2.とにかく情報
……ある世界のある草原。
どこを見ても、草。
時折木が立って居たり、川のせせらぎなんかが聞こえてくるがそれは一部。
その草原自体は、ただただ広かった。
本当に広く、まるで――
――今の地球にあるとは思えないほどに。
そんなところで独り言を呟く男が1人。
そんな異世界らしき場所で持ち物を確認している奇妙な男。
「よし、出発前に最終確認」
彼の名前は翡翠 累。さっきこの世界に転移してきた少年だ。
/////
「まずは持ち物確認。大きめの皮袋と、お金。あとはペンに紙と、あと―――――」
こっちに来た時と同じ持ち物。
こっちに転移して来た時と、同じ。
そう、異世界転移したのだ。俺は。
証拠という証拠はない。
そもそもここが異世界だって証明なんて、できない。何でもできるらしい累君でもできないことがあった。後で文句言っとこ。
だが授業中に草原に飛んだとあれば、間違いないだろう。うん間違いない。
もちろん、こっちに転移した時は焦った。
あっちで持っていた持ち物がこっちバージョンで反映されて居なければ、今だってパニクってどうしようもなかっただろう。
反映というのも、例えばリュックが肩にかける革製のバッグになっているとかその程度。
お金は、あっちで持っていたお金から逆算出来る。
所持金は、
銅貨6枚。
おおきい銅貨が4枚。
銀貨が1枚。
地球では、14600円持っていた。全財産は財布内に入れる派が得した瞬間と言えるだろう。
つまり、銅貨が100円。10枚ごとに価値が上がるのだろう。
ここまで現状確認。
ここからがワクワク要素。今の俺は、何もしていなくても楽しい。
理由はある。これだ。
「ステータスオープン」
名前:ルイ・ヒスイ
種族:人間
LV:1
SP:20
MP:81
通常スキル
体術LV3
剣術LV1
鑑定LV1
魔力操作LV1
身体操作LV5
ユニークスキル
言語理解
称号
天才・転移者
いややっぱ異世界来たらこれだろうよ。
試しにやってみてできた時はテンションが倍増した。文字通り、倍増。
そして調子に乗って、手を振り回しながら魔法を試してみた。
あはははっと。
そうして、この魔力操作を手に入れた。
手に入れたら体に何かが流れてるのを感じることが出来るようになった。
おそらく魔力だ。さすがは異世界。
普通こんなに簡単にはいかないはず。
こんな簡単に魔力操作が出来るようになった要因は、多分称号にある。
『天才』
便利だ。恐らく何でも覚えるスピードが早くなるという代物。身体操作は運動センスってことかな。
鑑定は、他人のあれやこれやが分かってしまう能力だろう。
ラノベを読んでれば一発で分かることよ。
他は、誰かに聞いた方がいいだろう。生命線っぽいしな。
ちょっと前にここいら周辺を見た感じ、けっこー大きめで立派な道があった。
とりあえずそこで馬車でも来ないか見てみよう。あの大きさの道だったら頻繁に馬車とかが通ってもおかしくない。
こっちの価値観は知らないけどらお金もある訳だし、交渉は上手くいくだろ。
俺のバッキバキに鍛えたコミュニケーションスキルを身につけてやるじぇ。行こう。
/////
別に待たなくても来た。
やっぱりけっこう頻繁に通るんだろう。手を上げて振ってたら止まってくれた。
とりあえず定番の、
『田舎から来た冒険者を夢見ている少年』
を演じて乗せてもらおう。
乗っている人は見た目は気のいいのおっちゃんだ。いける。
馬車に近づき、おっちゃんの顔を覗き込むように声をかけてみる。目をキラキラさせるのも忘れない。
「あのー、すみません」
「どうした? 嬢ちゃん」
出鼻を挫かれた。
嬢ちゃん……あ、いや言語が通じてる。すごい、嬢ちゃんとか気にならないくらい凄い。
ぜんぜんきにならないわ。
「いや、かくかくしかじかで困ってるんですが、何処か近くの町まで乗せて行ってくれませんかね?」
「近くの街?
