パパの警戒
「ゆりか!
卒園おめでとうー!」
着替えを済ませてリビングにいると、仕事から帰ってきた父親が花束ごと突進してきた。
わっぷ!
「パ、パパ、ありがとうございます」
あまりの父の勢いにゆりかは一歩後退する。
「今日は卒園式に行けなくて、すまなかったね。
どうにもはずせない用事があって、せめて食事会はと思って急いで帰ってきたんだ」
そう言いながら、大きな花束をゆりかに向けた。
「改めて卒園おめでとう」
「綺麗なお花ね!」
「ゆりかの好きなガーベラも入ってるよ。
ゆりかの部屋に飾ってもらおう」
父は使用人を呼び寄せ、花を飾るよう命じる。
「それにしても今日のゆりかはいつにましても可愛いらしいね」
父は目を細めニコニコしている。
「この服、先日お母様と買い物に行って選んでもらったんです」
「さすがママだね。
可愛いゆりかがより可愛いくなる服をよくわかる」
パパが顎に手を当てマジマジ見つめた。
今日の洋服はベージュ色のレースのワンピース。
ウエストにリボンがついて可愛い。
しかも今日は髪を巻いてもらいハーフアップにしてもらった。
パパがあまりにも褒めてくれたので、
えへへっとクルリと一回転してみた。
「そんなに褒めるとゆりかが調子にのりますよ」
兄がワイシャツの袖のボタンを留めながらリビングに入ってくると、その後ろにはママの姿もあった。
「うふふ。そのワンピースゆりかちゃんにぴったりだと思ったのよ」
今日の兄はスーツ、母は卒園式のときのスーツから品の良い紺色のドレスに着替えていた。
「さあ、あなたも早く支度してきてちょうだいな」
母が父の腕を引っ張り、リビングから連れ出す。
「ゆりかちゃん、隼人さん、パパの支度できたらもう出発よ」
母がやたら楽しそうに告げた。
なんだろう。
母が張り切っている。
…うん、やな予感しかしない。
なにか企んでいる?
*****
父の準備ができ、運転手の狩野が運転する車に乗り込んだ。
人数が多いので、今日は父専用車を使う。
ちなみに父の車のはリムジンである。
今日の会食は高円寺家、和田家、そして相馬家も出席予定だった。
極々身内だけ…ということだが、ゆりかは相馬家のことはあまり知らない。
今までにも何度も休みの日に遊んだことがあるが、いつもゆりかの家か悠希の家で遊んでいたし、付き添いはいつも貴也の叔母である和田母であった。
「今日は貴也君のお母様もくるんですよね?」
「貴也君のお母様は今日お仕事で出席しないそうだよ。
フランス支社を任されていて、今は日本よりフランスにいる時間のが多いらしいからね」
父が説明してくれた。
お母さん、フランス人とのハーフって言ってたもんね。
6歳なのにお母さんが側にいないって寂しくないのかな?
私が母親だったとしても、6歳の息子と離れるのは寂しいと思う。
「じゃあ、今日はさっき会った貴也君のお父様だけがいらっしゃるんですね」
そう私が言うやいなや、父の目つきが変わった。
「貴也君のお父さんに会ったの?!」
「え?はい」
私が頷く。
「まさか、優子さんも?!」
父の質問の矛先が母にも向く。
「ええ、卒園式で」
母の両肩をガシッと掴んだ!
「何された?!」
「はい?」
「だからあの軽薄男!」
「はい?」
母が小首を傾げていた。
軽薄男?
母とゆりか、兄がぽかーんとする。
「ああ、そういえば…ママを美しいって言ったり、私の頭を撫でて貴也君に注意を受けてたような」
私が思い出したかのように言うと、父が今度は私の頭を掴んだ。
「?!」
「頭を撫でただと?!
僕のゆりかの頭を?!」
ハンカチをポケットから取り出すとゴシゴシ拭かれる。
「パパ!やめて!髪の毛グチャグチャになっちゃう!」
「きゃー!あなた!せっかく綺麗にしたのに!」
「父様!」
あまりの騒ぎに、運転手の狩野が運転席との仕切りをあけ、「わー!旦那様?!」と叫んだ。
狩野の目に、彼の主人である父がその息子に両脇をホールドされている状況が飛び込むと、狩野は目を丸くさせた。
「父様、相馬様は頭を撫でただけです!
落ち着いてください!」
兄に諭され、父ははっとしたようだった。
「あ…ああ、失礼、取り乱した」
そう言うと、父は一度咳払いをし、平静を取り戻したような顔をする。
「いいかい?
相馬氏のことは昔から知っていてるが、軽薄な男なんだ。
優子もゆりかも隙を見せたらダメだよ?わかった?」
グッタリしたように母とゆかりは「はい」と返信をした。
どうやら、パパはフランスナイズされた相馬父を警戒しているようである。
いつも稚拙な文章を読んでいただき、
ありがとうございます!!
今回も話しがあまり進まず、
ダラダラとパパの小ネタになってしまいました。
優しくて甘い素敵なパパが少しずつ崩れてきました。
人は深く知れば知るほど、奥深い生き物なんですね…
次回はようやくお食事会です!