8.悪い予感
次の日。
俺は、パーティーメンバーたちとゴブリン狩りに来ていた。初心者にはいい経験になる、とゴリラに言われたので。
異世界ゴリラって喋るんだ。
今更だけど。
ゴブリンを狩りに森へ行く最中、草原でビートがつぶやくように言った。
「ん、丁度いいね。スピードラビットだ」
前を見ると、確かに兎がいる。まあまあ遠くに。
「取り敢えず、どれくらい動けるのかだけでも見ておきたいから。ルイ、あれ捕まえて見てよ」
「ああ、分かった」
50メートルほど先にいる兎を見据える。
取り敢えず、近づく。
どのくらいで気づくかな。
少しずつ、近づく。
少しずつ、足音を立てずに。
少しずつ、少しずつ……
「!!」
シュバッ!
気付かれたので、足を踏み込む。
姿勢を低く、飛ぶように、
走る。
走る。
右に行った。
走る。
左に曲がった。
走る。
とにかく速く。
そして、
追いつきそう、と思った瞬間。
クルッ
と、こちらの股をすり抜けようと、急に方向転換。
こちらへ向かってくる。
急いでバックステップを踏み、着地と同時に、キャッチ。
随分と速く動けるな、この体は。
どうなってんだろ?
「うん! やるじゃん! 身体操作LV5を持ってるだけあるね!」
「おう、確かにな」
ありがとう、ゴリラ。
カグヤを見ると、ドヤッとした表情を浮かべている。なんで?
「当たり前じゃない! ルイなんだから!」
「うーん、流石だね! カグヤの彼氏!」
「ふぁ!? あ、うん……そう、私の彼氏……」
俺を褒められたカグヤは、俯きながら照れている。
まぁ、評価を受けるのはありがたい。この調子でゴブリン狩りに行くか。
/////
「あ、いたよ、あれだ」
森を歩いていると、急にビートが、進行方向に指を指す。ビートの指差す方向にいたのは、
ギャイギャイと鳴いていて
耳がとんがってて
醜悪な顔をしている。
子供サイズの化け物だった。
すげぇ、ゴブリンだ! 初めて見た。いや初めてでなければおかしいけども。
興奮していると隣にいたカグヤがアドバイスをくれる。
「アレ、あんな見た目だけど、一般の大人の人と同じくらいの筋力持ってるからね。油断しないでよ」
「ああ、なんか狩るコツとかある?」
「そうね……」
腕を組み、むーんとうなりながら出したカグヤの結論は、
「囲まれないように。以上!」
知ってた。まぁあまり期待はしていなかったけど。
すると、ビートが苦笑いしながら続いてアドバイスをくれる。
「僕たちは剣持ちだから、参考になるか分からないけどさ」
うん、あそこで自分のアドバイスを無視されていじけてる奴よりかはマシだろ。
「あいつらも僕らと同じくらい、恐怖を持つから、躊躇なく行ったほうがいいよ。いざとなったら助けに行くし」
ナイスアドバイス。
じゃあ行って来ます。
取り敢えず近づこうか。
ザッ、ザッ、ザッ、
あ、気づかれた。予想より早かった。
武器は持っていない、対象は3匹。指を立て、クイックイッと挑発。
「グギャグギャ!」
「ギィィイイ!」
「グギャギャ!」
こちらへ走ってくる。
囲むように走ってはいない、極めて直線的。
狙いを定めて、右手の指を四本立てる。
親指も立てる。
そうして構え、
そのまま、先頭の目のでかいゴブリンに親指と四本の指で、
目潰し。
目の奥まで貫いた右手から、ぐちゃりとした感触が伝わる。
それをぬいて息をつき、周りを見る。
両ゴブリンが、怯んでいる。
ので
右のゴブリンに向かって
左足を踏み込んで
殴る!
バキッ!
吹っ飛ぶのを確認し、急いで振り返る。
と、目の前に
緑色の拳
⁉︎
体を右に捻るぅっ!
掠る。
そして右半身を戻す反動で
掌打。プラス、ファイヤーボール。
吹っ飛んでくれた。
ふぅ、
周りを見ると、
両目のあった穴を抑えながら、転がっているのと、
顔が半壊して転がっているのと、
少し前方にお腹の焦げているのがいた。
凄惨。
取り敢えずしっかりと全部にとどめをさす。
……気持ち悪い、俺の体、体液だらけだ。
「すっっっご!」
リリがこちらを興奮した様子で、見ているのが見える。すると後ろから、ビートとゴリラが出て来た。
……野生?
