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お宿に泊まろう

とりあえず文字はおいおいアキナ達に教えてもらうとしてとりあえず飯だ飯。

宿ではギルドから買えるらしい新鮮なお肉が沢山食えた。ステーキが安いなんて個人的には凄く嬉しい。この際何の肉かは気にしないで置く。


「美味しい物をたくさん食ったし、明日はこの土地におかしいところが無いか少し調べてのんびり観光と洒落込もうか」

「わかりました」

「うん、わかった」


急げと言われた訳でなし、困ってる人がいるなら別だがアルカンの都市には服装や履物が質素な人は居ても貧相な出で立ちの人間は居ないし時折頭が犬やら熊やらの獣人達も居たが皆服装の貴賎も様々だった。

とどのつまり此処は非常に住みよい都市だということだ。それが表向きにしろ俺にとっては其処まで関係ない。和を以って貴しとなす、だ。

それになによりこの国の人達は以前からアキナ達龍の巫女を保護し、国教にすらしてくれている。そして彼女たち龍の巫女が、少なくともアキナが善であれと努めて居る内は俺は彼女達の味方であり身内であるべきなのだ。


「・・・」

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと柄にも無い事を考えてただけさ」


部屋の鍵を受け取って二階にある三人部屋へと向かう。複数人で泊まれる広い部屋がある辺りパーティ行動の多いらしい冒険者に優しい配慮である。


「ふわぁ・・・やっと人目を気にせず眠れるぞ」


宿には鍵付きなので滅多なことで他人が上がりこむ心配はない。前回の宿屋は質こそ良かったが田舎気質でプライバシーに頓着がなかったから大変だった。

鍵を閉めて荷物を投げ出すと俺は大きくならないように配慮しつつ正体を現した。


『人間の姿こんなに窮屈に感じるってのは不便だな』

「お疲れでしたら先に休みますか?私達も今日は少し疲れましたし」

「へぇ、ドラゴン様っていうのは知ってたけど旦那様はやっぱりドラゴン様だったんだね」


今、何言ってるかわかんないよ。とクラウディアが目を丸くしている。そういえばドラゴンの言葉がわかるのは教会の一部と龍の巫女だけなんだったか。


『お前は―、っと・・・お前は俺を何だと思ってたんだ?」

「いや、その・・・カッコいいとは思ってたけどこんなに綺麗な姿をしてるとは思わなかったし」


頬を染めながら言うクラウディア。こっちまで恥ずかしくなりそうだ。


「可愛い事言いやがって、このこの!」


首を伸ばして鼻先を擦り付ける。ドラゴンになってから思わずやってしまうことだがどうにもこれがドラゴンの親愛の情を示す仕草なのだろうか?

鼻先や顎下から首の付け根辺りまでを好きな相手に擦り付けるとどうにも気分が良くなるのだ。


「ず、ずるいです!私も!」


クラウディアを愛でているとアキナもそれに加わってくる。ちょっと恥ずかしそうなのが初初しくてとてもよろしい。俺達はそれから疲れて眠るまで存分に彼女達を愛でたのだった。






「ドラゴン様はまだ見つからんのか・・・」

「ただ今空士様が探していますがどうにも陸路を移動されているようです」


所変わってリンツ王国の宮殿、リンツ王は大臣にそう零した。空士は数週間前に天空より舞い降りる白銀の龍を目撃するもアクサ村の付近で見失ってしまってからはとんと音沙汰がないのである。

付近の領主であるグンゼ領主、デイビット・グンゼに付近の捜索をさせたが特に変わった物は見つけられなかったとのことだった。


「アクサ村の近くに住む龍の巫女も当代の巫女は今修行の旅に出ていると言うし、どうにも困ったものだ」

「もしかするとドラゴン様は人にまぎれてこの国に居るのかもしれませんな」

「そんなことが可能なのか?」


王様の問いかけにあくまで憶測ですがと前置きをして大臣は続ける。


「どういう訳かは解りませんが恐らく目立つ事を良しとしていないのではないでしょうか?それ故にドラゴンの姿では目立つのでアクサ村付近で人か何かの姿をとって空士様の目を掻い潜ったのではないでしょうか」

「ふむ、確かにいかに空士様殿が数キロ先の書物を読み解く脅威の千里眼の持ち主とはいえ真贋を見抜くことは出来ないだろうからな」


熟練の空士は雲の流れや遠くはなれた場所の天気すらも言い当てるが例えば其処にある物が偽者か本物かなどといった知識や魔力の感知・識別など他の専門知識が必要な物の識別は当然出来ないのである。よって例え空士が対象の人物や物の形や特徴を知っていても姿を隠したり、箱や建物の中などに隠れるなどすれば解らないし、そもそも凡その心当たりが無くては探すことができない。


「それでは探し様がありませんな・・・」

「うむぅ・・・そうなるとやはり龍の巫女を呼ぶより仕方あるまい、各関所に通達して龍の巫女が居たら王城へ向かうよう手配してくれ」

「畏まりました」


大臣は恭しく頭を下げると王の間を出て王宮騎士の中から自分が独断で動かせる人数を招集した。集まったのは数人きりであったが軍や騎士を動かす権利を本来持たない文官の大臣が動かせるのは彼がそれなりに地位のある存在だからである。


「オルド大臣、近衛騎士隊、第一小隊長オットー・クリンツ以下三名参上いたしました」


青一色の鎧に身を包んだ騎士が膝を着き、頭を下げる。近衛騎士は皆青色の鎧を支給される。この色こそこの国では騎士の頂点であり精鋭、エリートの証である。


「うむ、今回呼んだのは外でもない下手をすると国家の存亡に関わると言って過言でない事態である」

「と、いいますと?」

「ドラゴン様が天空より舞い降りたのだ」


オルドの言葉に精鋭で知られる近衛騎士から声が漏れる。ドラゴンが現れると言うことは即ち歴史に残る出来事と言っていいからだ。

そして自分達が出動しなければならないという理由には十分なことである。


「いかなる命にもお応えする所存、しかし我らにどのような事を?」


ドラゴンが出たと言うことは最早人間の手を離れていると言って過言ではない。

暴れているなら個人的な意見なら逃げるのが最良だし、国の為に静まるならお祈りでも何でもするつもりではあるものの講じられる手段は総じて多くない。


「うむ、我が国にはこんな時の為に龍の巫女がいる。アクサ村付近にドラゴン様が降り立ったがもしかするとその地域に住んでいた龍の巫女が何か知っているかもしれん。来るべきドラゴン様の降臨に備えて彼女達に協力を仰ぎ、ドラゴン様の目的を探るのだ」

「解りました、任務を開始します」


騎士達は立ち上がるとピシッと敬礼をし、足早に出立の準備を始めるのだった。



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