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喧嘩してその後!

瓦礫を運んで、外の一角に積んで、運んで積んで・・・。単純作業に没頭しているとふと気になることが。


『俺、何処で寝るんだろう?』


龍になったお陰で高所にも関わらず寒くもないし、風もなんとも無いが寝る場所がないぞ。俺が壊したんだけどさ。


『うおおおおっ!?』


もんもんと考えを巡らせていると上から声が聞こえ、空を仰ぎ見ると何人かの龍が此方を見て絶句している。視線が宮殿を向いている辺り壊れている事に驚いているんだろう。ホント申し訳ないね。


『これは一体どうした事だ!』


龍の内青い鱗の龍が開放的になった宮殿の入り口に降り立つと頭を抱えた。後ろに降り立った二人の青い鱗の龍、おそらく女性とガタイの良い茶色の鱗の龍もソイツほどじゃないが驚いている様子だ。


『こりゃひでえな、何処のバカだ?こんなことやらかしやがって』


茶色い龍が言葉とは裏腹にコロコロと笑いながら視線を上下に動かし宮殿の壊れ方を観察している。よく見ると腕や手に細かい傷跡が残っている辺りコイツはやんちゃな奴なんだろう。


『兄さん、これって事故・・・なのかな?』

『わからんが私達の本拠地である宮殿を破壊する者は早々に処罰されねばならん。最悪追放もありうるぞ』

『そんな、建物は直せば良いんだし・・・』


女性の青い龍はどうやら同色の龍の妹らしい、性格は穏やかそうだ。可愛らしい容姿も相まって異性にモテるのではなかろうか。兄が五月蝿そうな奴だからプラマイゼロの可能性もあるが。龍化して龍達相手に恋愛感情を抱く事も自然にできるようになっているのは驚きだがそんなことはどうでも良い。聞き捨てならん言葉が聞こえた気がするぞ、追放だと?


『・・・あれ?貴方だれ?』


聞き耳を立てていると女性の龍とばっちり目が合ってしまった。そしてその言葉に二人の龍も此方を一斉に向いた。


『貴様見ない顔だな?何処の誰だ?』

『俺か?俺は・・・』


名乗ろうとして俺はふと思い出した。俺はこの世界での名前なんて無い。祖父の名前と一緒に血縁者であることを名乗りたいが確か祖父ちゃんは一度逃げ出して居るんだったか・・・この五月蝿そうな龍に素直に名乗って良いもんか悩むな。


『どうした?』

『いや・・・そのだな、名乗りたいが・・・』

『名乗れねえってのか?』


言い淀むに連れて二人の視線が怪しい奴を見る目に変わっていく。


『するってえと此処を壊したのは手前か!』


後ろめたい事があると見透かされたのか茶色い奴が指をボキボキと鳴らしながら牙を見せる。隣の青い奴も臨戦態勢だ。


『まぁ、落ち着けって』

『うるせえや!土石流のガムラン様がとっちめてやるぜ!』


茶色い奴はガムランという名前らしい。土石流ってのは二つ名か?災害じゃねえか。いいのかこの世界の龍がそれで。


『おらぁ!』


ずんぐりした腕から思いがけず鋭いパンチが飛んでくる。だがコイツはあんまし賢くねえな。俺は視線を腕から首元に移し、右手を素早く伸ばした。


『落ち着けって』

『ウゲッ!』


リーチの差があるのに真正面から来るとはな。右手を相手の喉輪に掛けて押し返すとカウンターの形になりガムランは咳き込みながらたたらを踏んだ。


『ゲホッゴホッ!』

『大丈夫か?無理すんじゃないぞ』


気道への攻撃は結構辛い、激しく咳き込んでいるので暫くは動けないはずだ。そう思い、青い奴を探すと背中に衝撃が走った。ぶつかられたのだと気付いたのは空へと急上昇する青い奴の姿を捉えた時だった。


『ぐっ!いってぇな』

『空を飛ぶ能力において我が一族に勝る者なし!疾風のルント推して参る!』


まるで飛行機の様に急加速と旋回を繰り返しながら青い奴ルントは素早く体当たり攻撃を仕掛けてくる。三次元的な動きに普通なら追いつけない所だが追いかける訳でも無いし何と言っても攻撃が体当たりだけなので迎撃はさほど難しくない、要はタイミングの問題だ。


『空中からの攻撃はどうだ?なんなら飛んでみるか?』

『やめとくぜ、まだ慣れて無くてな』


数回の旋回を繰り返すとルントは加速を重ねながら俺の隙を探っているらしい。


『そこだっ!』


近づいて来たタイミングを狙って俺は後ろへ裏拳を放つ。背中狙いは二度も通じないぜ!


