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カフェ【 if】の伝説   作者: 名無しの権兵衛
店主と魔の音が鳴るカフェ
4/7

フェス 初日

フェスが始まってから何度目の乾杯の音頭が聞こえたか


窓の外から聞こえる賑やかな音


笑い声と共に色んな音楽が奏でられているそれは正にお祭り騒ぎであった


デモンストレーションや絵画をストリートで手掛ける者が居れば、酒で顔を赤らめて笑いながら話す者も居る


未成年といった者達は露店を覗いては掘り出し物を見つける様に買い物をしたりする


仮装しては街中を彷徨ったり、お洒落をして探索をしたり


警備を請け負う騎士達は盛り上がる民達に混ざっては一緒に酒を飲む


飲み食いしてはどんちゃん騒ぎ



そして再び乾杯の声が聞こえた




…………………………………………………………





「こっちがエルフ産オリーブを使った野菜パスタ。そしてこっちが精霊の湖に生息しているティアフィッシュのカルパッチョになります。ごゆっくり。」



出来上がった料理を運び再びカウンターの中にある厨房へと戻るキリュウ


中心街から多少なりに離れてるとは言え窓の外からは賑やかさは十分伝わっていた


もともと静かな場所を選び店を建てのだがフェスが始まれば何処も一緒のようだ


店の中は既に殆どの席が埋まっていた


店の中だけでは無い。即席で用意出来る机と椅子を店の前へと出しそこでも客は座って料理を楽しんでいた



「本当にこの日には大変だな。」


「大盛況で何よりではないかと思いますが。」



呟き小さく吐息を吐くキリュウに一言、カウンターから声が聞こえた



「あれ?バートンさん。いつの間に…」


「空いている席 勝手に座らせて貰ってますよ」


「ああ、そこの席は貴方の場所だ。文句は言わないさ」



そう言うとキリュウは足元にある埋まった取っ手を指で引っ掛けて引っこ抜く様に上へと持ち上げた


するとそこからは冷気とともにキンキンに冷えているエールの入った瓶が並べられていた



「甘めのエールでよかったよな?スワイトランド産のやつ」



スワイトランド…フルーツや蜂蜜の名産の地。小さな国だが国独特の名酒も製作されており、この国から果実や酒を輸入する者は多い。特にこだわりのある蜂蜜酒は高値で取引されているが買い取る者は後を絶たない



「ええ、それで良いですよ。飲みやすくて好きなんですよスワイトランド産は」



キリュウは軽く頷くと細長いグラスをバートンの前に置くと手慣れた手つきでエールを注いだ


そのキリュウの姿を見て柔らかい微笑みを見せるバートンはとても上品であった


見た目の年は大体五十後半から六十前半といった所

椅子の背もたれに掛けてある杖は金品といった者は付いていないがそのデザインは芸術物で職人技が見て取れる

杖がある事から足か腰が悪いのだろうが、座る姿から背筋を成るべく伸ばしているが少し丸みを帯びているところを見ると恐らく腰の方だろう


少しずつ白に染まってる短めの髪は横に流して丁寧に手入れをされている

口元の少なめの髭も色は髪と同様だった


そんなバートンはこの店の超が付くお得意様である



「これはサービスという事で。」



そう言ってエールの横に出された一品


それは今朝方エリナが実食したキコの実だった


ただしそれは丸々そのままで出したわけではない


実を薄く切り、開いた扇子の様に皿の上に葉野菜と一緒に盛り付けていた

味付けはオリーブオイル少々と粗挽きコショウを振りかけるだけというシンプルな味付けだ


真っ白な平たい丸皿に繊細かつ綺麗に盛り付けられたそれは、食材と味付けの色合いが白いお皿にマッチして視覚的にも食欲が唆られるだろう



「おお!新しい一品ですかな?」


「キコの実を俺なりに調理してみたんだ。食べてくれ。メニューにはまだ出していない商品を食べる特権は常連さんだけのものだ。」


「嬉しい事を言ってくれますね。では失礼して…」



軽く笑うと用意されたフォークを手に一口嗜む



「………」



目を瞑りただ黙って口を動かすバートン

葉野菜のシャキシャキ音だけが彼から聞こえる



「どうだ?」



ゴクンと飲み込む音が聞こえたので素直な感想が聞きたいキリュウ



「驚きました。大変美味しいです。…このキコの実に合わせたオリーブ油が秘訣ですね。」


「分かります?」



いたずらっぽく言うキリュウにまたもバートンは柔らかい微笑みを見せる



「ええ、勿論。キコの実自体が結構甘ったるみが感じられますのでそれを葉野菜で補ったんでしょう。ですがそれだと味を薄くするだけ…ですがこのオリーブ油で新しく味を加える事によって一つの品として調和が保たれています。粗挽きの胡椒の一手間も素晴らしい。」


「流石はバートンさんだ。実はそのオリーブ油もそこらのモノじゃあちょっと物足りなかったからな、エルフの森のオリーブを使わせて貰ったんだ。」


「ほう、それはまた珍しい物を…」


「一応エルフの知り合いが居て。そのツテに格安で回して貰ってるんだ。」



この商売をするに当たり、世界中を旅したキリュウにとっては顔が広いとは良い武器である


タメ口でも親しみがもてるカリスマや好感度


それはバートンも理解できるキリュウの人柄から成らざるものなのだろう



「それにしても今日はいつも以上に女性客が多く見られますね」



バートンが店内を見渡しながら言う


確かにバートンの言う通り店内は女性客でいっぱいいっぱいだった


しかも、その一人一人はちょっとうぃた距離感があるが話を打ち解けている姿はあれど女性同士の友達などといった集まりではない様に見える



「ああ、多分いつもの“アレ”だな。ほらもう直ぐで演奏の時間だから…」


「ははは。そうですか。この時間は彼の時間でしたか」



二人は会話が終わると同時にゆっくりとある所に視線を向けた


そこには一台のピアノがあり身だしなみを整えたアズがその隣で佇んでいた





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