お供に狩野
今回は小休憩的なお話です。
作者の息抜きで、本編まで少し回り道しまーす。
小4の10月。
ようやく暑さがおさまり、長袖を着るのがちょうどよくなった頃。
真島と出会ってから2か月経っていた。
真島はたまに家に来てくれていたが、ゆりかは用件だけ端的に伝えて自分の部屋へ戻るようにしていた。
真島に会うと過去に揺り戻されるような気がし、正直なところ怖かった。
「狩野、スタパのカフェモカが飲みたいわ」
休日の買い物からの帰り道、ゆりかは車の外を眺めながら呟いた。
「またスタパのカフェモカですか?」
運転手の狩野が苦笑した。
そう、先日母がお洒落ファッション雑誌を見ていた時のこと、モデルがスタパのコーヒーを持っていたのを見て、母が飲みたいと言い出した。
好奇心旺盛な母は、その後ゆりかを連れてスタパに訪れ、ゆりかには甘いカフェモカを買ってくれた。
前世以来のスタパのドリンクは魅惑的な味がし、その時から実はゆりかはハマってしまった。
車を止めてもらい狩野と一緒に店内に入り、列にならんだ。
「狩野もコーヒー飲むでしょ?
買って差し上げるわ」
「そんな小学生のお嬢様に買ってもらうなんて…」
狩野が苦笑いをする。
父母とそんなに年が変わらない狩野からすると、ゆりかにコーヒーを買ってもらうのは、さぞ微妙だろう。
「遠慮しないで。
いつものお礼よ」
ゆりかが言うと、狩野はみるみる間に目を潤ませた。
「ま、ま、まさかお嬢様がそんなことを言ってくださるなんて…」
「礼は尽くせと言うものね。
…それにしても今時はこうゆうところに子供だけでも来るのね」
ゆりかは店内を見回すと、小学生と見られる女子たちがお茶をしているのが見えた。
今時ってすごい。
小学生がこんな洒落乙なカフェにくるのか。
ゆりかの場合は基本悠希と貴也と一緒のことが多い。
どうしても自然と銀座やら青山やらの家族と行きつけのカフェに行くことが多かった。
あの小生意気な御曹司たちは大人が行くような場所に、さも当然に行くのである。
自分を含め、今時の子供って、である。
「私たちの子供の頃は、駄菓子屋でしたよ」
狩野が懐かしそうに言うので、ゆりかはうんうんと頷く。
「そうそう、お店の前でするめや細長いゼリーをしゃぶるのよね」
「私はプタ麺派でしたね。
あれにうまか棒を割って入れました」
「え!何その食べ方!」
「美味しんですよ…て、ゆりかお嬢様?」
思い出をイキイキと語っていた狩野の顔が曇る。
「なんで知ってるんですか?
私の知らないところで、行かれてないですよね?」
狩野が目を細めあからさまに疑いの目を向けられる。
「テ、テレビで観たのよ!
駄菓子屋がどこにあるのかさえ知らないわ」
ゆりかは首をブンブン横にふる。
そう、行ったことがあるのは前世の子供時代である。
高円寺ゆりかになってからは行ったことはない。
この身は潔白だ。
狩野がまだ怪しむような目で見ている。
たぶん、自分たち大人の目を盗んで駄菓子屋に行ったと思ってるにちがいない。
「あなたたち使用人が怒られるようなことはしていないわ。
ご安心なさい」
狩野を安心させようとゆりかが諭すように言うが、狩野はそんなゆりかの様子を無視をした。
「我々が怒られるとかそうゆう問題じゃありません。
今後やたらにお供も付けずにお出掛けしないでくださいね。
いくらお嬢様が大人びていると言えど、世の中物騒ですから。
誘拐されでもしたら、洒落になりません」
「わかっているわよ」
ゆりかは苦笑いしながら、前を向き直し、列の前を眺めた。
ゆりか小学校高学年になり、少しずつ行動範囲が広がってきた。
そのため、ゆりかが懐いている狩野をゆりか専属の運転手兼お付きの者にしようか、という案が出ている。
彼がゆりか付きになったら楽しいだろうけど、父がもう一人できたような感じだろうな、とついつい考えてしまう。
今後大人になっていくにつれて、少しめんどくさそうだ。




