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魔法、魔法ってなんだ?振り向かないことか?!

『魔法・・・か』


ふと言葉が漏れた。あまりに向こうと違う世界に俺は好奇心と得体の知れない物があるという不安が混ざった感覚に立ちくらみすら覚えそうだ。けれど俺の体は少なくともその得体の知れない何かでできているのだ。


『難しく考えても仕方ないか・・・』

『?・・・どうしたんだよ?』


ガムランが此方を不審そうに見つめてくる。


『いや、魔法を使ったことがなくてな』

『なに?・・・いや、あれだけ強けりゃなくてもいいのか』

『なんだって?』

『俺達よりもデカくて力の強い奴なんてそういねえからな』


勝手に納得したようにガムランは腕を組んでうんうんと頷き、ルントを二人掛かりで担ぎ上げながら魔法の使用について教えてくれた。


魔法の使用に当たって必要なのは魔力である。これは走ったり体を動かすのに体力が必要となるのと同様に魔法を行使するのには魔力という物を把握する必要がある。まずは血のように体の内側を流れる魔力を把握するところから始める。バテるだけの体力と違い魔力は把握しないと行使できないということが大きなネックとなり、この時点で躓くものもいるのだという。しかしこの魔力の把握については俺にとって造作もないことだった。そもそも東洋医術には気血という人間の体内には気と血が巡っているという考えがあるので魔力という体の中を巡る構成物を簡単に把握することができたのだ。


しかしそれまでだった。俺にはその先の魔法という概念が厳しかった。


『火が・・・出るのか?』

『掌や指先から出るだろ?イメージしろイメージ』

『こうか・・・ぐぬぬぬぬ!』


手から火が出るなんてどうやったら具体的なイメージが沸くというのか!まだ水や風の回復魔法の方が簡単だぞ。漫画や映画では当たり前の魔法はいざ目の前に立ってみるとまるで現実味がなく、手本としてガムランが放った魔法を目の前で見ていても信じられない。


『回復の方が難しいはずなんだがなあ、龍は個人差はあれど優秀な魔法使いでもあるんだぞ?』


額に青筋と汗を浮かべながら未だに火の粉一つ出せない俺を見て呆れたようにガムランがため息をついた。まるで逆上がりだ。できる奴には簡単でできない奴にはどう頑張ってもできる気がしないあれだ。


『そういったって俺は鍼医者だしな・・・』

『なんか言ったか?』

『なんでもねえ』


突然掌から火が飛び出すのを想像するくらいなら怪我や病気が治っていく経過の早送りの方が簡単に想像できるってもんだ。そういう意味では俺も魔法使いの素養があるんだろうが・・・。


『ルントの顔のへこみは数秒で塞がるのにそれより簡単な筈の火の初級魔法ができないって・・・筋力もそうだが規格外というかなんというか』


尻尾ビンタで顔面が陥没していたルントの怪我も妹さんが心配するので失礼ながら魔法練習の実験台になってもらった。風の魔法と水の魔法を交互に使用すると内出血や骨折にも効果があることが解った。手荒いやり口だと傷口に直接手をつっこんで風の魔法で治すという荒業も可能ということになる。麻酔ナシでは絶対にできない芸当だが。ちなみに妹さんの名前はアルフィというらしい。


そして此処からが重要かつこの世界にはない発見だ。


それは経絡という気が巡る場所の発見である。人間の体にはツボがたくさんあってそれぞれに効能があってそこを突いたり、鍼を打ったり、或いは灸を据えて暖めたりする。本来は書物の知識や経験でしかそれを理解できないのだがどうにもこれが視認できるのだ。この世界では魔力を集中させるとそれだけで多少能力が上がるらしいが自身の集中力と魔力の集中を重ねてやってみるとある一定のラインからまるでレンズが変わったように見える世界が変化するのだ。


