新しい役目と異世界探索の始まり
気持ちよく空を飛び続けて居るとやがて一人の龍が追いかけてくることに気がついた。それなりのスピードで飛んでいたつもりだがやはり慣れないからか追いかけてきた龍の方が断然速い。
『見つけたわ、やっぱり大きいと見つけやすいわね』
追いかけてきたのは曾祖母ちゃんだった。一体どうしたのだろう?
『どうかしたの?急いで来たみたいだけど?』
『アナタが山を降りたって聞いたから見送りに追いかけてきたのよ。言いだしっぺのグランドが寂しがるけど男の子は外を知らなくちゃね。けどドラゴンとして産まれたからにはいろいろと覚えなきゃいけない事も多いからその事もあって追いかけてきたのよ』
そういうと曾祖母ちゃんはクルクルと指先を動かして魔法陣を描くとそれを俺の手の甲に引っ付けた。
『どうせ下界へ降りたのだからちょっと早いけど信吾ちゃんには私達の仕事のお手伝いをしてもらうわ』
『お手伝い?それにこの魔法陣は・・・?』
『ドラゴンの仕事には地脈の操作があるわ、その魔法陣は精気や魔力が枯れかけている地脈を教えてくれる探知機みたいなものよ。力を流すだけでいいから割りと簡単なことなんだけど世界は広いし若い子は山から滅多に下りないから必然的に大人の仕事になるのだけれど・・・ハッキリ行って私達みたいな年寄りには長距離を移動するのは辛いのよね、それで前々から若い子に手伝って貰おうと思ってたの』
『そうなのか・・・でも力を流すってどうやるんだ?』
断るつもりも無いが来て早々碌な目に遭ってない気がする・・・。
『ガムランのオチビちゃんから魔法の手解きを受けたでしょう?魔力を体だけでなくその土地を経由して循環させるイメージでやればできるわ』
例えば地面に直接触れている右足を出口、左足を入り口に見立てて魔力を循環させれば右から出て行った魔力が地脈に供給されつつ魔力の流れを作り、勢いを失った地脈の力が左足から己の体内に入って濾過され再び魔力となって右足から出て行くという行為を繰り返す内に地脈は魔力を吸収しつつ己で流れを生み出し、土地全体が活性化していくのだという。人間でも多少は可能だが地脈のエネルギーは人間には純度が高すぎる為体内に入れることができず、瞬間的にしか土地を活性化できないのだという。
『人間にもできるのか?!』
『人間でも何千と集まって頑張ればできなくはないけど頭数に入れるほどの魔術師が数百年経って現れるかどうかじゃあお話にならないからねえ・・・とりあえずこの大陸を建て直すところから始めてちょうだいね』
そういわれてなんとなくガッカリする。植えるは孫の為と聞いたような林業よりも遥かに長いスパンの仕事故にそもそもドラゴンにしかできないことであるから仕方ないのだろうが。しかも大陸?土地じゃなくて?
『どれくらい先のことになるやら・・・』
『一応お仕置きを兼ねてるからねえ、まあ人間の町に行くのも制限しないし必要に応じてドラゴンの力を使いなさい。それが正しい道の上である限りはいかなる事も許しましょう』
ただし、と一言置いて曾祖母ちゃんは続ける。
『貴方が私を曾祖母と呼んでくれているように私も貴方のことを曾孫として大事に思っていることだけは忘れないでね?仮に根を上げて帰ってきたとしても誰も責めないわ、本来それくらい幼龍が下界に降りることは厳しいことなの』
『まあ気張り過ぎないように頑張るよ』
『ええ、それと最低でも年に一回位は帰ってきてあげてね。アインツベルが居なくなったときの落胆振りも凄かったから・・・』
あれだけ初対面の曾孫である俺をなんの躊躇いもなくあれだけ溺愛できる曽祖父ちゃんのことだ。その場面は容易に想像できるがかといって簡単に帰ることもできないしな。
『とりあえず手紙とか書くよ、どうやって届けるかは考えてないけど』
曾祖母ちゃんが頷くのを見届けると俺は再び翼をはためかせ大空を舞う。とりあえずは世界を見回りつつ地脈の調整をやっていけばいいんだろう。
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リイツ王国。小麦や農作物の輸出・加工を中心産業として栄える農業国家。現国王の仁徳と大らかな国民の気質から富裕層の多い豊かで平和な国である。また気候を知る為に発達した魔法から魔道国家としての側面も持ち、農業国家でありながら工業もそれなりの発達を遂げている国である。
「・・・」
王宮の一角で一人の老婆が大きな水晶の前で両手を組み、目を閉じて精神を集中させていた。気候を知る為に発達した魔法には遠くを見渡す千里眼のような能力がある。透視ができない為天気を眺めることしかできないが目的である農業に必要な天気の把握には十分に対応できているため王宮に仕える魔法使いには必須の能力とも言えた。
「雨が降るのは三日後かのう・・・」
老婆の呟きに答えるように傍に控える書記官がそれを一字一句書き記していく。天気は農業主体の王国にとって不可欠である。またこの老婆ほどのベテランになると一週間先の天気を予想できるだけの含蓄と広い範囲の知覚が可能なのだ。
「ふぉぉぉぉ・・・これは!」
突然うろたえ始めた老婆に周りの書記官や補佐の魔法使いは焦りが伝播したようにオロオロとするばかりである。
「空士長殿!いかがなされましたか!」
宮廷に仕える魔法使いの中で遠視に秀でた魔法使いを空士と呼ぶ。空士と呼ばれるには長い研鑽と経験が必要な為老齢の魔法使いを指すこともある。
「白き龍が霊峰から・・・降りてくる!」
「なんですって!?」
書記官が思わず筆記の手を止めて聞き返した。龍、すなわちドラゴンの出現は吉と出れば国家にとって無視できない恵みをもたらすが凶と出たとき国家の存亡に関わる事態になる。
「急ぎ陛下に報告するのじゃ!ワシはこのまま白き龍の行き先を見張る!」
空士の厳しい口調に書記官以外の文官たちは慌しく立ち上がるとばたばたと部屋を出て行った。
「恐ろしく巨大で・・・なんと・・・美しい龍じゃ・・・」
空士の目に映る巨大なドラゴン。それは純白の体に宝石のような輝きを放つ翼を備える美しいドラゴン。伝承では宝石龍と呼ばれる龍の中でも飛び切り強力で美しく、剥がれた鱗は宝石に、体毛は貴金属の糸に、そしてその力はあらゆる病魔を癒し、荒れた土地さえも癒すという慈悲深い存在。しかし慈悲深いが故に一度怒ればそれはすさまじくあらゆるものを吹き飛ばすブレスを吐くと言う。
万病を癒す存在である一方、この龍は何かを癒す為に現れる為この龍が地に降り立つ場所は必ず災厄が起こるとも言われている。