王子とナイト
その後、貴也と家族の待つホテルへ戻った。
貴也が入学式の写真について意味深なことを言ったので、不審に思ったゆりかは何度も問いただしたが、
貴也は「今は時期じゃない。いつか話すよ」の一点張りだった。
その日は高円寺家の面々とディナーを食べた。
翌日は父が仕事のため、貴也をガイドにルーブル美術館、シャンゼリゼ通り、凱旋門、エッフェル塔を見た。
ルーブル美術館はあまりにも広くて、ゆりかがキョロキョロしているうちに、皆とはぐれて迷子になりかけるハプニングがあったが、不服ながら、貴也が見つけてくれた。
「大きな貸しができたね」と天使の笑顔で悪魔の発言をされた時には、ゆりかの背中がヒヤッとした。
そのハプニングの後、兄は文句を言いながらもずっとゆりかの手を離してくれなかった。
その翌、翌日にはモンサンミッシェルに行った。
今度は父も一緒だった。
海に浮かぶ島にある教会だ。
潮の満ち引きで、道が現れたり消えたりする。
島全体が教会でとても神秘的だった。
貴也のすすめで有名だと言う名物の巨大オムレツを食べた。
日本にも上陸したらしい。
今度食べに行ってみよう。
その他にもマルシェで買い物したり、パリのオペラ座でバレエを観賞したりした。
ヨーロッパ旅行は大満喫となり、貴也よりも1日早く、先に帰国の途に着いた。
*****
日本に着くと今度は悠希が空港の到着ロビーで待ち構えていた。
腰に手を置き、仁王立ちをしている。
その後ろにはお付きの人も控えていた。
「帰ってくるのが遅いぞ」
あまりにも偉そうなので、ゆりかは見た瞬間に吹き出してしまう。
「貴也君よりは早く帰ってきました」
「1日しか変わらない」
悠希が膨れていた。
「おや、明けましておめでとう!
悠希君まで、ゆりかに会いに来てくれたんだね」
父が後ろから声をかけてきた。
「明けましておめでとうございます、おじ様、おば様、隼人さん」
悠希がそのとなりにいた母と兄にも深々とお辞儀をする。
この辺りの礼儀作法がきちんとしているのは、御曹司らしいとゆりかは感心してしまう。
「まさか正月早々に許婚殿が迎えに来てくれるとはね。
パリでは貴也君が出迎えてくれたし、ゆりかには王子とナイトがいるみたいだ」
兄がふいにへんなことを言うので、ゆりかは思わず目を白黒させてしまった。
「王子とナイトって…2人はそんなんじゃないです」
悠希も怪訝な顔をしている。
王子って悠希君?
ナイトが貴也君?
頭の中で悠希にかぼちゃパンツた冠を、貴也には中世ヨーロッパの甲冑を着せてみる。
面白いかも…。
でも、ないな。
そんなロマンチックな男たちではない。
「貴也とパリで会ったのか?」
悠希が腕組みをしながら、眉間に皺を寄せて話しかけてきた。
「そうなのよ。
貴也君にきいてないんですか?
和田のおば様にスケジュール聞いたって言ってたから、知ってるかと思ってました」
「俺は聞いてない。
…だったら、俺も行ったのに」
悠希の顔がますます不満気な顔になる。
な?!
悠希君まで来たら、大変!
悠希の不機嫌を察知したのか、すかさず母がフォローを入れる。
「あら、だったら、今度の春休みにでも3人でお出掛けしたらどうかしら?
年始は和田様のお家も親戚への挨拶回りで忙しいでしょ?」
「…そうですね。
是非そうしたいです」
悠希はニコリと母に微笑み返す。
本当は何かまだ言いたいのだろうが、近頃の悠希は人前では物分かりが良い子になってきた。
「ところで、せっかく迎えに来たから、ゆりかさんは僕の車で送ってもいいですか?
冬休み中の話も聞きたいので」
悠希はゆりかの腕をくいっと引き寄せた。
「え?!私はうちの車でみんなと帰り…」
「ゆりかちゃん、せっかく悠希君が来てくれたから、一緒に帰ってらっしゃい。ね?あなた」
母がゆりかの言葉を遮り、父に同意を求めるが、父も半ば強制的に母に返答させられている。
「ああ」
「じゃあ、決まりね!ゆりかちゃんは悠希君と帰ってきてね」
母はそう言うと、父と兄の腕を引いて行ってしまった。
その後を追うように秘書の高橋らが追っていった。
「じゃあ、行くか」
悠希が顎で合図し、先に歩きだす。
「はい」
ゆりかも悠希の後を追った。
悠希の家の車はゆりかがよく使用している車同様、黒塗の5人乗りの車だった。
お付きの人と運転手さんが同乗し、悠希とゆりかは後部座席へ座った。
車に乗り込むと悠希がひどく不機嫌そうに、肘を窓際に置き外を眺めているので、ゆりかは悠希のご機嫌取りに徹するしかなかった。
「お迎えに来てくれて、嬉しかったです。
今度は3人でどこかへ出掛けましょうね?」
「3人?ゆりかと貴也はパリで一緒だったんだろ。
なら俺もゆりかと2人で出掛ける」
はい?
この人はまた何をイカれたことをおっしゃっているのかしら?
私にガキンチョの面倒をマンツーマンで見ろと?
「パリでは家族もいました」
「それでも貴也と2人きりになる場面はなかったのか?」
「…あ、あったかしらぁ?」
あった。
カフェでお茶した。
そして前世の記憶があるとカミングアウトしたのだ。
これはいくら悠希君にも言えない。
ゆりかは瞬間的に嘘をついてしまい、明らかに声が裏返って目が泳いでいた。
嘘はどうも苦手だ。
「嘘ついてるだろ。
目が泳いでるぞ」
悠希にズバリと言い当てられる。
「いつもあいつばかりそばにいて、いざとなるとお前を守ってる」
「そんなことないです」
いつも3人でいると思うし、パリでも貴也君は自分はずっと悠希の味方なんだと言っていた。
私に対してはなにも思っていないはずである。
なのに何を悠希君は言っているんだろう。
「俺は名前ばかりの許婚はいやだ」
ゆりかは悠希の言葉にドキッとして、振り向く。
悠希は窓の外を眺めながら、言葉を続けた。
「王子だけじゃなくて、ナイトにもなりたいんだ」
悠希の顔は見えなかったが、耳が赤かった。




