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図書館の男の子

 小5の夏休みのあくる日、ゆりかは図書館に本を探しにきていた。

以前真島とバッタリ遭遇した図書館だ。


 あれから気分転換にと何度か足を踏み入れているが、図書館で真島とは会っていない。

むしろ家に居た方がよっぽど遭遇率が高かった。

あの後、真島にもひどく心配されたが、寝不足とわかると一安心したようだった。

ゆりかはあれ以来、極力真島との接触を避けている。


 狩野の運転で送り届けてもらい図書館へやってくると、狩野からは「なにかあったら、すぐにスマホで連絡してくださいね」と再三言われた。

狩野は順調に過保護なお目付役に育っている。

 あ、そういえば、スマホをついにゲットしました。


 たまに普通の図書館に来るのは楽しい。

兄も悠希も学校の図書館の方が蔵書も多いし設備が良いと言うが、この図書館は新しいせいもあって全体的に綺麗で快適だ。


 隣には、子供達が水遊びできるような大きなじゃぶじゃぶ池がある公園があり、夏になると子供達がたくさんいて、休憩室の窓から眺めるのも楽しかった。


 「ここ、座っていいですか?」

休憩室でペットボトルのお茶を飲みながら借りた本をめくっていると、自分と同じくらいの年頃の男の子が話し掛けてきた。

辺りを見渡すと席が埋まってしまっている。

「どうぞどうぞ!

すみません、占領しちゃって」

ゆりかは隣の椅子から鞄をどかした。


 短髪で日に焼けてスポーツマンっぽい子だった。

貴也の茶色いサラサラストレートの髪と色素の薄い白い肌とは真逆の見た目だと思った。


 男の子が鞄から本やテキスト、ノートを出す。

「あっ」

思わず自分の視界に入った本を見て、声を出してしまった。

ゆりかが借りたかった本であった。

さっき探したが貸出中になっていた本!

男の子は驚いたような表情でこちらを見て、フリーズしている。


 「あ…失礼しました!」

ゆりかは思わず恥ずかしくなり、パッと顔を背けた。


 しばし沈黙が流れる。


 男の子はペットボトルのジュースを飲みながら、勉強を始めた。

かつかつと鉛筆が響く音がする。

あの本は同じ場所に置かれたままだ。


 一体あの本はいつ返されるのだろう?

もう読んだのかな?

目の前に目的物があるかと思うと、そちらばかりチラチラ見てしまう。


 すると男の子の手が本に伸び、本を手にして持ち上げた。

ゆりかはその一連の動作を完全に凝視してしまっていた。

「これ、見たいの?」

男の子の一言に驚き、顔を見上げた。

「さっきから、この本を気にしてたよね?」


 やばい、気づかれている!


 「ごめんなさい!

さっき探してた本だったから、つい気になってしまって」

ゆりかの言葉を聞くと、男の子は顎に手をあてて「そっか」と呟くとすぐさま目の前にあるテキストやノートを片付け始めた。


 え?今さっき広げたばかりなのに、もう終わり?


 「ちょっといい?

席を外すときは荷物置いとけないから、君も一回片付けて」

「え?え?」

突然のことについていけずにいると、男の子がゆりかののペットボトルのお茶と読んでいた本を手に持って、早く片付けろとばかりに渡してきた。

そして私が借りたかった本を自分の手に持つ。

「これから俺がこの本を返却するから、そしたら君が次に借りなよ。

早く鞄に荷物入れて」

「は、はい」

勢いに押され言われるがままに、ゆりかは荷物を詰め込む。

男の子はそれを見届けるとゆりかの腕を引っ張っり、休憩室から連れ出した。


 え?え?なにこの子?


 つい数分前に隣に座ったというだけの知らない子に腕を掴まれ、ゆりかは返却カウンターの前にやってきていた。


 「自分の次にこの子が借りるんで、手続きしてもらえますか?」

男の子は親切にも受付係の人にゆりかの貸し出しの手続きをお願いしている。


 「図書館のカード出して」

ゆりかは慌て鞄からカードを出すと、男の子がひょいと取り上げ、係の人に渡してさっさと手続きを済ませてしまった。

「はい、2週間後迄に返却してくださいね」

係の人からゆりかがカードと本を受け取ると、男の子は腕を組みながら、ゆりかを見て満足気に笑った。

「借りたいものが無事借りられて、よかったね」

「はあ…ありがとうございます」


 完全に相手のペースに巻き込まれているのは不本意だが、当初の目的物を今日借りられたのは、ありがたかった。

ゆりかが深々とお辞儀をすると、男の子はびっくりしならが「お辞儀なんてしなくていいから」と遠慮した。

そして1、2秒考えるようなそぶりを見せ、言葉を続けた。

 「そうだ、そしたら、このお礼に、君のおすすめの本を教えてくれない?」

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