『フッ!早いだけが取り柄ではないわ!』


読まれていたのか!ルントは急上昇し裏拳をかわすとがら空きになった俺の背後に回りこんだ。


『もらった!』

『もらった?それはこっちの台詞だ!』


背中を取れば安全というのは人間相手の話だけだぜ!喰らえ!


『ふぐぉっ!』


俺の尻尾がルントの顔面に直撃する。龍の宮殿に皹を走らせる一撃を喰らっては一たまりもないだろう。ルントは真横に吹っ飛び、俺が片付けた瓦礫の山へ突っ込んでいった。あ~あ、また片付けなきゃならないな。


『はぁ、ついやっちまった・・・そこのお嬢さん』

『は、はいっ!』

『悪いな、君の兄貴ノシちまって・・・入り口まで運ぶから介抱してやってくれるか?』

『あ、はい』


ちょいと怯えた様子だが無理もねえ、兄貴とその友達をボコったのは拙かったな。兄貴の方にいたってはあそこまでするつもりは無かったんだがな。


『おい、ガムランとやら。大丈夫か?』

『ゲホッ・・・あぁ、まだチョイと苦しいがな』

『そうか、ちょいと我慢してろよ・・・そらっ』


先ほどとは違う箇所を掴み、関節の歪みを直して気道を確保してやると幾分か楽になる。どうやら先ほど無意識に首の関節を弄ってしまったらしい。骨格というのは精密機械のように完成されていて僅かな歪みがとんでもない弊害をもたらす。それが首などの急所ともなると即効の効き目がある。


『うぐっ、ふぅ・・・ふぅ・・・ありがとよ、だいぶ楽になった』

『気にすんな、大したことじゃねえ』

『しかしどんな魔法を使ったんだ・・・?お前に突き飛ばされた瞬間から息苦しくなったと思ったら次はあっという間に楽になったぜ』

『ちょっとしたラッキーパンチだ』


魔法じゃないんだけどなー、まあ、言ってもわからんかもだし・・・そもそも俺は出自を明かせないから聞かせられんのだよ。すまんね。納得いってなさげだが勘弁してくれ。鍼灸と整体の妙技はこの世界にあるのだろうか?


『ところで・・・魔法とか言ってたがこの世界には魔法があるのか?』

『なんだ藪から棒に』

『お前さんが変なこと言うからだ。それよりどうなんだ?』


さらに変な顔をされたがガムランという男は割りと良い奴だった。この世界に存在する魔法というものを教えてくれた。


魔法とはこの世界に存在する元素。火、水、土、風の元素から構成される俺達の世界にとってはある意味馴染み深く、それでいて未知の学問であり技術である。

この世界では全ての科学技術は魔法によって代替されているので文化や技術レベルは中世に近いらしい。家事レベルの魔法なら大抵の人間が使える為科学なんて七面倒くさい物は発展しないのだろう。

より簡単に火がつき、温度調節の容易な火の魔法があればマッチもライターもコンロもいらない。向こうでは科学がそうだった様に此方では火の魔法がガスの代わりに、水道の代わりに水の魔法があるのだ。そして医療には回復魔法なるものが存在し、風と水の二種類がこの魔法を有し風は外部から、水は内部からの治療を得意とし風は外傷水は解毒に特化しているらしい。解毒には病に作用するものもあるそうだ。つまり医療も魔法で片付くので発達してないな。


『だがまあさっきの一撃がラッキーパンチで良かったぜ。水と風の魔法を掛けても効果が出てなくてかなり焦ったからな』

『そうなのか?』

『ああ、あんまり得意な魔法じゃないがそれでもそこらの人間よりかは使える自信があったんだが・・・』


うーむ、ということは整体とかが必要な体の異常は治らないってことか?まだまだ調べる必要があるが・・・この世界にはとりあえず鍼灸と整体の需要はあるみたいで安心したぜ。





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