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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

苦い良薬

作者: 神谷アユム

 その噂は一言で言えばショックだった。好かれている自信があった。時々、月山先輩から感じる、温かい視線。あれは恋するものの視線だと思っていた。

「月山先輩って、――先輩が好きらしいよ。ほら、あの二人ってよく話してるじゃん。――先輩も月山先輩狙ってるって公言してたらしいし」

 確かに、月山先輩とその先輩は、よく話をしていた。しかし、月山先輩の方は決して喜んでいる様子ではなく、むしろおびえているように見えたのに。私の方がよっぽど、好かれていると思っていた。

 部活に入った時から、ずっと気になっていた。黒くてきれいな、長い髪。整った顔立ち。周りの子たちは彼女を、暗くて怖いなんて言ったけれど、その人を寄せ付けない結界の中へ飛び込んでしまえば、彼女はとても優しかった。優しくて、美しくて――私は強欲になった。全部欲しくなった。私は傲慢になった。全部手に入れられると思った。先輩はずっと、私だけに優しく微笑んでくれていたから。

 ずっとその黒髪に触れていたかった。誰にも渡したくなかった。その柔らかな唇に、自分の唇を重ねる妄想は何度でもした。私より少し背の低い先輩を抱きしめて、耳元で想いを告げる日を、私はずっと待っていたのに。

 本人には聞けなかった。聞いたところで教えてはくれないだろうし、本人の口から聞くことの方が、もっとつらく思われた。だから私は。

「先輩先輩! 私チョコレート作ったんです! もらってください!」

 そう言うと彼女は困った顔をして、代わりにあげられるものがないと言った。ここまでは予想の範疇内で、本当はこの後、お返しなんていらないですと言って彼女を抱きしめ、私は先輩が好きです、と言ってしまう予定だった。でも。

 受け入れられない気持ちなら、伝えても仕方が無いと思った。彼女がいつものように優しく微笑んで、私を拒絶する姿など、見たくなかった。

「お返しなんてあとでいいですよ! 先輩のために作ったんですから、受け取ってもらわないと困ります!」

 事実だった。他の友達には既製品を渡していた。手作りしたのは彼女の分だけだった。せめてこの、甘い気持ちを込めた「もの」だけでも受け取って欲しかった。その「気持ち」が伝わらないとしても。

 彼女はしぶしぶと言った様子でチョコレートを受け取り、その場で開けて、一つ食べ、おいしいと言った。

「茜ちゃん、料理上手なんだね」

 そう言って微笑む彼女を、自分のものにできないなら。いっそ壊してしまえばいい。こんな関係ごと。いい薬は苦いのだ。苦い苦い思いを飲み込んで、忘れてしまえば。

「ほんとですか! やったー! これで彼氏にも安心して渡せます! ありがとうございます」

 嘘だった。彼氏なんていなかった。先輩だけが好きだった。でも、それが叶わないなら。私は予定通り彼女を抱きしめて、また嘘を重ねた。

「じゃあ、先輩も頑張ってくださいね!」

 あの人と、お幸せに。私の方があなたを好きだなんてことは、言わない。最後まで笑えていただろうか。あまり自信が無かった。

 笑顔で手を振り、走り出す。苦い苦い良薬は口の中に広がって、呑んでも呑んでも――消えてくれなかった。

 ねえ先輩、私が――先輩だったら、あなたの彼氏に、なれましたか?

後輩ちゃんの方が、どちらかというと自信過剰タイプ、という感じ。


……続きはホワイトデーでよろしいですかね?(

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