「……正直、いつ助けるかばかり考えていたけど、凄いね。ゴブリンは体が脆いとはいえ」
「お前、異世界で何やってた?」
唐突に質問を投げかけられる。
何やってた……
「死ぬ気で合気道やってましたね」
小四で辞めさせられたけど、文字通り死ぬ気でやってた。
「アイキドウ……?」
「あっちにはそういう武道があんのよ。それよりルイは体洗って! 帝都に戻るわよ!」
誇らしげなカグヤに言われるがまま、川で体を洗い、帝都に戻った。
だからなんで誇らしげやねん。
/////
「まだ12時ね。ルイ、どこか行きたいところある?」
「こっちでも12時って言うのか」
俺たちは、ビートたちと解散し、ギルドの椅子に座っていた。
椅子と机はファミレスのように配置されてあら、ギルドに入って左側がそういうスペースになっている。
「そうね。というかあっち何も変わらないわよ。年の表し方も、一年も、長さの基準も」
コクッ コクッ
カグヤは、頼んだ果実水を飲みながら、なかなか驚くことをいってくれる。
随分と昔から転移者は居たんだな。単位決めるレベルってどんなんだよ、時間ずれすぎ。
それはそうと、行きたい場所か。
「そうだな、図書館、みたいなのに行きたいな」
「分かったわ」
カグヤは「ちょっと待ってて、」と席を立ち、木の樽のようなコップを戻しに行く。
大人しく待っていると、視界に気になるものがあった。
受付の辺りで人だかりができている。
確かあそこは……
ギルドは上から見ると、十字キーの下をなくしたような形をしている。
あれだよ、テト○スのやつみたいな。
その左は先程言ったように、飲食スペース。
右は二階に続いている。
そして正面に受付、獲物の換金所。
その正面の右に、依頼書。
左に新聞が張り出される。
いまひとだかっているのは、左。新聞スペースだ。
席を立って、その人だかりに近づき、「どうかしたんですか?」とたかっている1人に聞いてみる。
「ん、ああ、なんでも獣国で、揉め事が起きたんだとよ」
みんな仲良しの国、と聞いていたけど。まあ揉め事くらいあるか。
「最初に産まれた選子が、追放されたんだとよ。悪魔の子だ、ってな」
色々知らないのが出てきた。
選子、悪魔。
なんなんだろ。疑問に思っていると急にそのおっさんの雰囲気が変わり、
「そんな事よりよぉっ……」
ニタァ……! と笑い、
「嬢ちゃん可愛い顔してんじゃねえか」
絡みつくような、気持ち悪い視線を向けられる。本当に気持ち悪い。ノンケな俺は思わず顔を顰める。
それを見た男はより一層その笑みを深める。
どうしよっか―――
「ちょっと! 待っててって言ったのにどこ言ってんのよ!」
「グエッ!」
後ろの襟を引っ張られて、思わず呻く。
「早く行くわよっ! 図書館!」
「分かった、分かったから引きずるなっ!」
まあ、でもちょうどよかった。おかげでおっさんから逃げることができぐぇっ。
ポカン、としているおっさんを尻目に、ギルドを出る。
ギルドから出たあと、思い出したようにカグヤと会話を交わす。
「なあ、鉱の所寄って行っていいか?」
「ん、ああ、そうね」
武器屋に着いて、スキンヘッド氏に許可を取って鉱に会いに行った。
「刃目っ! ルイを連れてきたわよ!」
工房、と言えばいいのか。とにかく鉄でできたような部屋の中でカグヤが叫ぶ。
すると、奥の方から頭をかきながら長身の男が出てきた。
「お、ルイ、久し振りだな」
「ああ、そうだな」
挨拶が淡白。俺からしてみれば、昨日ぶりって感じだけどな。
「よく来たな、まあ、座……るか?」
「当たり前でしょ。ほら、椅子を」
「あ、いや別に長居するつもりはないけど」
一回一目見ておこうと思っただけだしな。
「だろ? ルイ、ウチに来ても暇してただけだったしな」
「ええ!? いやほら、積もる話とか、あるんじゃないの?」
積もる話、か。その前に。
「積も…る? よく分かんないがルイ、話あるのか?」
ほらやっぱり“積もる話”が分かってない。カグヤが鉱、いやコウを見て呆然としている。
「いや、積もらない話もないから今日は帰るわ」
「そうか、積もらない話もないのか」
「なんの話してんのよ……」
そんなこんなで一、二言交わして工房を出た。
/////
「ああ、カグヤに聞きたいことがあったんだった」
「何?」
「“選子”ってなんだ?」
「選子? ああ、獣国の」
そうね〜、と歩きながらカグヤは考え、話し出す。
「獣国の偉い人って、強い人で決まるのよ」
それ帝国より脳筋じゃないか。
バトルロワイアルで決めるのか? 恐ろしい。そんなんでよく国になってるな、と思いつつ話に耳を傾ける。
「だから、神狼族の一族が、一番偉いとされているのよ」
「神狼族?」
「フェンリルってわかるでしょ?」
ああ、ロマンね。ドラゴンと並んで強いっていう、あの。
それとなんの関係が。
「そのフェンリルと狼の獣人が交わってできたのが、神狼族って言われてるのよ。もちろん、強いわ」
「へえ、見たことがあるのか?」
「あるわけないじゃない。王族みたいなものだもん」
「じゃあなんで強いと」
根拠なしか? アホめ。
と思っていると、振り返りながら怖い話でもするように指を立てて、顔を寄せてくる。
「噂でしかないけどね。神狼族は、赤ちゃんの時点で既に私たちの世界で言う高校生に近い筋力を持つって話なのよ」
は?
