ギルドに行こう
それから何回かの野宿を経てようやく次の街、アルカンへとたどり着いた。
相変わらずランドの口数は多かったが流石に到着する頃になると疲労の色が見えていた。アキナ達もそれなりに疲れているようだったが旅慣れているのかそれほどでもないようだ。
「へー、此処がアルカンか・・・」
交流の盛んなリンツ王国の第二の都市。商業が盛んで物流を取り仕切っている商人達が沢山住んでいる。王都から程近く地方と王都とをつなぐパイプの役割を果たしているようだ。
商人なんかは王都よりもアルカンで成功した方が価値があるとかなんとか。王都に居を構える商人はどちらかと言えば引退したか宮仕えの商人で左団扇のご隠居が多いそうだ。そして当然と言うべきなのかはわからないが貴族や魔法使いが多いので商業などのにぎやかさが忌避される傾向にあるとか何とかでリンツの王都は別名『静謐の都市』と呼ばれているそうだ。
そんな王都とは対照的に商人や物流を支える人足、其処に住む住人達の熱気が都市を覆うように作られた防壁越しに立ち上ってくるようだ。
「んじゃ兄貴、ここいらで俺はこっちに並びますんで」
「おう、わかった」
そう言うとランドは商人たちが並ぶ列の最後尾へと歩いていった。俺達は手ぶらなので大してチェックもされないのだ。
商人は都市に入る際に個人の商人や卸売りは銀貨を一枚、王都からの仕入れなどをしている商人達は特別扱いとして銀貨を外で稼いだ売り上げに応じて納めることとなっているそうだ。
「さて、やっとまともな宿で寝れるぞ」
一応日本で生きてきた身としては野宿なんぞしたくもない。体が固くなる感覚というか・・・龍の体だからそんなこととは無縁だがそれでも出来ることならベッドか布団でねたいもんだ。
それにドラゴンになったせいか時々自分の正体を現さないとなんとなく窮屈に感じるようになった。嫁さん二人が見た目を気にしないから助かるけど結構大変なことだ。
「変身しないとなんだか窮屈でさ・・・早く宿に行きたい」
「ランド達の前では無理でしたしね」
雑踏の中宿を探してテクテク歩いていく。日が暮れる前に入らないと面倒だからな。街で野宿なんてみっともないし。
「宿も大事ですけど、とりあえず旦那様の冒険者登録を済ませてしまいましょう」
冒険者ギルドでは旅人の宿の斡旋等も行ってくれると言う。基本根無し草や旅人の多い冒険者では旅行先の宿に関するトラブルも多いという。
寝る場所が安全か否かで依頼の成否はもちろん、最悪命に関わるため冒険者ギルドは宿屋と提携し、信頼できる宿をいくつかの街に抱えている。冒険者が安全かつ仕事に専念できればそれに伴って依頼主と冒険者双方からの信頼に繋がると言うわけだ。
「じゃあ冒険者ギルドに向かおう、飯も食えるならそこで食っちまおう」
俺がそう言うと二人も賛成してくれたのでクラウディアの先導で冒険者ギルドのある建物へと足を向けた。
「ほえー、此処が冒険者ギルドか」
たどり着いた建物は西部劇に有るような酒場を模して作ったような木造の赴きある建物で、観音開きのウェスタンドアから覗く雰囲気もなんとなしにそれっぽい。
「此処でいいんだよな?」
突然ローンなレンジャーとかローなハイドたちが飛び出してきそうな素敵な雰囲気である。ドキドキしながらも中に入って見ると荒くれ共が酒を飲んだり掲示板らしき物を眺めていたりと大体予想通りの光景が広がっている。
おっかなびっくり屋内へと進んでいくと真っ先に受付を目指して歩いていく。
「ぬ?」
すると程近い丸机からにょっきりと足が伸びている。アキナ達は俺の後ろにいるので引っ掛かっては居ないが男の視線は余りよろしいものではない。
「そんなとこに足を出してると危ないぞ・・・っと!」
「イッテぇ!」
小さくジャンプして踵で踏んづけてやるとその場で独楽のように一回転してから踏み切ってジャンプする。
「てめぇ・・・人の足を!」
「いやあ、悪い悪い」
笑顔で答えてやると足を伸ばしてきたおっさんは顔を真っ赤にして立ち上がった。沸点低いなカルシウム足りてないんとちがうか?
「アイツ、『豪腕のラルゴ』の喧嘩を買ったぞ!」
「うわ・・・エラい事になったぞ・・・」
呆れる俺を尻目に外野たちがなにやらザワザワと騒いでいる。どうやらコイツはそれなりに腕の立つ冒険者のようだ。
「生意気な野朗だな・・・だが俺は優しいからな、後ろの女と持ち物置いて失せるなら許してやるぜ」
「なるほどな、でもお断りするよボケ」
「俺を怒らせるとどうなるか知らないみてえだな」
「面白いモノでも見せてくれるのか?それならもう足りてるから怒らなくて良いぞ、目の前にあるしな」
そう言うとラルゴというらしいハゲゴリラは立ち上がって拳を振り上げる。
ふっとい腕だが随分と悠長なパンチだ。身体能力も底上げされているんだろうが此処まで遅いと返って面白い。
「そらっ!」
「な・・・ぐふっ!」
パンチをかいくぐって腹に一撃入れるとラルゴは腹を押さえて蹲り、汗を流し始める。
「腹が痛いなら始める前に言っとけよな」
「ぐぅううううてめえ・・・何しやがった・・・!」
「そんなことより早いとこ済ませちまえ、漏らすなよ?」
微弱な魔法と経絡のツボを利用して俺はあのゴリラの便通を良くしてやった。痛みを我慢するのは経験で出来るが腹痛はそうは行かないからな。何しろ出すのが普通で我慢することが異常なのだからして。
「くっそぉぉっぉぉ・・・と、トイレぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
哀れハゲゴリラもとい、鋼鉄のラルゴはトイレを済ませるためにギルドの奥へと消えていった。
「腹痛を堪えながら新人イビリとは随分と熱心な奴だな」
カラカラと笑って言ってやると辺りからはクスクスと笑い声が起こった。




