6.かぐやの災難?②
「……なるほど、異世界人だったのか。どうりで」
「ああ、要するにあの浜辺に飛ばされたってことだろう?」
取り敢えず、入ってきた彼らに事情が説明された。
リリさんの負傷は置いておく。
「そうなんだよ、すごいよねぇ、別の世界の住人なんだよ?
えーっと……そういえば、名前、聞いてなかったよね? なんていうの?」
リリさんが鼻をさすりながら聞いてくる。
少し戸惑ったけど、私は結構信頼しちゃってるし、とりあえずは正直に名乗った。
名前くらいはいいでしょ。
「あ、私は……オリ、オリ・カグヤって言います。先ほどは助けていただいて、ありがとうございました」
「へぇ、やっぱり変わった名前なんだね。それに先ほどって……」
金髪の青年が苦笑いする。
どうしたんだろ?
と疑問に思っていると、ゴリラみたいな男が少し諌めるような口調で言ってくる。
「お前、丸一日寝てたんだぞ?」
「おい、ゴラアっ! 言い方!」
え? じゃ、じゃあ……
思わず身を乗り出す。
「ずっと看病しててくれたって事ですか!?」
「ん? ああ、いや、さすがにそんなことできるほど、懐暖かくないよ」
青年が、少し申し訳なさそうに言う。
いや良いけど。こっちもそんな事されたらいよいよ申し訳なくなる。
「君は、冒険者ギルドに預かって貰っていたんだよ」
まただ、冒険者。
確か、傭兵崩れ、みたいなものだったよね?
記憶をたどっていると、今度はリリさんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「え〜っと、それでね?
ほら、もしさ、カグヤちゃんが危ない人だったりしたら危険じゃん? 冒険者ギルドにも預けられないし、それで……」
リリさんが一拍おく。
私は危ない人じゃないです。
一回累に「かぐやマジ脳内お花畑」とか言われたことはあるけど危なくない。
絶対。
「えーと……鑑定、かけさせて貰ったんだ…」
鑑定? ああ、自動wikiみたいな。
なんで言いにくそうなんだろう?
確かに嫌だけど仕方ないよね、と思っていると、リリさんは意を決したように両手を合わせてあるお願いをしてきた。
「お願い! うちのパーティーに入ってくれないかな?」
……ん?
パーティー?
私が混乱していると、ゴリラさんが前に出てきて話しかけてきた。
「お前、剣術LV5持ってたよな?」
え、何急に。怖い。
混乱していると、ビートさんから説明が入る。
「ああ! えっーと、本当はさ、僕たちにまで鑑定の結果って教えてもらえないんだけど、した人が若くてね。僕たちにまで伝えちゃったんだよ」
「あ、いえ、それは構わないんですけど。剣術、LV5? っていうのが、よく分からなくて」
確かに実家が実家だったから、剣術とかやっていたけど……パーティー、に入る? 私が?
「えっと、ステータスオープンって唱えてみて?」
リリさんに言われた通り唱えると、目の前にそれらしきものが浮かんだ。
「凄い、ほんとにこんなのが……」
単調な日本語で書かれたホログラムのようなそれに触ろうとしても、すっと通り抜けてしまう。周りの物が昔チックなせいで、余計不思議に感じてしまう。
そして上からステータスを読んでみると確かにあった。
剣術LV5。弓術LV2なんてのもあった。
「ね? お願い! どこにも所属してない、若い人でそんなの持ってる人いないんだよ!」
少し、思案する。
そしてビートさんに、ある事を聞いてみる。
「……異世界人に対して、何か国は対応してるんですか?」
「ん、いや、基本は放置だね。昔は帝都でも知識とか取り入れてたんだけど、それを実現できるような人もいなくてね、それに……」
青年は、少し言い淀む。
「……何より、異世界人って半分以上すぐに死んじゃうって話だし」
「……そう言われると、冒険者にはなりたくないですね……」
流石にこっちに来て早々に死にたくはない。
さっき断頭台をイメージしたばかりだ。自ら身を危険に晒すことはない。やめておこう。
断る方向に持って行こうとした時、渋い顔をした私を見て焦ったのか、リリさんが衝撃的な発言をした。
「い、いや、ほら! 今カグヤちゃんと同じくらいの歳の人たちが続々転移してきてるって話だよ!
冒険者でいろんなところ行けば、同じ世界の人と会えるかも!」
「っ!!」
同じくらいの……?
そこまで聞いて、ある可能性に至った。
もしかして、クラス全員が……?
なら、累も……いや、でも……
思考が巡る。
他にも方法はあるだろうし、私はそんな事……
『かぐや』
……え?