『どうしたんだ?こっちをジロジロみて・・・火の魔法はもう諦めたのか?』

『ぬ・・・いや、そういうわけではないんだが・・・ガムラン、お前は他人の魔力の流れを見ることはできるか?』


そういうとガムランはなにいってんだコイツみたいな顔で俺を見る。


『あのなあ、魔力なんてもんは見えるわけないだろ?体外に放出されているものなら外気とかに晒されて多少は見えるようになるがな・・・まあ、血みたいなもんだな。外に出るまでは他人には見えねえよ』


レントゲン写真状態のガムランが呆れたような口調でそう説明してくれる。魔力が何処から産まれ、何処を流れて末端まで送られているのかが手に取るように解るのが当然ではないのか。


『そうか・・・しかし息みたくフーッと吐けたら楽なんだがな』

『そりゃあ楽だが吐いた息が火や水に変わる方がイメージしづらくないか?』


一般的には掌や指といった末端に魔力を集める方が解りやすいらしい。しかしこと火などの魔法に限っては俺はそうは思えないのだ。だってドラゴンは口からいろいろ吐くだろ。そう思いながら俺はヤケクソ気味に天を仰ぎフーッと大きく息を吐いた。


(たしか龍はこういう時口からドバーッと炎が・・・)


ゴォォォォォォッ!

『ぐおっ!』

『・・・!』


巨大な火炎が口から飛び出した。口先から収束して放たれた火炎が徐々に広がって行き、やがて地に放てば軽く自身を包み込むであろう大きさになる。


『馬鹿野朗!加減を考えろよ!』


空中に陽炎を残しながら虚空を焦がした炎が小さくなり、それを呆然と眺めているとガムランに頭を思いっきり殴られた。


『ったく・・・制御できないならおいそれと使うんじゃねえぞ!』


面目ない次第である。ぷりぷりと怒ってはいるがそれが個人的なそれではない事が容易く判るだけに反論の余地もない。しかし魔法というのは実際自分の頭に強烈に残ったものほどイメージとなり魔法として発現し易い事がわかった。

そうなると・・・俺にとって一番イメージし易い物。それは炎を吐くことでも空を飛ぶことでもない。


(鍼・・・)


そう頭に思い浮かべながら掌にイメージを浮かべ、集中する。打つべき場所にミスなく打てば痛みすら感じさせない細く、強靭な金属の鍼。親指と人差し指、中指の先端を重ねて鍼を持つようにイメージする。


『・・・やっぱりこれはできるな、当然っちゃ当然か』

『また変わったことするな、なんだこりゃ?』

『鍼だ』

『針?』


ガムランが珍しそうに俺の鍼を見つめている。針自体はそこまで珍しくないだろうが知らないのか?・・・様子を見るに知らない様だ。


『こりゃ魔力鍼というべきなのか?』

『魔力からできてるならそうでいいじゃねえか?しかしお前は・・・下手な魔法より魔力を形にするほうが難しいんだぞ?』

『あの、兄さんが目を覚ましました!』


そうこうとガムランに魔法の講釈を伺っているとやがてルントが目を覚ましたらしくアルフィが此方に戻ってきた。半壊した玄関を潜って中に入ると曽祖父ちゃんとルント、それに儀式に同席していた龍――変身してからわかったが女性っぽい――が呆れたようにルントを介抱していた。


『うぐぐ・・・不覚を取りました』

『ルント、お前ほどの男が些か浅慮だったのう』


治療自体は大体終わっているが脳震盪が尾を引いているようだ。立ち上がっては見せたものの目に見えてふらついている。


『大丈夫か?ちょっとやりすぎたな、悪かった』

『気にしないでくれ・・・勘違いだったんだ、返り討ちの方が禍根が少なくてありがたいくらいさ』

『そうか?そう言ってくれると助かる』


初回の血の気の多さとは裏腹に返答は大変大人な対応だった。紳士的で大変ありがたい。しかしそれだけで終わらないのであった。






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