ここいらに街はないが、ヘイム帝国の帝都ならあるぞ。そこまでなら俺も今行くところだったからな。乗せてってやるよ」
なんと。ここは帝都の近くだったのか。ヘイム帝国。覚えておこう。
そして乗せてもらえるなら話が早い。やはり優しいおっちゃんだった。
「お願いします」
「あいよ、銅貨5枚な」
優しくなかった。
/////
「いや〜すまなかったなぁ! 坊主だったとは! どうにも綺麗な見た目してたからよぉ!」
「いやいや坊主って! ハゲてるおっちゃんと一緒にしないで下さいよぉ!」
「はっはっはぁ!……今なんつった?」
「剛毛って言いました」
誤解を解いて、おっちゃんに銅貨6枚払った。一枚余分に払ったぶん、道中にお金とスキルのことを教えてもらった。
この世界の金銭は予想通り10枚ごとに繰り上がるらしい。
銅貨、大銅貨。
銀貨、大銀貨。
金貨、白金貨の順に上がる。
単位はオル。
次にスキルについて。
「レベルは大体一つ上がるたびに上がりにくくなる。10までいったらベテランと言っていいな。それ以上は才能どうこうって話になってくる。あと俺はハゲていない」
とはおっちゃんのおっちゃんの言葉だ。
他にも他の国や情勢、種族や大陸のことについても聞いてみる。
「国? あー……そうだな。お前さんも知っている通りな、この世にゃ表立って王様立てて国を作ってんのは人族、獣人族、魔人族ぐらいだ。
そうだなぁ……これがあった方が分かりやすいか」
話しながらおっちゃんは自分の荷物を片手で漁り、一つの紙を取り出して手綱を持って前を向いたままこちらに投げてきた。
それをナイスキャッチする。結構ボロボロ。
「それがこの世界の地図だ。昔の大魔術師様とやらが魔法で作ったんだとよ」
「なるほど、よくこんなもの持ってますね」
「そんなもん誰でも持ってらぁ。いいからそれ見ろ」
おっちゃんに言われるがままに地図を見る。ほうほう。なんか地球の地図に似てる。
〜脳内異世界地図の作り方〜
1.ユーラシア大陸を消す。
2.アフリカ大陸を地図の上につきそうなくらいでかくする。
3.南極大陸を消す。
〜完成〜
饒舌と化したおっちゃんがベラベラ色々と話してくれた。それをまとめると。
アフリカ大陸=ブレイン大陸
北アメリカ大陸=大戦大陸
南アメリカ大陸=魔大陸
オーストラリア大陸=夢大陸
って名付けられており、
☆人間の国
〜ブレイン十王国〜
ブレイン大陸の北の方を一国で占めてる。
クソデケェ大国だ。
王は人間だが、重要な職にも、別の種族が関わってる。
いろんな種族が住んでるらしいな。
〜ホーリー聖国〜
宗教国家だな。
ブレイン大陸の南の方にある。創造神様を崇めてるって話だな。
王と教皇が兼任してんだとよ。
〜ヘイム帝国〜
ここの事だな。
大戦大陸の北西の方だ。とにかく軍の強化を重視してる、脳筋国家だ。
☆獣人の国
〜キング獣国〜
大戦大陸の南の方にある、みんな仲良しな獣人の国だ。
ヘイム帝国との間にゃデッケェ森がある。
☆魔人の国
〜龍国〜
魔大陸の…まぁどっかにある。いろんな種族がいる、と思うぞ。
「……俺は大戦大陸から出た事ねぇからなぁ。ブレインの方はともかく、それ以外にゃ明るくねぇよ。すまねぇな」
「あ、いえ、十分ですよ」
そう言いながら、おっちゃんに地図を返す。
ブレイン十王国か。世界一でかい大陸の大半を占めるって、どんだけだよ。
地球にも似たような国があったけども。
「他にも国はあるがな、超大国っつったらこんなもんだろ。魔人の方は知らんがな」
他の国、と。せっかく来たんだし旅とかしてみたいな。
魔王とかいるのかな。
知りたいことがたくさんある。
「他にも聞きたいことがあるんですが……」
「ん? ああ、構わねぇよ。」
こうして俺は☆ハゲ☆ているおっちゃんとヘイム帝国、帝都に向かった。
/////
「……にしても、坊主は随分と田舎から来たんだな〜。エルフがいるかどうかの確認なんて初めてされたぞ。
冒険者になるんだったら帝都の冒険者のこととか聞かなくていいのか?」
「ああ、そういうことは着いてからの方が良いかと」
「へぇ。しっかり考えてんだな」
……にしてもやっぱいるのか、エルフや獣人。ぜひ会ってみたいものだ。ワクワク要素拡大。
そんな風に考え事をしていると。遠くから金属がぶつかり合う様な音が聞こえてきた。
ガキンッキンッ! キンッ!
「おーみてみな坊主。冒険者の戦いだ」
おっちゃんがそんなことを言って馬を止めた。休憩か。
いやそんな事より、冒険者だと?
俺は目を光らせ、勢いよく馬車から降り、手を目の上に当てて遠くを背伸びして眺める。
すると、広い荒野の向こう側で冒険者らしき人たちとけっこう大きいゴブリンっぽいのが戦っていた。
「あれはホブゴブリンの群れだな。ゴブリンの進化個体だからけっこう強いぞ。つってもあれは、増長した奴らだろうがな。じゃなきゃこんなとこにはいねぇよ」
みた感じ群れと言ってはいるが、4体しかいない。 だがそのプロレスラーの様な体格を見る限りやばそう。
対するは冒険者。こちらも4体。いや4名。しっかり陣形っぽいのを組んでる。
前衛の盾役っぽいおっさんがホブゴブリンの剣を受け、硬直しているところをイケメン&大和撫子っぽい黒髪の女の人が切りつける。
その繰り返しの中、後衛では魔女っ子ファッションの黄色い髪の女の子が何やら詠唱っぽいのを唱えてる。
「………り、敵を貫け! 水槍!」
少女がそう叫ぶと周りに2つ、水でできた槍ができ、残っていたホブゴブリンたちに突き刺さり、一掃した。
いいなぁ魔法。
「グゴギャァァァア!!」
ホブゴブリンたちは叫んで血飛沫を撒き散らす。女の子の方は相当頑張ったのか肩で息をしていた。
相当体力を使うんだろうか。使ってみたいな、魔法。
確かこんな感じで……。
手のひらを広げて水の球を作ってみようと試してみる。
半分以上何となくでやっているので、できる気はしな―――
―――あ、出来た。
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