眉間に皺を寄せた。

「重そうですし、『もしも』のことがあれば、私が持っていきます」

そう、『もしも』どこかでやんちゃされていれば、私が駆けつけます。

思わず自分の心の中でほくそ笑む。


 お嬢様は少し考えると、眉間の皺を消していた。

「これ邪魔だからここに置いていくわ」

そう言いながら、小さめのバッグにタオルを1枚と本、貴重品を移した。

大きめバッグは邪魔だと素直に思い直したのだろう、車に置いていくらしい。


 「狩野、2時間したらここに来てちょうだい。

いいわね?」

いつもの毅然としたお嬢様口調で言われた。

自分はこの命令には逆らえない。

「かしこまりました。

ただし、何かあったらすぐにスマホで連絡くださいね」


 返事をすると、お嬢様は満足気な顔をし、「じゃ、いってくるわね」と車を軽やかに降りていった。

図書館の入口に向かう後姿はいつもより浮き足立っていて、思わず目を剥いて見てしまう。

まるで今にもスキップでもしだしそうじゃないか…!


 「怪しいなぁ…」

本音がポロリと落ちた。

あ、いけね

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