カグヤが訳のわからないことを言っている。ついにアホの子になったか。兆候はあったが……
でもそれが本当なら、
「化け物じゃないか」
「そうよ、まあ流石にそこまではないでしょうけど、そんな噂が流れるくらい強いって話よ」
そうなると母胎まで化け物だな。
「神狼族って言うのは、獣人にしては唯一、人間の耳を持つ種族なのよ」
おい、ロマン。がっかりだぞ。
「そんな中、普通の神狼族より強い子を産む事がある一族がいるのよ。
その一族が政治をやっているらしいんだけど、その子を選子って呼ぶのよ。
選子は他の獣人族と違って、魔法も得意なのよ」
あと選子にはケモ耳もあるわ。と言うカグヤの言葉に激しく反応。
ナイス、選子。
「それでさ、さっきの新聞にその選子が追い出されたって書いてあったんだが」
「……この世界には、悪魔と天使がいるのよ」
いや、そんなこと聞いてないけど。
とか思っているとカグヤが真剣な表情を浮かべる。
「その悪魔と契約したのよ、その一族の今代の王の弟が」
ああ、その弟の子が選子だったって事ね。だから悪魔の子って言われてたのか。
悪いやつや悪魔と契約するなんてと思っていると、カグヤはでもねと続け、
「それは、国を盗賊から守るために、仕方なくやった事らしいのよ」
カグヤは俯き、歯噛みする。
ああ、そうなの。じゃあ仕方ないか。悪いやつやなかった。
自分の事のように悔しがるカグヤを横目で見る。今時珍しい、こんなに他人のこと考えれる奴。
こんなんだからモテモテだったんだろうけど。俺どんだけ妬まれたと思ってんの。
と内心愚痴りながら黙って待っていると、悲しそうな表情をしながらもカグヤが顔を上げる。
「獣国はね、悪魔を他の国よりも嫌っているから、理由はどうあれ審議にかけられたんだって。追放か、無罪か」
そこまで私はリリから聞いたわ、と言い、調子を取り戻したようにまた前を向く。
随分と運が悪いな。いや、良いのか?
気を取り直して周りを見ていると、ある事に気付く。この帝都にはいないと言う事に。
「なあ、なんでここにはいないんだ? 獣人とか、エルフとか」
そこまで言うと、またカグヤが少し顔をしかめた、ように見えた。前を向いて歩いているから表情は見えないけれど。
そんな気がした。
「……こことか聖国とかでは、多種族は迫害されるからよ」
「……あるあるだな」
「まあ、本当に毛嫌いしているから奴隷にすらされないけどね」
そこはよかったわ、と幾分か表情が明るくなる。変わった趣味のやつとか居ないのかな。
するとカグヤが急に、
「ルイ、道の脇に寄って。」
言われた通り脇に寄ると、帝都の中心の方からでかく派手な馬車がやってきた。
「コレン公爵の馬車よ、おとなしくしてね。」
勿論。
と思っていると、存外ゆっくりと馬車が通り過ぎていく。
ジッ
視線を受ける。感じる。なんか見られてる気がする。
そのまま馬車が通り過ぎ、暫くすると周りの人が口を開き、動き始める。
するとカグヤも嫌味のように、口を開く。
「ふん、あんなコレクション公爵、崖から落ちればいいのに」
「コレクション公爵? なんだそれ?」
「レアな奴隷をコレクションにしてるって噂があるのよ。ルイも気を付けてね」
調子を取り戻すように、カグヤがおどけて話す。
「それは名誉な事だな」
と、俺はそうやっておどけ返そうとした。
したけれど。
したんだけれど。
その時。
何故だか、どうにも。
どうしても。
纏わり、絡みついてくる悪い悪い予感が。
言わせないぞと言うかのように
語りかけるように
何故か口を開かせてくれなかった。
いつだってそうだ、こう言うのは
後々に絶対後悔する事になるんだ。
ここまで読んでいただいてありがとう御座います。
拡散、ブクマしていただけると有難いです。