思わず顔を上げると、そこは教室だった。
黒板の前で、体育祭の委員長が困った顔でみんなに呼びかけている。
これ……確か…累が初めて私に……
目の前で累と私が隣の席同士で話している。
『おまえ足速いだろ。リレーやれよ。早く帰りたい』
『いやよ。だって必死に走ったら化粧落ちちゃうし、負けるのもやだし。』
『……お前はどっちかというと、化粧ない方が可愛いけどな』
『なっ! にゃにを!?』
『それにお前はこうゆうのやる方が似合ってんだろ。やったれよ』
『〜〜っ! わかったわよ! やってやるわよ!』
『そうしろそうしろ。体裁気にしてるような奴よりな、そっちのお前の方が、俺は“好き”だし』
何事もなさそうに、欠伸をしながらそう言った言葉に、私は―――
―――思わず、顔が緩む。
……似合ってるんなら、仕方ないわね。
ほんっとに、仕方ないわね。
「……最初は」
「え?」
私は、うつ向いていた顔を上げる。
自分でもわかる。
今、私は笑っている。ニヤついてる。
ふふふ……
「最初は、簡単なのから慣れさせて貰って、訓練も、させてもらえるなら……」
はっきりと、言葉にする。
「冒険者、なりますよ」
あいつとあった時に馬鹿にされるのも癪だしね。すると、リリさんがさっきと同じように破顔し、
「ほんとおぉぉ!? ありがとう! カグヤちゃん! いや、もう同じ仲間なんだから、カグヤ!」
「え、ええ! よろしくね、リリ!」
随分とフレンドリー。
お返しに呼び捨てで呼んでみる。すると名前を親しげに呼ばれ、さらにリリの顔が緩む。
「うん! よろしく!」
その向こうを見ると、青年も嬉しそうにしている。
「よろしくね、カグヤ。君が入ってくれて僕も嬉しいよ。自己紹介がまだだったね。僕は……」
そして、ビートだけやたら長かった2人の自己紹介が終わると、リリが顔を近づけてヒソヒソと喋りかけてくる。
「カグヤ、ビートは貴族で、女の子は口説きまくるスタイルだから気をつけてね……って言っても、カグヤは大丈夫かぁ」
「?」
リリがニョッと頰を上げて、
「さっき乙女の顔、してたもんねぇ?」
「んなっ!」
そんなに顔に出てた!?
おもわず顔をペタペタと触ってしまう。
「大丈夫、その人に会うまで、危険な依頼なんて受けないからさ」
リリはニヤニヤしながら、勝手に話を終わらせる。
……ずるい。
「ほら、立てる? 冒険者になるって決まったんだったら、防具とか武器を買わないとね!」
ふぅ、と息を吐く。
私は気を取り直して、リリたちについて行った。
/////
一年が経った。
その間、私はずっと冒険者をしていた。
結構、冒険者っていうのは大変で、いろんなところに行った。
沼地、崖、森にまで行った。忙しい毎日で、でも楽しかった。
聞いてみると、転移者って称号は、転移魔法を経験した人でもつくものらしい。
だからわざわざ聞いたんだ。
累に指摘されたほんのちょびっとのお肉も引き締まった。
ふふん。
そんなある日、ホブゴブリンが、草原に出てきているから討伐してくれという依頼があった。
もう私は、冒険者が板についてきていて、難なくその依頼をこなした。
ホブゴブリンの皮は柔軟性があって売れるので、持って帰ろうとするが、この量を持っていくのは……さすがに。
と思っていたら、ちょうど良く近くで馬車が休憩している。
よかった、こんな量持っていくってなったら門閉まっちゃうしね。
私たちが事情を話すと、快諾してくれた。
荷台に乗ると、先客がいた。黒髪の人だった。
すると、なぜか自分が鑑定を食らっている感覚があった。
犯人はその黒髪の人だった。
なんでも田舎からやって来て勝手がわからないらしい。
仕方ないなぁ。
と、思っていたらその人物はとんでもない爆弾を投下して来た。
「ルイ・ヒスイって言います、よろしくお願いします」
バックン……!
心臓が止まるかと思った。
今、なんて言った?
累? ほんとに?
鼓動が、速くなる。言葉にできない感情が、湧き上がってくる。
思わずニヤついてしまう。
信じられな…あ、なんかニヤニヤしてる、累だ。間違いない。
転移してきた人たちは、顔は変わっていなくとも、そう認識しなければ、同一人物とは分からない。
いや、そんなことはいい、とりあえず2人になりたい。
私はとりあえず累を引きずって仲間たちから離れた。
/////
ステータスを聞いた。
さっき転移して来たというのに、このステータス。
規格外だ。そもそも鑑定を持っている時点でおかしいと思ったけど。
なんでさっき転移して来たのに魔法のレベルが私と同じなわけ? おかしいでしょ。
……でも、ちょっと嬉しい。やっぱり累はすごい。いや、異世界なんだし『ルイ』かな。
すぐにビートたちにルイをパーティーに入れてもらえるよう頼んだ。
ステータスのことを話せば快諾してもらえた。でも勝手にステータスのことをバラしたらルイが不機嫌になってしまった。
ふふふ。
そんな些細な出来事も楽しくて仕方がない。
さーて、これから忙しくなっちゃうなー♪
うふふ♪
こうして、私たちは帝都へ戻った。
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